[勝手に芥川研究#3] 山川直人の「澄江堂主人」をオススメしたい
昨日、山川直人の「澄江堂主人」上中下を読了しました。漫画ですが、読むのに2日かかりました。作画的に好みが分かれるところですが、個人的には
活字も含めて最近読んだ本のなかで一番感動しました!
涙なくして読めないシーンも。少なくとも、芥川龍之介ファン的には読んでおきたい漫画だと思います。
澄江堂とは、言うまでもなく芥川龍之介の書斎の扁額です。最初は餓鬼窟でしたが30歳の頃改名しています。
「澄江堂主人」は、昭和二年「歯車」を書くシーンから始まり同年自殺するまでの芥川龍之介を漫画家に見立てて史実に沿って丁寧に描いています。
ひどい胃腸障害や痔疾で肉体的に衰弱する上にあれこれ降りかかる世俗的な災難(文壇のいざこざや女性関係、義兄の自殺や友人宇野浩二の発狂等々。タフな性格なら耐えられるレベルだとしても)で精神的に追い詰められてやせ細っていきながらも漫画(小説)を書き続け、自宅を絶え間なく訪れる友人や作家、お弟子さんたちとの交流を絶やさないその姿は涙ものです。
内田百閒との交流
本作でわたしが感動した点はたくさんありますが、2つあげるならひとつは内田百閒との交流。内田百閒は漱石門下生の先輩ですが、芥川と違ってなかなか本が売れずお金がなくて、再三芥川に出版社の前借り仲裁その他、経済面で頼るのですが、芥川は彼の才能を認めていて褒めて褒めてするのだけどそういう芥川を内田百閒は「コワイ」と表現します。芥川も山高帽の彼を「コワイ」と言います笑。何が「コワイ」のか。このあたりの事情は、内田百閒がたくさん残している芥川に関する(あるいはモデルにした)文章を読まないとわからないので後日にしますが、その関係性が面白い。内田百閒はさきの泉鏡花同様、幻想怪奇の類に入る独特の世界をもつ作家ですので、さっそく積読に入れました笑。
もうひとつは、芥川が自殺した直後に文が芥川に向かって「お父さん、やっと死ねましたね」「お父さん、よかったですね」と笑顔で声をかけるシーンです。ここは思わず涙が出ました。
文さんの追想にはこうあります。
亡くなるまでの毎日いかに壮絶な日々を送っていたか、一番近くで見ていた文さんだからこそ出てくる言葉です。
そして行儀を気にする芥川の性格を熟知しているからの気遣い。うーん、なんという優しさでしょう。文さんは、この後再婚もせず、老人と子供を抱えて60代でなくなるまで芥川家を支えることになります。
かつて芥川は文さんへの恋文でこう言いました。
そのとおりになりました。皮肉なことに文ちゃんよりはるかに利口だった芥川は世の中をうまくわたれず死んでしまいました。文ちゃんは強く生きて子供を育て、3人の息子で文才を父から受け継いだと言われた次男は残念ながらビルマで戦死したものの、残った二人の息子は音楽家と俳優として成功しました。
ちなみに、山川直人という漫画家の作品にも興味がわいてきました。最初は作画に抵抗感があったのですが、読んでいるうちにぐいぐい引き込まれるので、他の作品も読んでみたいと思っています。