もう引退しましたが、かつて翻訳業をしていたときに、悩まされた英単語の代表格がIdentityです。この単語が出てくると、「お!出てきたなこやつ!」と身構えてしまうほど和訳において厄介な単語です。しかも極めて重要な単語なのでおろそかに出来ないため余計に悩みます。
試しに、AIに聞いてみましょう。
二番目の意味は簡単で「身分・身元証明」のことです。問題はそれ以外のほうで英和辞典などでは「同一性」という訳のわからない訳語が出てきます。上の説明を読んでもわかったようなわからないような微妙ですよね。むしろ今では「今の日本人は日本人としてのアイデンティティを失っている」(よく言われますね)というように、そのまま使った方がわかりやすいかもしれません。
英英でAIに聞いてみるとこうなります。
要するに、個人的あるいは社会的に、自分が自分であることを認識するために必要な様々な要素を指すのですが、そんな風にごちゃごちゃ訳せませんし、「同一性」などという分かりにくい日本語も使えません。ですから、翻訳するときには、前後の文脈に合わせて完全に意訳していました。
AIも最後に言っていますね。時とともに進化する複雑で多面的な概念だと。同時に、人間が生きて社会生活を営む上で極めて重要な役割を持っていると。
わたしは哲学には疎いですが、哲学というものは、結局のところこのIdentityを追求する学問ではないかと思ったりします。
また文学的には、安部公房やカフカなどの小説では「身元証明」を失った者、失ったアイデンティティを探す者をシュールに描いていたり、普通の小説でも「自分探し」がテーマとしてよく使われます。ここでいう「自分」というのがおそらくIdentityに近いです。
とっくに引退したので、今は悩まされることはなくなりましたが、小説を読む上でもこの単語を知っておくと役に立つのではないかと昨晩思ったものですから記事にしてみました。
さて、今日は火曜日。わたしは闘病、隠居の身ですので、普段と変わりませんが、ほとんどの方々はお仕事ですね。がんばってくださいませ。