12、 ”積極的沈黙”の時間が訪れる奇跡の時間。英国ヘイスティングスでの実践 #drawinglife
2018年11月。英国にていくつかケアのアプローチをみてきました。少しだけその実践事例の報告を続けようと思います。
ロンドンから約2時間。ヘイスティングス(Hastings)。1066年建立(!)ヘイスティングズ城や修道院が残る、景観美しい港町です。このまちで、高齢者施設やホール、アートギャラリーを舞台として、認知症をもつ高齢者やその家族を対象に、デッサンを用いるアプローチをしている団体【drawing life】があります。この現場を特別に見学させてもらいました。
見学先は、高齢者施設の一階、ロビーにあるホールです。この高齢者施設はごく一般的な施設。drawing lifeのワークショップを始めて3年。毎週1回の頻度で行なっているといいます。
このホールに入るまでのアプローチも興味深い。入居者が共にリラックスできるよう、お菓子や紅茶はもちろん、アルコールだっておいています。
drawing lifeは、NPOとしてロト団体から助成を受けて活動しています。(主宰者のJudyさん曰くこの助成を得るにも大変な苦労があったといっていましたが、近年高齢者向けの支援の注目も上がってきたといいます。)
プログラムは、教師役でイタリア人のPatrickさんの声で始まります。
「さあ 始めましょう。みなさんご機嫌いかが?」
リラックスした状態でワークショップが始まります。今日描く対象は、ジャングルに探検しにいくレンジャー。
Patrickさんは参加者に色を1色ずつ配りながら顔をみつつ、「絵」を描かせようとしません。中心の線や身体の動き、つくりはどうなっている?と投げかけます。写実的にうまく描かせようとせず、モデルから感じる色は?雰囲気は?あなたはどう感じ取る?など声を投げかけていきます。
そうして参加者は吸い込まれるように手を動かしていきました。
非常に、よい。とても積極的な沈黙の時間。福祉の現場で起こりがちな、目をふせてなんとなくただシーンとなる雰囲気ではなく、顔を上げて、目先・手先に適度な緊張感と集中力が高まっていく。私も見ていて鳥肌が立ちました。認知症の方でも、ここまで集中して描けるものなのだなと。
全員が描きおわったころ、Patrickさんは全体に向けて、1人1人の作品を紹介していきます。
ここでもPatrickさんは、非常に具体的に褒めます。この線がいい、動きがある、色使いが美しい、前回とはこの点が違う、など。
この褒め方がとてもお上手。そして具体的なので、単に褒められておだてられている訳でもありません。(Beautiful,Fabulous,Fantastic,Amazing..改めて、感嘆詞ってこんなにもあるんだなと感じた時間でもありました(笑))
またモデルがポーズを変え、画材にも変化があります。
主宰のJudyさん。プログラム中はキビキビ動き、体調の変化を気遣いながら画材の準備など動きます。
15時過ぎに始まり、16時半前までみっちりとデッサン、そしてその感想のシェアや、テイータイム。
この日参加した方は、11人。うち認知症は6人。その他は要介護であったり、認知症の家族であったりします。終わったあとは、口々にお礼を言いながら帰っていきました。
終了後、Judyさん、Patrickさん、モデルのMarkさんにそれぞれ話を聞きました。
Markさん:
—なぜこの仕事をしているのですか?また、どんな気持ちでポージングしているのですか?
僕はアーティストでもあり、舞台にも出ます。Judyと出会いこの話を聞きジョインするようになりました。このモデルの仕事は、ある種、瞑想の時間だと思っていますね。舞台に上がっている僕の存在があって、ないような状態にする。非常に集中力が要りますが、とても素晴らしい時間だと思っています。
Patrickさん:
—どんな経験を経て、なぜこの仕事をされているのですか?
イタリアで生まれ、アーティストとして活動していました。主にデッサンや写真も撮りますよ。イタリアの病院でアートワークをしていた経験もあります。あの経験も素晴らしかった。その後南アフリカなどで活動しイギリス、この地でJudyと出会いました。私の経験ならJudyの考えるアプローチに十分生かされるし、私もとても力になっていると感じています。
Judyさん:
—今日この時間を振り返っての感想を教えてください。どんな気持ちですか?
このプログラム、素晴らしいでしょう?(笑)回を重ねるごとに手応えを感じていますが、今日は特に素晴らしい、”沈黙”の時間でした。その時間を共有できてとても嬉しく思っています。このプログラムでは、下記の3つのことが大切だと思っています。
・本物のモデルを使うこと(Markは素晴らしいモデル。本物をデッサンすることで想像力は遥かに高まります。)
・男性の教師であること(要介護者は比較的女性が多く、やはり男性の教師がいると士気が上がりやすい。いつまでたっても女性でしょう?)
・クラスには認知症だけでなく、家族やケアスタッフも入ること(認知症のひとだけにするよりも、互いに刺激や発見があり、何より不自然ではないでしょう?)
今はプレイングマネジャーですが、早くマネジャー職を見つけ、私はこのプログラムをもっとたくさんの場所、国に広めていきたいですね。
Judyさんには、引き続きメールでやり取りをしつつ、英国のケアの現場で表現がどうあるべきなのか、情報を頂いています。またアーカイブしていきます。
【追記】
2018年11月18日、Judyさんが公式のインスタグラムにて、私との写真を公開してくださいました!
藤岡聡子
株式会社ReDo 代表取締役/福祉環境設計士
info(@)redo.co.jp
http://redo.co.jp/
私、藤岡聡子については、下記記事を読んでみてください。
・灯台もと暮らし
【子育てと仕事を学ぶ #1 】藤岡聡子「いろんなことを手放すと、生死と向き合う勇気と覚悟がわいてきた
・月刊ソトコト 巻頭インタビュー
・soar
「私、生ききった!」と思える場所を作りたかった。多世代で暮らしの知恵を学び合う豊島区の「長崎二丁目家庭科室」
おまけに:
読み物:人の流れを再構築する、小さな実践について|藤岡聡子
人の流れはどのようにして新しく、懐かしく再構築できるのだろうか?その大きな問いに対して、小さな実践を綴っているマガジンもあります(本音たっぷりで書いています。)