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カタチのないものを売るサービス・マーケティング

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングってそもそもの発端が小売だけあって、一般消費者を対象に物をうることに関する理論が多いんですよね。でも、現代ではビジネス商品(BtoB商材)やサービス業に関する企業も多いです。と、いうことで今週は無形商材(サービス業)に関するマーケティングについて勉強していきたいと思います。

サービスとは

サービス・マーケティングにおけるサービスは、よく使われる「接客・値引き・無料のおまけ」とは当然区別して扱われます。ここで一度定義を確認しておきましょう。

ある経済主体が他の経済主体の欲求を充足させるために、市場取引を通じて他の経済主体そのものの位相、ないしは、他の経済主体が使用消費するものの位相を変化させる活動(行為)そのもの

上原征彦『マーケティング戦略論』有斐閣

もうね、本当に日本語なのか?と疑うくらい何言ってんのか分からないです。(笑)超簡単に意訳すると「活動そのものが売買の対象になっているもの」となります。

サービスの特徴

サービス・マーケティングで取り扱うサービスにはいくつかの特徴があります。ここではそれらの特徴を簡単にまとめてみましょう。

無形性

最も大きな特徴が「物理的な形状を持たない」ということです。つまり、購入前に品質を評価することが難しいということに他なりません。そのため、サービスの品質は結果品質と呼ばれています。形があるものなら、試供品や展示品から購入前に品質をある程度想定することができます(探索品質)。しかし、無形材となると、飲食店では食べてみなければ味を判断することが難しく(経験品質)、病院で診察を受けても病気が良くなったのか判断できない(信頼品質)などといったケースも多いです。
こうした場合、消費者はサービスの提供過程をもとに品質判断を行うそうです。飲食店の店員の対応はどうだったか、店は衛生的だったか、医者は患者の話を聞いてくれたか、待ち時間は適切だったか、などといった具合です。こうしてプロセスで品質を評価することを過程品質と呼ぶそうです。

品質の変動性(異質性)

有形商材であれば、商品の品質は均質・標準化されているのが常ですが、サービスの場合はそうもいきません。同じ美容室でも担当者によってスキル練度に差が生じたり、患者の痛みの箇所によってマッサージ手法を変える整体院など、提供者による品質の差異や顧客による要望や提供内容の変化などが起こり得ます。
品質の標準化はブランドを形成する上で重要なことです。トヨタの車が「丈夫で長持ち」だと思われているのは、丈夫で長持ちな品質を標準にしているからですよね。サービスをブランド化するために品質をどう標準化するのか工夫が必要です。
一方で、品質の変動性には「柔軟な対応」というメリットも生じます。それぞれの顧客の要望に適切に対応することで満足度を高めることができます。なので、品質を標準化させるのか、個別化させるのか、あるいはどう組み合わせるのかという方針を固めることが求められるそうです。

同時性・不可分性

サービスの場合、生産と消費が同時に行われるので、切り離して行うことができません。例えば、美容室であれば、カットを作り置きして在庫しておくことはできないですし、カットを持ち帰って都合の良いタイミングで消費することもできません。カットを提供するタイミングが生産のタイミングであり、消費のタイミングだということです。
なので、人気店であれば「複数同時に提供する方法」や「短時間で同じサービスを提供するための効率化」などが求められます。同時に、在庫を抱えられないので忙しい時間と余裕のある時間が生じてしまいます。オフピーク時にも来店してもらえるような工夫なども必要ですね。
また、この生産と消費が一体化しているために、サービスの成果には消費者の行動も影響を及ぼします。美容室であれば、顧客が要望を的確に伝えられるかと言った課題が生じます。塾などではサービスの受け手の受講態度が成果を左右します。
このように、消費者の満足度を高めるために、サービスの提供者と消費者は協働関係にあり、この協働関係の構築がサービス・マーケティングにおいては重要な課題だと言われています。

4Pではなく、7P

サービスマーケティングでは製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・プロモーション(Promotion)の4Pに加えて、さらに3つのPが必要だと言われています。

参加者(Participants/People)

サービスに関わる人を全て指します。先ほど述べた通り、サービスは提供側と消費側が協働関係になるため、顧客だけでなく従業員・スタッフを含むのがサービス・マーケティングの特徴です。そのために人材教育・育成が重要な要素となります。

物理的な環境(Physical Evidence)

サービスを提供する際の演出・ツール・装飾などをさします。
ブランド体験を記憶してもらうためにとても重要な要素だと言われています。例えば、東京ディズニーリゾートでは非日常を体験してもらうためにパーク内から外の景色が見えないように工夫されていたり、キャラクターたちは見える範囲に同じキャラクターが出現しないようにスケジュールが組まれたり、様々な工夫が凝らされています。

サービスを組み立てるプロセス(Process of Service Assembly)

サービスの方針や手順、生産・納品管理など、サービスを提供する際の体験を指します。
ホテルなら、予約システムや宿泊中の対応などが含まれます。CX(Customer eXperience)と近い考え方ですね。
これらは、先に挙げたサービスの効率化という面に大きく作用します。例えば、セルフサービスの飲食店では注文カウンターと受け取りカウンターが別個設けられるケースが増えてきました。注文を捌くレジ担当と、調理スタッフに分かれそれぞれの職務をこなすことで、待ち時間を減らすという効率化が図られています。
また、ブランド体験の向上という点にも大きく寄与すると言われています。
東京ディズニーリゾートでは、アトラクションの待ち時間を楽しく過ごしてもらえるように、世界観を堪能できるように待ち列の通路が設計されています。

サービスの品質評価SERVQUAL

サービスの品質が変動すると言っても、一定の評価をしないことには価値向上を進めることはできないですよね。そこで、無形材であるサービスの質を評価するサーブクオル・モデルをご紹介します。
SERVQUALはサービス(Service)と品質(Quality)を組み合わせた造語だそうです。サーブクオル・モデルでは5つの測定項目を用いて品質を評価します。

①有形性
設備や従業員の外見など物理的なサービスの質は十分か
②信頼性
約束されたサービスが確実に遂行されているか
③応答性
速やかなサービス提供ができているか
④確実性
サービス提供に必要な専門技術や知識を備えており、顧客の利益を優先した誠実な対応をしているか
⑤共感性
顧客への関心や配慮が行き届き、良好なコミュニケーションが取れているか

これらはアンケートを通じて評価されるのが一般的です。
以前の記事で、顧客満足についてご紹介しましたが、「事前の期待<購入後の評価」の場合に顧客満足を獲得することができます。
サービスの品質も同様に「期待したサービスの知覚」と「実際のサービスの知覚」が品質を決めるのだそうです。
サーブクオル・モデルを通じて期待と実際の知覚のギャップを把握して改善していくことでサービス品質を高めることが重要だということですね。

まとめ

サービスという無形材を扱う場合、有形商材を前提にしたマーケティングだけでは限界が生じます。その際、サービスの特性を理解した上で更なるマーケティング活動が求められます。
サービスは、購入前の評価が難しく、在庫することも持ち帰ることもできない。その上、品質も標準化することが難しいとされています。
それらを理解した上で、ブランド化していくには従業員教育・物理環境の整備・顧客体験の向上といった従来の4Pに加えて検討すべき事項が出てきます。
また、品質を評価しずらいサービスの品質を可視化するためにサーブクオル・モデルを活用して品質向上に努めることが求められます。

顧客満足に関してはこちらの記事をご参照ください。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
「中の人」も無形商材でお仕事してますので、今週は自分のためにも大変勉強になりました。7Pなんて、初めて知りましたよ。
一般商材に関するマーケティングの本場といえばやっぱりアメリカなんですが、サービス商材のマーケティングに関しては北欧での研究が盛んなのだそうです。アメリカ主導のマーケティングとは少し毛色の違う北欧学派のマーケティング研究も面白いので、ぜひ参考にしてみてください。
対象を物財とするアメリカのマーケティングと、対象をプロセスとする北欧学派のマーケティングの対比も記されている『北欧学派のマーケティング研究』(まんまなタイトルですが)という書籍がおすすめです。
モノ消費からコト消費と言われる現代で、北欧学派の研究は相性が良いかもしれませんね。

それではまた来週お会いしましょう。

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