【クライアント座談会】スペースマーケット 〜企業の「らしさ」を言語化し、共通認識を形成するサイトリニューアル〜
スペースのシェアリングサービスとして2014年にスタートした「スペースマーケット」は、あらゆる場所を15分単位で貸し借りできるオンラインプラットフォームです。幅広いユーザーからの支持を得て、成長を続けてきた同社のコーポレートサイトのリニューアルをワヴデザインが担当しました。スペースマーケット社内のデザインチームと連携する形で進められたサイトリニューアルの舞台裏を、両社の担当者たちによる座談会を通して振り返ります。
[聞き手・構成・文]
原田 優輝(Qonversations)
こんな方にオススメ
⚫︎サイトをリニューアルしたいが、イメージの伝え方に不安がある人
⚫︎案件の制作をリモートで進める方法が知りたい人
⚫︎クライアントとのオンラインのコミュニケーションに課題を感じている人
両社の出会い
企業の特徴を引き出すブランディングへの期待
ーまずは両社の出会いについて聞かせてください。
松本:以前にとあるホテルの仕事をしていたのですが、その際にやり取りをしていた女性が実はスペースマーケットさんでPRをされている方だとしばらくしてからわかったんです。そこで「何かご一緒できたらいいですね」というお話をしたのが最初のきっかけでしたね。
倉橋:私たちも後から知って驚いたのですが、実はスペースマーケットの第1号利用者がワヴさんだったんです。
松本:その時は研修のために鎌倉の古民家を利用しました。当時は時間単位でスペースを借りられるサービスが他にはなく、面白いサービスが始まったと思って使わせてもらいました。
倉橋:レンタルスペースと言うと貸会議室などがイメージされやすいのですが、スペースマーケットでは古民家や飲食店、お寺などさまざまなスペースが登録されています。ビジネスから個人利用までニーズは多様で、コロナ禍以降は少人数での利用が非常に増えました。
ースペースマーケットのおふたりは、ワヴデザインに対してどんな印象がありましたか?
倉橋:過去のお仕事を拝見して、幅広い業態のクリエイティブを手がけられていると同時に、奇をてらい過ぎないデザインをされている印象を受けました。
新井:企業の特徴を引き出すブランディングを丁寧にされている印象があったので、ワヴデザインさんにお願いすれば良いサイトができるんじゃないかという期待感がありましたね。
倉橋:社内のチームとの連携や作業分担がスムースに進められそうだったこともワヴさんに依頼した理由のひとつです。写真の撮影や動画のディレクションなどもサポート頂けると仰ってくださったことも心強かったですね。
プロジェクトの概要
信頼や応援につながるコーポレートサイトに
ー今回のサイトリニューアルにおいては、どんな課題がありましたか?
倉橋:以前のコーポレートサイトは創業時につくったもので、成長期にある現在の会社のフェーズにはそぐわない内容になっていました。当社のビジョン、ミッション、ポリシーなどを表現し、ユーザーや投資家、求職者の皆様に信頼して頂いたり、応援したいと思って頂けるサイトに一新したいというのが当初の目的でした。
松本:スペースマーケットさんが展開している場所のマッチングサービスは説明が難しい部分があり、人によっては理解されにくい側面があると感じていました。どんな方が見てもわかりやすい言葉やヴィジュアルを用いることで、サービスの内容や魅力をより良く伝えられるのではないかというのが最初の印象でした。
新井:現在のスペースマーケットをどういう雰囲気で伝えたいのか、何を押し出していきたいのかというのが社内のデザイナーの中でも曖昧で、言語化できていませんでした。そうした部分からワヴさんに入って頂けると良いなと私たちも考えていました。
倉橋:当初予定していたスケジュールから数ヶ月遅れて発注する形になり、予算にも限りがある中で無理なお願いになってしまったところがあったのですが、そうした制約の中でできる形を考えて頂けたこともありがたかったですね。
松本:予算感については予めスペースマーケットさんから伺っていたので、こちらとしてはそれに合わせる形でできることを提案していくというスタンスでしたね。
制作のプロセス
キーワードは、「大人ベンチャー」
ー具体的な制作のプロセスについても教えて下さい。
松本:まずは社員の方たちにヒアリングをさせて頂きました。ワヴデザインでは、ヒアリング用に質問項目をまとめたスプレッドシートを用意しているのですが、さまざまな部署の方にご回答頂き、それをもとに制作の要となるキーワードを抽出していきました。
中田:その過程でさまざまな言葉が出てきたのですが、それらをすべて拾おうとすると方向性が絞れなくなってしまいます。スペースマーケットさんとも議論しながら言葉を整理したり、優先度をつけていくのは骨の折れる作業でしたが、ここが制作における大きなポイントになったと思います。
新井:個人的に印象的だったのは、「大人ベンチャー」という言葉です。時間の経過とともに会社の規模は大きくなってきましたが、創業当初のベンチャーマインドは忘れたくないとういう私たちの思いを体現する言葉だと感じました。
松本:これもヒアリングを通じて出てきた言葉だったのですが、スペースマーケットさんには「まずはやってみよう」というカルチャーがあり、いまもベンチャー気質が残っているんですよね。こうした大胆さやワクワクするようなイメージが、デザインの方向性を考える上でも大きな手がかりになりましたね。
中田:取り扱う情報量が非常に多かったため、ボリュームや優先順位などを考えながら情報設計をする工程にもかなりの時間を要しました。イメージの言語化や情報設計のプロセスに労力を割いたからこそ、表層のデザインのフェーズではブレることなく、スムースに進められたのだと思います。
松本:デザインに関しては、スペースマーケットさんのコーポレートカラーを象徴的に使いながら、最初に抽出したキーワードをいかに具現化していくかというところがポイントになりました。
新井:参考サイトなどを例に出して、モーションの演出やそれらが受け手に与える印象などについて説明してくださったので、具体的なイメージを想像しやすかったですね。
松本:参考サイトをお見せすると、「カッコ良い」とか「好き」といった個人的な感想が出がちです。だからこそ、目指すべき方向性を事前に言語化して共有し、そのイメージを伝えるためのデザインや演出について議論していくことが大切だと思っています。
オンラインで進捗共有する「伴走型」のスタイル
ー一連のコミュニケーションはどのように進められたのですか?
倉橋:週次のミーティングからSlackやスプレッドシートでのやり取りまで、基本的にはすべてオンラインでのコミュニケーションでした。これらは日頃から社内で使っているツールだったのでスムースでしたし、テキストのコミュニケーションだけでは齟齬が生まれそうな時などは適宜オンライン会議ですり合わせをして頂きました。
新井:デザインに関しては主にFigmaというツールを使い、リアルタイムでやり取りすることができたのも良かったです。
松本:ワヴデザインはコロナ禍でフルリモート体制に移行したのですが、オンラインツールが進化したことによって、以前よりも頻繁にイメージやテキストのやり取りができるようになりました。その中で最近はデザインしたものをまとめてクライアントにプレゼンするようなスタイルではなく、オンラインで進捗をこまめに共有し、議論を重ねながら一緒につくり上げていくような伴走型のスタイルに変わってきています。
倉橋:そうした進め方も非常に勉強になりました。途中経過を見ながら話をすることで大きな軌道修正などが必要なくなるのはとても良いなと感じました。
松本:3、4ヶ月ほどオンラインでやり取りを重ねた後に、スペースマーケットのサービスを使って押さえて頂いた渋谷のマンションの一室で初めて対面でお会いしたんですよね。そこで撮影した写真をWebサイトでも使うことになり、それが個人的にはとても印象に残っています。
プロジェクトを振り返って
サイトの品質を高めた頻繁なコミュニケーション
ー完成したコーポレートサイトはいかがですか?
倉橋:サイトのリニューアルを社内にアナウンスした際に、スペースマーケットらしいという声を多く聞くことができてうれしかったです。私は採用も見ているのですが、リクルートにおいても会社のことを自信を持って紹介できるようになりました。
中田:限られた時間の中で、スペースマーケットのデザイナーさんたちにもギリギリまでご協力頂けたことでクオリティを高めることができました。また、お互いに話しやすい関係性を構築し、頻繁にコミュニケーションする機会を設けたことによって認識の齟齬を生むことなく進められたこともサイトの品質につながったと思います。
新井:社内のデザインチームはどちらかというとUIデザインに特化しているので、コーポレートサイトの構成や見せ方などさまざまな知見を得ることができました。コーポレートサイトのイメージをもとに、会社のクリエイティブに関するガイドラインを社内でつくったのですが、企業のコミュニケーションの基盤となるようなデザインがあることは非常に大切だと感じました。
松本:今回はスペースマーケット社内のデザイナーさんと組んで進められたことに大きな意味があったと感じています。我々のように客観的な視点を持つ外部のデザイナーも必要な存在だと思いますが、今後のメンテナンスという観点からもサイトがどんなプロセスやシステムでつくられているのかということを社内のデザイナーが理解していることは大切ですし、今回の協働のプロセスによって多少なりとも刺激が与えられたならうれしいですね。
今後の展望
お互いに刺激を与えられる関係性に
ー今後新たにやりたいことなどがあれば聞かせてください。
中田:スペースレンタルというのは用途に合わせて場所を借りることだと思っていたのですが、今回の仕事を通してイメージが大きく変わりました。スペースマーケットさんには本当に多様なスペースが登録されていて、場所から使い方を考えることの楽しさやワクワク感を知ったので、今後はそういう場所の使い方をしてみたいですね。完全にユーザー視点からの発言ですが(笑)。
松本:会社同士の関係で言うと、デザイナー同士の勉強会などの機会が設けられるといいなと思います。ワヴデザインでは、社内のクリエイティブ職における採用基準や人材教育に関する知見を体系化しているので、そうした情報などをご提供することもできると思いますし、サービスデザイン、UIデザインなどについて我々が学べることが多そうなので、お互いの刺激になるような機会がつくれると面白そうですね。
新井:スペースマーケットは内製にこだわってきたところがあるのですが、最近は規模の拡大に伴ってデザイナーの委託業務なども増えています。今後は一貫した「スペースマーケットらしさ」にもとづいたクリエイティブがより求められるはずなので、そうした認識を共有できるようなワークショップなどをワヴさんにお願いできるといいなと思いました。
倉橋:今回のように特定のパートナーさんと議論を重ねて何かをつくっていくことは私たちにとって初めてで、とても貴重な経験でした。今後も何かあった時にご相談ができるような関係を続けていけるとうれしいですね。
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スペースマーケット
スペースマーケットは、あらゆるスペースを時間単位で貸し借りできるスペースシェアのプラットフォームを開発・運営しています。住宅、古民家、会議室、撮影スタジオ、映画館、廃校など様々な遊休スペースを収益化し、新しい経済循環を生み出しています。
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ワヴデザイン
ワヴデザインは、ブランディングやデザインコンサルティング、サービス開発支援などを手掛けるデザインファームです。領域を定めず、本質的な発想で課題の抽出から戦略立案、クリエイティブ制作まで幅広く価値を提供しています。