近代漢字文化圏の話⑤「コンクリート」
どこで生まれたさて皆さん!今日も今日とて近代漢字文化圏の話をしますよ~!
今日の題材は『コンクリート』!
砂や砂利をセメントで混ぜて固めた、現代建築の建材としてよく利用される、あの灰色で人口の石みたいなやつです。
それでは今日は漢字文化圏・日中韓越の4ヵ国の内、韓国からお話していきましょう!
1.ホヌント
まず韓国語にはコンクリートの言い方が2つあります。
1つは『콘크리트(コンクリトゥ)』。
これは英語の『concrete』が由来であることは一目瞭然ですね。
そしてもう1つの言い方が『혼응토(ホヌント)』です。
『혼응토(ホヌント)』..?
一体語源はなんなのでしょう?
実はこれは漢字語なんです。
『혼응토(ホヌント)』を漢字で書くとなります。
『混凝土』。
...なるほど、『砂やセメントを混ぜて凝固させた土』で『混凝土』。確かにコンクリートとはそういうものですから意味的にはよく分かります。
ところでこの『混凝土』。実は中国語でコンクリートと書くときもこの漢字語を使うんです。
中国語での発音は『hùnníngtǔ(フンニントゥ)』と言います。
韓国語『혼응토(ホヌント)』と中国語『hùnníngtǔ(フンニントゥ)』。発音こそ違うものの中国と韓国では漢字語『混凝土』と書いてコンクリートを意味するんですね。
ではこの『混凝土』はどこで生まれた語彙なんでしょうか?
中国?それとも韓国?
実はどちらも違います。
実は『混凝土』というのは日本人が作った語彙なんです。
よく字を見てみてください。
『混』は日本語の音読みで「コン」と読みますよね。「混雑(コンザツ)」なんかで使われます。
次に『凝』は日本語の訓読みで「こ(る)」と読みます。「肩が凝る」なんかで使われます。
そして『土』は日本語の音読みで「ト」と読みます。「土地(トチ)」なんかで使われます。
こうして見ると、『混凝土』は日本語で読むと『コンこるト』と読めることに気づきませんか?
そう、つまりこれは『concrete』に意味と発音を寄せて、日本で生まれた当て字なんです。
それが韓国、中国に伝わり、現地の読み方で読まれることで、『혼응토(ホヌント)』や『hùnníngtǔ(フンニントゥ)』という全然『concrete』に近くない発音になってしまったというわけです。
つまり日本では音も意味もまさに『concrete』だったのに、海を渡った大陸側では発音が変わり、意味だけが残されたのです。
そう考えるとなんだか不思議ですね。
2.人口石
ところで中国語には『concrete』を意味する別の語彙があります。
なぜなら『混凝土』といちいち書くのは画数が多くてちょっと面倒だからです。
そこで中国の構造科学者、蔡方蔭(サイホウイン)教授は今から約70年前の1953年、新たに簡単な漢字を作り出しました。
それが『砼(tóng)』。
漢字の由来は『人工石』です。
よく見てみてください。『砼(tóng)』という字を分解すると『人工石』になっていますよね。
そして気になるこの漢字の画数は10画。『混凝土』と書くには30画必要ですから、比較すると3分の1の画数で済むことになります。
これは確かに書きやすい...!
しかもこの漢字の発音は『tóng(トン)』。これはコンクリートを意味するフランス語『béton』、ドイツ語『beton』に通じます。
そういった意味(発音が近似していることが国際的な学術交流を助長するらしい)でも良い漢字なので、現在、中国科学院では『混凝土』だけでなく『砼』の表記も推奨されているのです。
ちなみにこの新たな漢字がなぜ『tóng』という発音なのか、それは別にフランス語やドイツ語に合わせたわけではなく、この漢字の右側『仝』に鍵があります。
実は『仝』は全然形が違いますが『同』という漢字の異体字なんです。つまり『仝』=『同』です。
そして現代中国語で『同』は『tóng』と読みます。
なので『砼』も『tóng』と読むと言うわけです。
3.フランス語 béton
最後に漢字文化圏4ヵ国最後の1国、ベトナムでのコンクリートの言い方を見てみましょう。
実はベトナムでは漢字語でコンクリートを表すことはまずありません。
ベトナム語ではコンクリートを『bê tông』と言います。
...あれ、どこかで見たような感じですね。
そう、これはフランス語でのコンクリート『béton』にそっくりです。
なるほど、ベトナムはフランスの植民地だったので、コンクリートもフランス語由来の『bê tông』という言葉を使うんですね。
4.まとめ
ということで、漢字文化圏4ヵ国での『コンクリート』の言い方は次のようになりました。
日本:『コンクリート(英語由来)』『混凝土(日本発祥)』
韓国:『콘크리트(英語由来)』『혼응토(混凝土:日本語由来)』
中国:『混凝土(日本語由来)』『砼(中国発祥)』
ベトナム:『bê tông(フランス語由来)』
共通点があったり、なかったり、面白いですね。
何よりも面白いのが、日本で誕生した『混凝土』という当て字が、日本ではあまり使われなくなったにもかかわらず、逆に中国では積極的に使われているということではないでしょうか?
漢字文化圏の交流という点で非常に興味深いものがありますね。
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