資金ショート寸前を何度も乗り越え、債務超過・赤字を脱却し、ソリッドになったベンチャーの"再生の軌跡"
読んでいただいているみなさん、ありがとうございます。タイムラボでCFOをしている若菜です。タイムラボはソフトウェアの受託開発とプロダクトの自社開発を行っている会社です。
タイムラボは創業以来ずっと赤字で、資金ショートや債務超過を乗り越え、今期事業を急成長させることができました。
サマると、以下のターンアラウンドステップで、事業を進めたことで、債務超過・赤字を脱却し、黒字化させることができました。
1:受託でオペレーションを徹底的に整え、確実な「ユニットエコノミクス」を成立させる
2:「戦略パートナー」作りに注力し、営業費用を抑えた新規開拓を行う
3:受託開発を「ストック化(保守運用へシフト)」させ、高い利益率を維持させる
4:受託開発と自社開発の「事業シナジー」をうまく創出させる
5:1から4の視点をうまく活用した「銀行借り入れ」を行う
今回はタイトルにもあるように、タイムラボが資金繰りをどうやりくりし、長年の赤字を脱却させ、どう黒字転換させたのか、そのステップについて、挫折や失敗、小さな成功体験も交えながら、恥を忍んで赤裸々に詳しく解説していきます。
タイムラボってどんな会社?
2018年2月に大阪に設立
CEO保積が元々DeNA Osakaの代表でした。
エンジェル投資家6人からの出資を受けています。
VCマネーを入れずに事業を伸ばしているソリッドベンチャーです。
株主にはこんな方々に参画していただいています。
・エンジェル投資家の三木さん
・AAIC Japanの難波代表
・スマートバリュー(9417)の渋谷代表
・i-plug(4177)の中野代表
・さくらインターネット(3778)の田中代表
・ロードスターキャピタル(3482)の久保取締役
もちろん投資家から出資を受けている以上、エグジット(IPOまたはM&Aによるリターン)を作る必要がありますが、個人投資家にはファンドの満期のような概念はなく、経営や事業を中心にアドバイスをいただいている状況で、長く暖かい目で応援していただいています。
どんなチームなのか?
メンバーはDeNAやグッドパッチ出身者が多く、ボード5名、正社員2名(エンジニアとUIUXデザイナー)、コミットしてくれている業務委託のPdM、エンジニア・デザイナーが20名?います。
フルリモートでマネジメントしているのも特徴です。みんな全国にバラバラに住んでいます。
売上は二桁億まではいっていませんが、VCマネーをいれずに、営業キャッシュフローとデットで、チームとしてこのクラスのメンツが揃ったのがCFOとしては嬉しいポイントです。
採用情報にチーム紹介があります!
当たり前ですが、営業キャッシュフローでメンバー全員の給与、業務委託フィーを賄っています。
僕からすると、タイムラボはVCマネー入れずに、事実上ポストシリーズAには確実に到達したと思っていますが、アーリーステージではあるので、そのステージ感からすると、みんなお金を結構もらっていると思います。
その判断ができるのも自分たちで営業キャッシュフローを作っていることが大きいです。
どんな事業をしているのか?
事業は二つ
一つ目は、自社プロダクトである仕事・プライベート・副業など、複数カレンダーの予定管理をまとめて自動化するスマートカレンダーの「Lynx」。
Lynxは、単なる日程調整カレンダーと勘違いされますが、全く違うソフトウェアです。こんな感じ
複数カレンダーを管理しているフリーランスやパラレルワーカー、クライアントワーク中心の人向けに、GoogleやMicrosoftの複数カレンダーを自動で「同期」(シンク)することができ、ダブルブッキングのリスクや日程調整のコストを削減することができます。
CEO保積とCOO友成が、Lynxの前身となるTimelabの開発から約4年間開発投資を続け、今年12月にようやくLynxとしてブランド刷新して正式リリース。VCマネーだと実現できなかった。ここまでくると経営の自由度の名の下の変態です。
二つ目は、ソフトウェア開発支援事業(SDS)です。
スタートアップから大企業までプロダクト開発や新規サービス立ち上げ時のアイデア、課題の検証からMVP開発、その後のプロダクト開発までのソフトウェア開発全般を、経験豊富なチームで幅広く実行支援します。
クライアントワークはここ1年で大きく続伸、これでキャッシュフローを作り、内製開発に投資しています。自動車メーカー、大学、大手学習塾、オークションサイト、新聞、ヘルスケアなど多種多様なクライアント様の多くの業態でソフトウェア開発支援を行なっています。
SDS事業のトップはDeNA出身で、起業→エグジットも経験もがあり、現在VCも兼業している事業家兼投資家の小野さんです。タイムラボではSDS事業責任者とCPOも兼任してもらっています。
Lynxを含めた自社プロダクトについては、ユーザー価値に向き合い、ユーザーファーストで開発側の都合を押し付けない開発を徹底しています。
赤字が続き、キャッシュが減ると、増資による資金調達のために、完成度が低い状況で、無理矢理プロダクトを世に出すことへの嫌悪が強いメンバーが集まっているからです。
ただ、だらだら進めているわけではなく、マイルストーンやKPIの設計とチェック、コストのキャップはCOOの友成さんとデータ分析の菅谷さんが作って進めているという感じです。
創業以来ずっと赤字だった
2018年2月に創業以来、プロダクト開発に投資を続けていて売り上げを作れない状況が続いたので、タイムラボは、業績が悪く赤字が続いた。
「開発を続けるにはお金がいる」2020年ごろは、エクイティーの調達環境が良かったので、代表保積はVCからの調達に動いていました。しかし、PLG型プロダクトは作り込みに時間がかかり、当時はまだプロダクトの完成度が低く、トラクションがない状態でした。
そのフェーズで数千万の資金を数%のエクイティで調達するよりも、自分たちで稼いだ方が良いという判断で、途中でやめました。もちろん、PLG型のプロダクトはセールス型ではないので、売上が読めない、スケールの再現性の仮説説明が難しいという判断もありました。
資金調達に依存しないキャッシュフローを作る
なので、資金調達に依存しない営業キャッシュフローを作ることがどうしても必要でした。クライアントワークで稼いて事業の壁を打開する。経営陣個人個人の強みが一番発揮できる事業領域をやるのが定石、2023年5月に、ソフトウェア開発支援事業(SDS事業)を本格的に始めることに決めました。
クライアントワークを始めるといっても当然簡単ではなかったです。とにかく、営業提案をしてクライアントに価値を感じてもらうコンサル、アウトプットをしまくった。
また、受託ビジネスで、確実な「ユニットエコノミクス」を成立させるために、オペレーションを徹底的に整えました。開発パートナーのマインドやスキルセットの確認、コミュニケーションコスト、契約などなど美しいライン構築にこだわりました。ここは、顧客満足度の向上(LTV)にもつながります。
当時、代表保積とCOO友成の社内ミーティングは深夜しかできなかった。
最初は何も考えずに友人・知人・株主のネットワークを使って、アポ取り、提案をしまくった。中には、二次請、三次請の爆弾を抱えている案件も流れてきて、ハードシングスを何度も経験しました。でも、無我夢中でやり続けた。
そのうちいい座組みとNGな座組み、いいクライアントとNGなクライアントがわかってきました。その選別をすると、営業効率が上がり、自然と売上と粗利が上がっていきました。
創業以来初めて黒字化を達成
その結果、売り上げがかなり伸び、2023年度は創業以来初めての当期利益がプラスに転じました。しかし、これまで役員陣が会社に3000万円ほど貸し出していて、銀行からの融資、役員借り入れがかさんで債務超過となった決算でした。
2024年も順調と思われていたクライアントワークだが、2024年3月まで予定していた大規模案件がクライアントの社内事情で突然12月までになってしまったのです。
このため、一気に内製プロダクトの開発費が粗利を圧迫し、3月ごろに資金ショート寸前になりました。
僕が手伝いを始めたのは、こんなタイミングでした。キャッシュフローを見て、3月末の発注先への支払いまでに、誰かがお金を入れないと資金ショートすることは明白でした。
「どうしよう???????」
既存株主からの紹介をベースに、経営や事業とシナジーがある個人投資家から出資を募ることも考えましたが、エクイティは慎重に考えました。
銀行からの借り入れの見通しをまず見極める。ここをなんとか融資で凌いで、営業キャッシュフローとデットで投資資金をつくり、会社を成長させていくことを戦略の軸に置きました。
毎日毎日銀行の預金残高を見て、お金の入りと出を代表保積に何度も何度も聞く日々でした。
そのタイミングで運よく、代表保積が保有していたビットコインが値上がり、それを売って数百万円を会社に突っ込むとことができました。これで4月まではなんとか生き延びることができる….
でも、当時、CEO保積は、内製の開発費の投資は止めて、ランウェイを伸ばすことをしなかったんです。契約書も確認し、もちろん契約上途中解約できない状態でしたが、会社の状況を説明すればわかってくれることも多いのはわかっていましたが、CEO保積は今までの信頼もある、という姿勢でした。
「おい!おい!おい!」
それだと「資金ショートしちゃうよ」と正直何度も思いました。僕が社長だったら絶対できない判断でした。
「既存クライアントに開発拡張の提案を行うし、営業すればいいので、止めないです。営業成果を出せば銀行も貸してくれる」と言うのです。
これが売り上げを引っ張る社長のマインドだと思いました。
僕は売り上げを作れないから、コストを止める方向に判断軸が働く。しかし、売り上げを作れる人は、会社のスケールを狙って、逆の方向に判断軸が働く。ここは経営者の意思決定として記憶に残りました。
「自分は自分のやるべきことをやる」4月中の着金をゴールに設定し、銀行からの融資に向けて動きました。
債務超過でも銀行は融資をしてくれるのか
当時タイムラボの ”良い材料” は、事業が伸びていて、初の黒字化をしたところ。他方で、 ”悪い材料” は負債が膨らみ、債務超過に陥ってしまったところでした。
ソフトウェア開発支援事業が伸び初めていたので、1年で債務超過を解消できる黒字計画の蓋然性を見せて、融資につなげる、というのが骨子です。
もちろん債務超過だと、銀行の格付けが悪くなり、審査に大きな影響を与えることはわかっていましたが、債務超過状態で銀行への融資をチェレンジするのは、初めてだったので、全く見通しがわからなかったです(勝手に7:3で分が悪いと思い、自分が入ることでバリューを出せるだろうかと内心焦っていました)。
とにかく事業計画を綿密に作りました。数字と実績を一つ一つ丁寧に掘り下げて、債務超過解消の蓋然性を、収益成長の蓋然性を、説得的でかつ肌感もある計画・戦略を作る必要がありました。
何度も言うが、とにかくタイムラボの実績や強みを一つ一つ磨き上げ、数字と結びつけることに注力した。
事業計画を作るにあたって注力したポイント
①「強み」の見せ方については、以下のポイントに注力しました。
経営陣、チーム、パートナーのスキルや実績、経験を事細かに。
そして、これらがクライアントの成約率や顧客満足度(継続受注)向上に大いに貢献することを丁寧に。
実績クライアントのネームバリュー、その予算規模、利益率が高い保守運用のメリット、継続受注の可能性とそのLTVロジック、意思決定者との関係性など、増収や収益の継続性に納得感を。
株主からの紹介案件や戦略パートナーと連携することで、営業費用をかけることなく新規顧客を獲得している実績と、その戦略、座組みからみて、顧客獲得拡張に再現性があること。
こんな感じで、数字を見て→強みと実績を見る、強みと実績を見て→数字を見る、グルグルリンクさせながら、ストーリー、トピックスを作っていきました。
役員借入は銀行側が自己資本とみなす噂は本当か?
「役員借入は自己資本とみなすことができる!」みたいなことをよく聞かないでしょうか。大前提として、決算書は負債が少なく自己資本が多い方が良いです。
金融庁が公表している金融検査マニュアルには下記の記載があります。
金融検査マニュアルは令和元年9月に廃止されていますが、金融庁は「金融検査マニュアル廃止後も、従来の取扱いを否定するものではありません。」とのコメントを公表しています。
じゃあ「役員借入の返済は予定していないので、自己資本とみなしてください」「だから債務超過は解消されるのでは」というロジックは、結論通用しなかったです。
役員借入をDES(デット・エクイティ・スワップ)までして、債務を資本と交換しないと債務超過は解消されない、当たり前の結論でした。
役員借入を負債のうち流動負債ではなく、固定負債に入れれば、自己資本とみなしてくれるとの助言も事前にもらっていたので、実際相談もしましたが、ケースバイケースという回答でお茶を濁され、そういう問題でもなかった印象でした。負債はあくまで負債と考える、そんな印象でした。
役員借入が膨らんだとしても、債務超過は債務超過。黒字化したこと、売上は伸びていることへの評価はもらうのですが、債務超過になると、「格付けが悪くなってしまい、来期決算まで様子見」という回答が圧倒的に多かったです。
ベンチャーデットも、いわんやをや。地銀、信金7ぐらいの銀行に当たりました。黒字化したとはいえ、これまでずっと赤字が続いたこと、付き合いの長さ、関係性ももちろんあると思います。
そんな状況でしたが、最終的に、債務超過を気にしていたものの、日本政策金融公庫の担当になっていただいた方だけが、事業の成長を感じて、なんとか数千万円を貸してくれた。「3:7で分が悪い」と当初から思っていたので、何事も諦めずにやることの大事さを痛感しました。
2024年の売上高月次推移
公庫の追加融資につき、4月に内諾をもらったものの、コストを圧縮しない限り、このままいくと、キャッシュが持たない、資金ショートの危険は、依然チラついていました。
経営陣や株主のネットワークを棚卸しをしてフル活用し、アタックリストを作り、クライアント毎に提案を作りこみ、CXOメンバー総出で営業しました。
大きな突破点となったのは、GW前4月末に、株主から紹介された大手学習塾の経営陣との商談でした。「GW明けの月曜日に提案させて頂きます!」とその場で回答して、「絶対受注しないといけない!」CEO保積とCDO貫井が何日も議論し、GW期間中にコンセプトデザインも盛り込んだ提案書を作って提案しました。
ここでも内製プロダクトを開発している経験が活きていました。タイムラボが大切にするソフトウェア開発の思想や提案のデザイン、大手開発ベンダーなどの提案までのスピード感などと比較して圧倒的に我々が早かったこともあり、無事に大型契約を受注することが決まりました。
これを機に営業と提案の成果が出始めて、新規獲得や既存クライアントからの追加受注が増えていきました。
その結果、7月あたりから、赤字を解消し、収益が一気に伸びていきました。
グロースへの仮説
グロースへのシナリオは2つあり、1つはクライアントワークであるSDS事業を着実に増やし、利益率が高い開発ラインを受託する。もう一つは「Lynx」のチームプランを立ち上げ、拡大することです。
SDS事業グロースへのシナリオは、CPOの小野さんが中心に進めていて、顧客理解を高めつつプロジェクトのコンディションをチェックし、保守運用につながる高利益率な開発ラインを増やし、案件の継続性(LTV)と受注単価(ARPU)を高めることにあります。
こちらは戦略の絵です。
「Lynx」事業の本丸は、実はToC、スモールB領域ではありません。今までは個人向けの時間分散化課題を解決するソリューションを提供してきましたが、来年は本格的にチームの時間分散化課題にフォーカスしてプロダクトを大きく成長させる方針です。
クライアントワークなど異なる組織のメンバーが集まるようなプロジェクトにおいては、カレンダーを共有することができず、プロジェクトのスケジュール調整は毎回Slackなどで候補日を出してのやり取りが行われているのが現状です。
プロジェクトの規模が大きくな慣ればなるほど、定例のリスケ、MTGの開催の際、slackで「候補日の調整」が何度もなさ、かなりの調整コストがかかります。すごく面倒ですよね。
プロジェクトで日程調整が必要なときには、Lynxに招待したグループ内のメンバーのカレンダーを見て、GoogleカレンダーやMicrosoftカレンダーで会議を入れるのと同等のUXで簡単に外部メンバーとの日程調整が完了する世界を実現する予定です。
異なる組織メンバーが集まるプロジェクトのコラボレーションカレンダーとして「Lynx」が利用される世界観を目指しています。
ソフトウェア支援開発のクライアントへ導入していただくことで、クライアントワークをしながら、セールスコストを抑えて、内製プロダクトの展開を行う、この相乗効果が、二つの事業をやっているモデルのコアとなります。
事業成長のためにさらなる追加融資へ
キャッシュフローが大幅に改善されたため、来期に向けて、事業をさらに成長させるために、銀行からの追加融資に動いています。
だけど、クライアントワークやプロダクトのグロースのために人材が全く足りていません。
このような挑戦的で成長著しい環境で一緒に働く仲間を募集しています。ソフトウェアや技術が好きで、常に新しいチャレンジを求める方、「普通」では物足りない方、ぜひタイムラボの門を叩いてください!
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