【マスコミ研究会・企画×文芸小説】 台場編②「散る」 作:平八郎
企画概要
マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。
スケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基に文芸分科会がオリジナルの物語を考える。
設定された行先は「新宿」と「台場」。それぞれの場所で、どんな物語が生まれるのだろうか。マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。
スケジューリング企画では、「予定を立てるのが苦手」という悩みを解決すべく、事前に設定を考えた上で理想のスケジュールが実行可能か、体当たり取材を決行...!
一方の文芸分科会ではスケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基にオリジナルの物語を考えた。
企画の内容は、フリーマガジン「ワセキチ」にて。(下にリンクを添付しております)
今回、スケジュールが組まれた舞台は「新宿」と「台場」。それぞれの場所で、どんな物語が生まれるのだろうか。
人物設定・台場編
女子高育ち、恋愛経験も乏しい女子大の大学生。そんな彼女が大学生になりハマったのがメンズ地下アイドルだった。推しとのデートができる「特典」のためにお金を貯めた彼女は、一日だけの「疑似恋愛」を行なう。不器用ながら自分の「やりたいこと」を詰め込み、お台場でのデートプランを組む彼女。「仕事」としてデートに応じるメンズ地下アイドル。叶わない恋に夢を見て、美しい冬のお台場を散策する。
散る 作:平八郎
閉店間際の店内に駆け込んできたのは、いかにも都会に不慣れそうな雰囲気の一人の女子大生だった。
「あの、予約してないんですけど大丈夫ですか?カット、カットお願いします。なるべく短く」
彼女が言葉を発するたびに、腰まで届きそうなほどの長い黒髪が揺れる。正直、もったいないな、と思った。髪にダメージを与えずにこれだけの長さを伸ばすのは相当な労力がかかっただろう。それをこんなにもあっけなく切ってしまうなんて。
カットを躊躇う気持ちを押し殺し、女子大生を椅子に座らせる。寒いせいか、頬が鏡越しにも分かるほど赤く染まっていた。ここまで長い髪をいきなり短く切るというのはやはり、失恋でもしたのだろうか。いや、髪を切るだけで失恋と決めつけるのは少々野暮か。
「好きな人が触った髪なんです」
彼女はそう言って恥ずかしそうに目を伏せた。
「さっき、好きな人と初めてデートに行って。夜ご飯も一緒に食べたんですけど、その時私が前にかがんで取り皿を取ろうとしたら、彼が「毛先にソースついてるよ」って。こう、私の髪の毛先をつまんできゅってやったんです。ちょうどこうやって、きゅって感じで」
そう言いながら彼女はその時の様子を僕に向かって何度も再現してみせる。
「彼、本当は私に恋愛的な興味なんかないんです。私もそれは分かってて、でも今日デートに行けたのが嬉しくて、デート中ずっと指一本も私に触れなかった彼が髪の毛に触った時は内心飛び上がりそうだった。分かってます、髪をちょっと触るくらいただのサービスですよ。私に会った時も一緒にイルミを見てるときも、全然顔色も変えなかったし。だからこそこの、髪を触られた思い出は封印しなきゃって思ったんです。叶わない恋だから、やっぱり諦めるために踏ん切りをつけないと」
ソースがついているのを取ってもらったという長い髪は、今は雪で半分濡れかけている。外は随分吹雪みたいだ。僕は彼女の髪の毛にそっと鋏を入れた。
さく、さく、さく。
軽やかな鋏の音と共に長い髪が下へと崩れ落ちる。真っ黒な髪の束が彼女の肩の上を手の甲を静かに滑り落ちてゆく。
最後まで読んでくださった方へ
ワセキチ掲載企画である「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」では、理想のスケジューリングが実行可能か、サークル員が体当たり取材。以下のリンク先ではその様子をレポート記事でまとめております。
どんなスケジューリングを立てたか気になる方は、ぜひチェックを!