【マスコミ研究会・企画×文芸小説】 新宿編②「忘却」 作:きっこうまん
企画概要
マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。
スケジューリング企画では、「予定を立てるのが苦手」という悩みを解決すべく、事前に設定を考えた上で理想のスケジュールが実行可能か、体当たり取材を決行...!
一方の文芸分科会ではスケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基にオリジナルの物語を考えた。
企画の内容は、フリーマガジン「ワセキチ」にて。(下にリンクを添付しております)
今回、スケジュールが組まれた舞台は「新宿」と「台場」。それぞれの場所で、どんな物語が生まれるのだろうか。
人物設定・新宿編
2人は中学の時の同級生。大学に進学したのを機に会おうということになる。中学の時の親友だった2人は、多少のブランクも大丈夫と思い、張り切ってスケジュールを立てる。しかし、高校も違う2人は今まで過ごしてきた環境が大きく異なり、話題も合わなくなっていた。
今更解散もできぬ状況で、気まずさと少しの寂しさを抱えながら彼らは弾まない会話を行っていく。
忘却 作:きっこうまん
カラオケルームに入り、場を盛り上げるためだけの照明が照らされた、そんな程よい暗闇のなかに身を置いて初めて、ようやくAの横顔をまともに見ることができた気がした。
綺麗に染められた茶髪は整えられ、耳には最近開けたであろう素っ気ないピアスが、時々明かりに照らされて煌めく。彼は、ニキビ面の僕たちが学ランを着ていた頃からは想像もつかないほど大人びていて、また垢抜けていた。
「……何歌う?」
Aがそう言ってこちらを振り向いた。今日、初めて目が合った。
「よく一緒に歌ってたやつあったじゃん、それ一緒に歌おうよ。なんてタイトルだっけ、あっ『灰色と青』だっけ」
「ああ懐かしいね、それにしよう。じゃあ、最初のパート、お願い」
Aからマイクを受け取った僕は、緊張で上ずる声をどうにか抑えながら歌い始めた。
そうだ、こんな歌だった。あの頃、僕は声変わりがまだ終わってなくて、低いところがうまく歌えなかった。今はもう難なく歌うことができる。
モニターに映る歌詞を見ながらでないと歌えなくなった、でも懐かしいこの曲を歌う僕の中で、それと矛盾したようにあの頃出来なかった何かができる大人になってしまったという気づきが、どうしてか寂しさとなってメロディに消えていった。
僕のパートが終わる。Aが歌い出す。僕の知る彼は、僕よりずっと歌がうまかった。Bも声変わりが終わったらうまいこと歌えるようになるよ。そう言って笑ってくれた放課後のカラオケルームを思い出す。今日はまだ、そんなふうに笑う彼の笑顔をまだ見ていない。
Aの歌声が途切れた。思わず顔を見上げる。
「……どうしたの?」
「ごめん、あれ? 音程わかんなくなっちゃったここ。どんなのだったっけ、ごめんね。」
そう言って謝るAは、少し困ったように笑った。
モニターの歌詞と、サビのバックミュージックが、もう巻き戻せない不可逆的なメロディが、ただ流れ続けている。
「……違うの歌おっか」
僕たちは変わってしまった。そして無邪気に笑っていた、青かったあの頃には戻れない。
小説の2人の詳しいスケジュールは…
ワセキチ掲載企画である「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」では、理想のスケジューリングが実行可能か、サークル員が体当たり取材。以下のリンク先ではその様子をレポート記事でまとめております。
どんなスケジューリングを立てたか気になる方は、ぜひチェックを!