リレー小説 note15 『Relation』#5

 この物語は、空音さん主催のリレー小説企画への参加作品です。
 長くなったので、分割してあります。

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 何度目のだろう。
 開店祝いに来てくれた夏実と、妻と、3人で乾杯をした直後、店の黒電話が鳴った。

「こんな時間にお店に電話?開店してすぐで、そんなに繁盛してるの?」
 笑いながらからかう夏実の声を背に、私は居間を出、電話の置いてあるカウンターに向かった。

「はい、滝沢骨董店ですが」
「夜分遅くに申し訳ございません。私、冬顔と申します」

 20代くらいの若い女のようだが、アクセントがどこかぎこちない。
 どこか、人工的な・・・。

「申し訳ありませんが、営業時間は終了しておりまして」
「存じております。失礼は重々承知ですが、火急の用でお願いがございまして」
「・・・この時間で火急の用とは?当店は個人経営の小さな骨―――」
「ええ、存じております。でも、あなたのお店にある商品について至急のお願いが」
「ねぇ、どうしたのー?」

 帰ってこない私に、夏実が様子を見に来た。
 私は、手で大丈夫だから、と制しておいて、電話を続ける。

「当店の商品、ですか」
「はっきり商品かどうかは存じません。ただ、カウンターの横に置かれているノートについて」
「ノート?」

 その言葉に、立ち上がってカウンターの横の平棚に置いたノートを見・・・はっとしてすぐ後ろに来ている夏実を振り返った。

「そのノートは本物でしょうか?」

 受話器の向こう、冬顔と名乗る女性は尋ねる。
 このノートは夏実から貰った・・・。
 と、すぐ傍で聞き耳を立てていた夏実が、受話器を奪った。

「あなた、このノートを知っているの?」
「ええ。ですから、真偽の確認をさせて―――」
「本物の、未来ノートよ」

 夏実の横顔には、苦く、重いものを飲み込んだ、そんな表情が浮かんでいた。
 そのノートの力についても、経緯も、私は聞いていた。
 今、彼女は何を想うのだろうか?

「・・・それで?」
「お願いです。ただ一言、書き込んで頂きたいのです。タケシを―――私の愛しい人を救うために」

 脇で聞いていいる私は、思い当たった。
 この、言葉の内容の割りに平坦な口調は、翻訳または音声変換ソフトを使っているのだ、と。
 そもそも、冬顔と言う名前からして本名とは考えられず、実声で電話もかけてこない。
 胡散臭いとしか言いようが無い。

「いいわよー。で、なんて書けばいいのー?」

 おいおい、と制止しようとした私の手は、止まった。
 夏実はこちらを、私を真っ直ぐに見つめている。

「―――宜しいのですか!?」と、驚いたように語尾を上げる冬顔。
「いいわよー?」受話器に繋がるコードを弄びながら、夏実はさらりと返す。

「ろくでもない願いなら、却下するし、あなたとしても、本当に書いて貰えるかどうかは保証が無いのよねー」
「・・・はい」
「言葉を尽くせば、その確率も上がる筈なのに。こんな時間の電話と合成音声の胡散臭さも払拭できるのに」

 あぁ、夏実だ。
 変わらない。
 哀しくも強い、私の、大好きな夏実だ。

「あなたはそれもせず、ただ、真っ直ぐに訴えた。だから願い事を言いなさい。それが最終テストよ」
「ありがとうございます。では、『冬顔は全てに繋がる』と、お願いします」
「・・・じゃあ、書くわねー」

 私は、カウンターを廻って、取って来たノートとペンを夏実に手渡した。
 にっこり笑って、夏実は受け取る。
「信じるわ。―――あなたのすべき事を、今すぐ、しなさい」

「ありがとう」
 切れる間際に、そう繰り返した彼女の声は、あくまで平坦な合成音声ではあったけども、まるで、涙を堪えて頭を下げる。そんなイメージを私に残した。

「さて。これで、何が起こるのかしら、ね?」
「おいおい、考えてなかったのかよ?」
 ノートとペンを返して寄越す夏実が、あっけらかんと笑う。
「いいじゃない!それより、良くわからないけど、冬顔ちゃんの成功を祈って乾杯するわよ!」
「ええー!またかよー」

 そして―――――。

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