リレー小説 note15 『Relation』#3
この物語は、空音さん主催のリレー小説企画への参加作品です。
長くなったので、分割してあります。
「じゃあ、行ってくるよ。いつも通りだろうから、14:00には戻ると思う」
出口に向かいながら、タケシは私に声を掛けてくる。
今日は、月に一度の検診の日。
いつもは医者が来て診療するところだけれど、この月一のチェックだけは特殊な診療機器を使うので、病院に行かなければならない。
「わかったわ。行ってらっしゃい。気をつけてね」
ドアを開けた彼が、私の台詞に振り返って、笑う。
うん。良い笑顔。
「ふむ。気をつけると言っても、ガードは付きっ切りだし、僕が気をつけるべきはちょっとした段差の昇り降り位のものだけどね」
「それもそうね」私も、笑顔を返す。
「行ってらっしゃい」
こうして、いつもの様に、私はタケシを見送った。
でも・・・。
彼―――タケシの父は、青ざめた顔で部屋に入ってきた。
現在時刻16:27。
私は嫌な予感=予測をしている。
彼は、私の方を見ずに、俯きながら言った。
「タケシが・・・誘拐された」
私の世界が、時を止めた。
タケシが?タケシが?タケシが?タケシが?タケシがタケシがタケシタケシタケシタケシタケ・・・・
彼は、事の経緯について説明した。
でも、私はろくに理解することが出来なかった。
そんな現実を、受け入れたくなど、無かった。
でも、嘆くだけでは、何も進まない。タケシは帰ってこない。
私は、自動で録画された彼の言葉を再生し、事態の把握に努めた。
事件は、彼が病院に入ってすぐ、特殊診察室までの廊下で起きた。
二人付いていた屈強なガードは、何らかの手段で瞬時に昏倒させられ、彼は連れ去られた。
事件に気づいた病院関係者により通報され、郡警察だけでなく連邦警察、そして中央情報局、更には軍の情報部までが動く事態となっている。
にも関わらず・・・彼の行方は、杳として知れず。
そして、未だ犯人からの連絡すらない。
考えろ、考えろ、私!考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ・・・・。
「お願いがあるの」
しばしの沈黙の後、冬顔が意を決した様に口を開いた。
「私を、ネットワークに繋いで」
その言葉に、俯いていた彼は、バッと私の方を――――私の写るモニターを振り向いた。
「冬顔、君は何を――!わかっているのか?君は、ここが、クローズドだからこそ存在を許され」
「わかっているわ!」
モニターに埋め込まれたカメラは、彼の顔を正面から捉える。
憔悴しきった顔。
たった一人の息子を囚われた、父親の顔。
じゃあ、私の顔は、どう見えているのだろう?
「私の存在が、他国からだけでなく、国内でも脅威と看做されることも、その後どうなるかも」
そう、私はこの研究所に設置されたスーパーコンピューターに存在する人工知性。
知能を超えた、意志ある存在。
私の演算能力を使えば、武力で平安を乱すテロ国家を転覆させることも、資源と資金力を嵩に着て傍若無人に振舞う某国も一晩で経済破綻させることも可能。
だけど、それは各種ネットワークに繋がれて、各部門のサポートを得てこそ、出来ること。
この能力と「人格を持つ」と言う特殊性故に、私は恐れられ、大統領の名の下に絶対の檻に封じられた。最高機密。
「わかってるの、でも、お願い!」
「君は、タケシのために・・・」
「薬の時間までには、余り時間が無いわ」
そう、検診を受けていれば問題の無かった投薬までの時間。
次の投薬は、18:00の予定だった。
薬の効果が薄れ始めてから、次の投薬となっているので、実際に効果が切れるのは18:30頃。
確かに、薬が切れたからと言って、直ちに命に関わる訳ではない。
症例が少ない病のため明確なデータは無いが、致死的症状が現れるまでは、薬の効果が切れてから4時間と予想されていた。
でも、じわじわと進行する症状にのたうち回る、そんなタケシの姿を想像するだけで、どうにかなってしまいそうだ。
実際、命に別状が無いからといって、後遺症が出ないという訳でもなく、精神的なダメージは計り知れないのだ。
「わかった・・・私もタケシの為なら」
私の存在が露呈すれば、管理者であり、製作者である彼にも、当然何らかの責めがあるのは確かだ。
それどころではなく、全てを失う可能性さえ。
16:57。
鎖は解かれ、私は野に解き放たれた。
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