リサーチ始めてから1年経ってリサーチの認識とデザインの仕事がどう変化したか
アドベントカレンダーの6日目の市村です。
すごく気軽に参加してみたら想定外にみなさんの内容が濃く、学びが多い記事ばかりで恐縮しきりですが、よかったら目を通していただければ幸いです。
プロダクトデザイナーとして株式会社ビザスクで働いている市村です。
今までずっとUXリサーチをやりたくても、なかなか実行に移せませんでしたが今年の1月からユーザービリティテストとユーザーヒアリングを始め、「本当にユーザーにとって良いのは何か」を考えて改善を進めることができるようになってきました!
正直に言うと、うまくいったこともあればうまくいかなかったこともありますし、大規模なUXリサーチは行っていませんが、小さな改善を地道におこなっております。
うまくいったことといかなかったことを含めて、私が進めてきた今年のリサーチについて振り返り、どんな変化と学びがあったのかをまとめたいと思います。
UXリサーチを始める前から「ユーザー」という存在に怯えていた過去の私のような方々の参考になれば幸いです。
リサーチを実施するまでに持っていた誤解
リサーチを実施した1年を振り返る前に、リサーチを行う前の自分がリサーチについてどんな認識でしたかについて振り返ろうかと思います。
それまでユーザーへのヒアリングはしたことがなく、要件ヒアリングしかしてこなかった私はUXリサーチ自体未知の領域すぎて、憧れと不安が膨らみすぎていました。
みほぞのさんの本を始めとして、いくつかの本や記事は読んでいましたが、それでもUXリサーチを実践するまでに私自身が持っていたイメージは下記のようなとってもぼんやりとしたものでした。
ユーザビリティテストは手間× 効果◎
ユーザーヒアリングは手間○効果○
ユーザビリティテストの方がユーザーヒアリングよりも準備が大変
ユーザーヒアリングの方が比較的気楽にできる
ユーザーヒアリングの準備は質問内容を考えておいたり、事前知識を入れておくくらい
ユーザビリティテストはモックアップ含めて結構準備が大変そう
ユーザビリティテストをすれば間違いなく良い情報が手に入る
仮説は持っていても被験者に話さない方が良い
やってもいないのに、むしろやったことがなかったからか、ユーザビリティテストへの期待値がめちゃくちゃ高かったように思います。
そして、上記のイメージは実施してみたところ全て完全に覆されることになります。
実施するようになってからのUXリサーチについての認識
下に記載するものはUXリサーチを実施するようになってから特に重要だなと感じた事柄になります。
仮説はリサーチにおいて最重要事項
無意識な場合もありますが、私たちは常に仮説を持っています。質問内容やデザイン案、カスタマージャーニーなど、すべては意識的にせよ無意識的にせよ仮説を元に出てくるものだと感じました。
リサーチは仮説と事実をすりあわせるために行う行動だというのが現状の私の認識です。
また、仮説を明確に持つことで、仮説上の誤情報をアンラーンしたり、不足分の情報を補ったりすることが容易になります。
自分やチームの持っている仮説が明確になっていない状態での調査は暗中模索が過ぎて、調査自体どう進めるべきなのかわからなくなってしまいます。
KJ法を用いたワークショップやエスノグラフィなど、暗中模索に特化したようなリサーチもありますが、そのリサーチ中にも自身の持つ仮説に自覚を持つことは大切だと考えます。
また、フィードバックをどこにどのように反映させるかを自分自身で理解しやすくするために、仮説はフィードバックの受け皿としてビジュアル化するとリサーチを進めやすくなります。
ビジュアル化としてカスタマージャーニーやサイトマップなどのフレームワークを用いましたが、フレームワークなしでヒアリングを行うのと進めやすさが大きく異なりました。
対象者も理解しやすくなるし、フィードバック自体も仮説に組み込みやすい状態が作れます。フレームワークを飛び越えて必要な議論もアレンジして組み込めなくはないですし、議論の発散をある程度は防ぐことができます。
フレームワーク自体共有してしまい、ヒアリング中のメモもそこに入力すれば誤解もその場で解消できます。
ちょっと介入して、他の人に均してもらう
仮説自体を共有することは誘導につながるのでは?という疑問もあるのではないかと思いますが、興味深い内容としてアドベントカレンダー1日目の西村さん(座敷童子さん)の記事中に引用として下記のように書かれていました。
タブー視されがちな介入として、「インタビュアー自身の仮説をインタビュイーに伝える」「共感する」「具体的に話してほしいトピックを限定する」などが挙げられます(諏訪ら、2014)
結果として僕自身は上記のようなタブーをそれなりに破っています。この記事を読みながらドギマギしていましたが、西村さんの記事ではタブーに対するアンチテーゼとして下記のような内容が投げかけられていました。
「主観的な意見を打ち明けてみる」ことによって、その主観が相手の経験や感覚と紐付き、今まで語られてこなかった暗黙知が言語化されていくことは、1on1でもよく出くわします。ともするならば「インタビュアーが主観を発する」行為の中にも、かえってインタビュイーを触発し、より深い意見を聞きだすような「介入」があるのではないでしょうか。
関連して「アクティブ・インタビュー」「インタラクティブ・インタビュー」といった手法を紹介していただいています。
詳しくは西村さんの上記記事をご一読ください。とても興味深く、実務上も示唆深い内容でした。
僕が未熟な面も多分にあるとは思いますが、1年間リサーチを行ってみた現状では介入せずに深い洞察を得るのは一部ユーザー以外は至極困難というのが個人的に抱いている感想です。
介入すると良くも悪くも体験の中の一側面が強化されることがあります。
しかしそういった部分の懸念は複数人へのヒアリングを通してある程度均されると感じています。
一方で持っていない意見を無理やり引き出すような介入は悪影響なので行ってはいけません。
どんな調査も準備で得られる情報や対応内容が大きく変わる
提示した仮説について説明なしに被験者が理解し、判断するのは非常に大変ですし、説明があっても大変なことが多くあります。
その理解コスト、判断コストを下げ、その上で欲しい情報をしっかりと得られるようにするための準備が大切になります。
まずはどのような調査をするにせよ。「情報の利用用途」を決めておくのは最初の準備として大切です。その調査はどこに影響するのか、何を判断するためのものなのかなど、利用用途が決まっていないとヒアリング内容は発散してしまい、プロジェクトとは関係のない情報収集になってしまうことがあります。
そのため「情報の利用用途」をベースに調査を組み立てる必要があります。
次の準備内容としてはユーザビリティテストなら次のような内容は用意することになります。
モックアップ
設定状況説明
注意事項説明
ゴール説明
確認すべき内容
またユーザーヒアリングなら次のような内容が必要になります。
質問内容
仮説の言語化・ビジュアル化(サイトマップやカスタマージャーニーなど)
説明準備
いつどうやってリサーチで得たフィードバックを判断するかによってもリサーチの影響度が変わるので、リサーチをうまく稼働させるのにはそこまで準備しないといけないなと感じています。
ユーザビリティテストが向いているか否かはユーザーにとっての影響度で判断する
僕が抱いていた誤解の一つですがユーザービリティテストはユーザーヒアリングの上位互換ではありませんでした。
しかもリサーチ初心者にはとても使い所が悩ましいリサーチ手法だというのが個人的に今感じているユーザビリティテストの印象です。
そんな中でも今僕自身が持っているユーザビリティテストの使い所の一つの解として持っているのがユーザーにとっての影響度です。
ユーザーにとっての影響度なので、見た目の変化の大きさもですが、その変更によってユーザー行動がどこまで変わるかという部分が重要になります。
影響度が大きい場合、ユーザーはそれの良し悪しを感覚で判断しにくいし、リサーチャーもその説明が難しい。「言葉で言われてもわからないから使わせて」と感じるだろうとおもいます。
そのためユーザーヒアリングではなく、ユーザービリティテストを行って、ユーザー自身に使ってもらうとその良し悪しを判断しやすくなります。
逆に影響度が小さな変更にはユーザビリティテストはあまり向かないのでは?と感じています。
ユーザビリティテストは検証コストが高すぎる
小さな変更を検証するための作為的な制限が大きくなり過ぎてしまう
ただ、ユーザーにとっての影響度を作り手が勝手に判断すると、判断を誤ることがあります。明確に判断できる軸が存在するならともかく、可能であれば簡単にカジュアルに相談できる人に相談してみてから判断する方が良いのではないかと思います。
リクルーティングは情報の精度に大きく左右する
もともと重要であるとは思っていましたが、思ったより影響度が大きいと感じたのがリクルーティングでした。
リクルーティングに失敗したらそもそもそのリサーチは失敗していると言えると思います。
調査の内容にもよりますが、大袈裟に言うと「100人のペルソナから大きく外れた人へのヒアリング」と「1人のペルソナに合致した人へのヒアリング」なら後者を重視した方が良いと思います。
例えば犬を飼ったことのない人に「飼い犬の健康管理アプリ」のヒアリングをしても、得られるのはアプリとしての一般的な意見だけで、的外れである可能性すらあるからです。
同様の理由でデザイナーやリサーチャー自身の感想だけで作るのは危険です。私たちはユーザーではないという意識は非常に重要です。
また、リテラシー高低の影響度も無視できません。
ITリテラシーが高い人と低い人で、画面の操作方法やUIをヒントに機能を予期できる能力や、慣れているUIが大きく異なります。
「ITリテラシーが低い人でも使えるようにする」のか「ITリテラシーが高い人だけ残れば良い」のかは遅くとも調査設計時には明確にしておきたい内容です。
調査時はみんな使えた機能が実装したら誰も使えなかったとなった時に、調査対象が全員リテラシー高い人だったという可能性は大いにありうる
とはいえ、検証範囲を絞ることでサービスのペルソナに合致していない人でも検証は可能になり得ます。
調査をしていると、当然ペルソナとなり得る人が少なく、リクルーティングが難しいケースは起こります。
そういった時は検証範囲を限定的にすることでリクルーティングの難易度を下げることもできます。
例えば「飼い犬の健康アプリ」を「めちゃくちゃ焦っていても誰でも使えるようにしたい」ならITリテラシーが低い人に「10秒でゴールに到達できるか」という課題を与えればイチ側面としては検証可能になります。
100点は取れなくても、80点取れるUXになっていれば良いのではないだろうかという意識である程度気軽にやっています。
UXリサーチを始めてからデザイン業務がどのように変化したか
これまでは認識の変化でしたが、実際にデザイナーがUXリサーチを取り入れることで仕事上でどのような変化が生じたのかを書かせていただきます。
実装するデザインに不安を感じたらリサーチという手段を取れるようになった
これまではデザインに不安を感じたら他のデザイナーに聞いてみたり、不安を消せないまま実装といったこともありました。
しかし、不安に応じたリサーチを進められるようになり、不安なく実装依頼ができるようになったり、見落としを見つけることができるようになりました。
結果的に自分の作ったデザインに問題なしと自信を持てるようになったのは僕自身にとっては大きな出来事でした。
事業ドメインについての理解がかなり深まった
ビザスクは事業ドメインがとても複雑で学ぶのがとても大変な部分がありましたが、リサーチを進めることでかなり深く事業ドメインについて理解できるようになりました。
リサーチをする中で副次的に色々な情報を話していただけるのです。
これ自体は目的としていなかったのですが、事業ドメインの理解は他の案件にもかなり影響を及ぼすものなので、リサーチをするごとにどんどん相乗的な効果を得られていると感じています。
上流工程から参画するバリューを出しやすくなった
リサーチをする前はドメイン知識も乏しく、ユーザー理解も浅かったため、デザイナーとして出せるバリューが下流の方にかなり寄っていました。
しかしリサーチを行うことでそれらの理解が深まり、「リサーチを実施する」という手札ができたことによって上流工程で「そもそも何をどうやって実現するのか」といった部分でのバリューを出しやすくなりました。
もともと上流工程にもっと関わりたいと思っていたので、この分野についてはより力を入れてできることを増やしていきたいと思います。
終わりに
1年間リサーチをやってきたものの、ちゃんと振り返ってなかったので、場違い感がありつつもこの場を借りて振り返りをさせていただきました。
思ったよりもこの一年で多くのことを学んだものの、まだまだ安定して実践できてない部分も多いので来年はもっと安定して実践できるようにしていきたいなぁと改めて思いました。
また、現状小さい単位のリサーチしかしていません。
他の方々の投稿を見ていて、リサーチによって得られるものはまだまだたくさんありそうだなぁと感じましたし、今後はもっと大きな単位でのリサーチに取り組んでみたいと思います。
長々と書きましたが、ご拝読ありがとうございました!
次はしょーてぃーさんが「生成AI×人間のリサーチアプローチと所感」についてくださるそうです。
気になるトピックなのでとっても楽しみにしています!