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大谷翔平は「足りない」から成長するのか? 今に感謝する力


前回は、ドイツ出身の作家で『The Power of Now(さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる)』『A New Earth(ニュー・アース -意識が変わる 世界が変わる)』などの著作で知られるエックハルト・トールの言葉から「足るを知る」ことの大切さについてお話ししました。

「ハングリー精神が大切だ」「現状に満足するな」
世の中では、常に「足りないもの」を追い求めることが成長や自己実現のための唯一の方法で、それが人間の勤勉さや美徳につながると思われています。

しかし、エックハルト・トールの教えが示す「現在の豊かさに気づくこと」は、現状維持や停滞を意味するものではありません。むしろ、これは持続可能な成長と真の豊かさへの道を開く鍵になります。

自分の豊かさに気づくこと

「豊かさに気づく」ことは、自己満足や停滞を促すものではなく、むしろ健全な成長の基盤を築くものです。前回も少し触れましたが、現在の状況や所有しているものに感謝することで、ポジティブな心理状態が生まれます。さらに、過去の失敗や未来の不安にとらわれず、「今、この瞬間」に集中できるようになり、外的な評価や比較ではなく、自分の価値観に基づいた判断を下せるようになります。

この変化を見て、現状維持や停滞を連想するでしょうか?

大谷翔平は他者と競争しているか?

優れたアスリートを例に考えてみましょう。彼らは常に自分の限界を超えようと強い向上心を持って競技に取り組んでいます。

一般的には、アスリートこそ他者との比較、競争に明け暮れ、常に自分の足りていないところに目を向け、欠点を埋めていく作業をしていると思われがちですが、トップアスリートであればあるほど、本人の成長プロセスはまったく別の次元で起きていることが多いようです。

トップアスリートは、他者ではなく自分と競っているという話はよく聞きます。

異次元の記録を更新し続けているMLB、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手からも、足りないものを埋めようとする悲壮感のようなものは感じられません。むしろ「今、この瞬間」に対する充足感と感謝が、さらなる向上心を生み出しているように見えます。

そもそも他者との比較や過去、未来に気持ちが行っていたら、投手と打者の二刀流、本塁打と盗塁の50-50(最終的には54-59)という前人未到の記録とそこに至るチャレンジは生まれていないのではないでしょうか。

自己の内なる声が最高のモチベーションに

トップアスリートが「今、この瞬間」にフォーカスすることで得られる効果は多岐にわたります。

現在の自分の置かれた状況に感謝することで精神的な安定が得られ、不安やストレスが軽減されます。これによりって、より前向きな姿勢で挑戦に臨むことができます。また、自分の現在の状態を受け入れることで、無理のない着実な成長が可能になります。

外的な評価や比較ではなく、自己の内なる声に基づいた成長を追求できるようになることも、むしろメリットになります。

「内発的な動機付け」と呼ばれるモチベーションは、他者やお金やモノ、地位や名声といった物質的な欲求からくる「外発的動機付け」と違い、枯れることがなく持続可能な成長の鍵となります。

「今、この瞬間」に集中することで、新しいアイデアや解決策を生み出す創造性も高まります。そして、失敗や挫折を過度に恐れることなく、チャレンジを続けられる心の強さ=レジリエンスも育まれていくのです。

アスリートが、「今、この瞬間」に完全に集中する能力を求めて、マインドフルネスを取り入れるという話もよく聞きますが、過去や未来ではなくひたすら「今、この瞬間」に集中する能力を高めるマインドフルネスは、アスリートの能力やマインドセットを整えるのに適しているといえます。

インスピレーションはどこからやってくるか?

過去の失敗や未来の成果、勝利にとらわれると、最高のパフォーマンスを発揮できないのは、アスリートだけではありません。

アーティストやクリエイターなどクリエイティブな仕事では、「今、この瞬間」からインスピレーションを得て作品を生み出します。

クリエイターが、真に自分らしい表現を見出すためには、技術や知識を前提に、現在の充足感が導く創造性が必要です。

「降りてくる」「突然、浮かんだ」というインスピレーションは、ただ待っているだけではやってきませんし、「インスピレーションを得よう」と思考を巡らせている間は何の音沙汰もありません

持続可能な経営に不可欠な充足感

経営、ビジネスにも同じことがいえます。

現在のチームや自社の強みに目を向け、感謝の気持ちを持つことは、より建設的な問題解決や革新的なアイデアの創出につながります。

外部の評価や競合他社との比較に振り回されているうちは、いずれ“壁”か“崖”に行き当たるチキンレースに参加しているようなものです。

何より大切にすべきなのは、自社の独自の価値観や強み。社員一人ひとりが「今、この瞬間」を生きることで生まれるモチベーションを、企業のパーパスやミッションに接続できてこそ、“持続可能な競争力”が生まれると私は思います。

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