#70 スタートアップ創業:ビジョン vs 実行
最近、Huluで上映中のテレビ番組「The Dropout」を見て、また、フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグの話を描いた映画の「ソーシャル・ネットワーク」ももう一度見ました。前者は、シリコンバレー最大のスキャンダルとなったセラノス社の創業者エリザベス・ホームズの物語を描いています。彼女は投資家、顧客、そして従業員に対して嘘をつきました。投資家の資金$700M(約900億円)が蒸発し、セラノス社の従業員800人は職を失いましたが、最もクリティカルなことは、間違った医療情報で10万人を超える人々の健康を危険にさらしたことではないかと思います。彼女の裁判は今年の初めに終わったばかりですが、詐欺罪で告発され、有罪判決を受けています。
マーク・ザッカーバーグとエリザベス・ホームズには共通点があります。1984年生まれの同い年として(私とも同じです!)、一流大学を中退して、同じ時期に会社を興しました。マークはハーバード、エリザベスはスタンフォードを中退しています。
二人とも友達がたくさんいるような社交的な性格ではなかったようです。フェースブックやセラノスを成長させていくに過程で、幾つもの道徳的とは言えない行動もしています。勝つことにも非常に執着していることも二人の共通点です。でも、彼らは著しく異なる道を歩むことになります。どういう決定的な違いがあったのでしょうか。
「Fake it till you make it」、すなわち「うまくいくまでは、うまくいっているふりをしろ」は、シリコンバレーのマントラです。そしてエリザベス・ホームズはそれを見事に実行しました。彼女はウォルグリーン(マツキヨのようなアメリカの大手ドラッグストアチェイン)に「製品は完成している」と嘘をつきました。セラノスのデバイスはウォルグリーンの店舗で血液検査を行うはずだったのですが、実際にはデバイスは動いてなかったのです。まだ完成していないデバイスを完成しているふりをして店舗に配置し、実際は採集した血液を自社の研究所に送って、他社のデバイスで検査を行なっていたのです。しかも、郵送中に多くの血液の状態が悪くなり、患者はHIVの偽陽性や流産の偽陽性といった間違った結果を得てしまっていました。このような検査が100万回以上、行われたようです。
マーク・ザッカーバーグは、彼女にフラれたことをきっかけにフェースブックを始めたと言えます。フラれたその日、酔っ払ったままハーバード大学の女子学生の写真を比較するサイト「FaceMash」を作ったのがきっかけで、フェイスブックのアイデアの一部が生まれました(残りは他のハーバード大学の双子学生たちから得ています)。FaceMashが大成功した後、彼はわずか2ヶ月でフェースブックを作り上げました。意図は稚拙だったが、実行は見事だったのです。
一方、エリザベスは、壮大なビジョンを持ってセラノスを立ち上げましたが、それを実行に移すスキルは足りませんでした。彼女はより多くの人の命を救いたいと思っていたし、最後の最後までそれができると思い込んでいたかもしれません。しかし、そのビジョンを実現する能力も、そのために必要な人材を周りに置く能力も、彼女にはなかったのです。
セラノス社の事例から学べることは多いです。人の命が関わってくるバイオ分野では、「Fake it till you make it」を実行するのが大間違いでることはもちろんです。フェースブックの機能が動かないのとはレベルが違うインパクトがあります。
また、創業者にそれを実現する能力がない限り、ビジョンはあまり重要ではないのかもしれないということです。創業者が最初から壮大なビジョンを持っていなかったとしても、何かを作り上げる能力があれば、フェースブックのように、かっこいいビジョンを後からつけることができます。もちろん理想を言えば、創業者はその両方を持っているべきですね。しかし、もしどちらかを選ばなければならないとしたら、やはりより重要なのはビジョンよりも実行できる能力ではないかとThe DropoutとThe Social Networkを見て改めて考えました。
References:
・Take a look through Facebook's past - https://www.zdnet.com/pictures/take-a-look-through-facebooks-past/