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みせとものときろく OLD&NEW
はじめに
"もの"の背景を作り手・伝え手の目線で届ける。
「みせとものときろく」
今回は以前ご紹介したWhite Kingsさんが入る八木ビル2階にある知る人ぞ知る名店『OLD&NEW』さんです。
長年アパレル業界の最前線にいらっしゃったオーナー川上さんならではの貴重なお話を是非お楽しみください。
OLD&NEW 基本情報
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Shop name: OLD&NEW
Owner name: 川上 様
Category: VINTAGE WATCH・SIGNET RING・etc.
Adress: 東京都中央区銀座1丁目19-12八木ビル 2階
Business Hour: 11:00 - 19:00
Instagram: https://www.instagram.com/oldandnewginza/?hl=ja
Web: http://www.oldandnew-web.com/
Chapter1. 原点
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神谷:ヴィンテージ時計の原点についてお聞かせください。
川上:時計を集め始めたのは今日も着けているエルジン※がきっかけです。中古のシチズンの時計を親に買ってもらって着用していましたが、中学二年生の頃「親父、もっと時計ないの?」と聞いた時にこのエルジンを出してきたんです。
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Topics:エルジンの歴史
1864年に前身National Watch Companyがリノイ州エルジン市で創業。1874年にはElgin National Watch Companyに改称。大規模工場による大量生産によりウォルサムと並ぶアメリカを代表とする時計メーカーとなる。1881年にはアメリカ鉄道の懐中時計に正式採用され、1910年からアメリカ陸海空軍の公式時計として第一次世界大戦で活躍したことをキッカケに男性用腕時計に着手しアメリカ国内の男女を魅了。1950年代初頭まではアメリカ黄金時代の象徴的な時計とされていた。
その後1960年代にはアメリカ時計業界全体の衰退と共に勢いを失い、工場が閉鎖されライセンスブランドとして残ることとなりました。
それから、この時計を着けてバスケしたり手洗いをしたり…ちょっと粗末に扱っていました。笑
しばらく経って大学生になった時に引き出しを開けたら、この時計が動かないまま置いてあって。
その時になんてカッコいい時計なんだと感じました。
バランスといい大きさといい最高でした。
親父に「申し訳ない、粗末にした動かない」と言ったところ、時計屋を回って修理してくれました。
直った後、浅草の時計屋に見せたら「これは珍しいよ」と。
角は本数が少ないんだなと分かりましたね。
ちょうどその頃に親父からこの時計を手に入れたきっかけについて聞いたんです。親父は時計が趣味ではないのになんでってね。
この時計は親父が1949年に横須賀で若い米兵に譲ってもらったものなんです。当時は朝鮮が燻り始めていて新兵が横須賀にどんどん来ていた時期だった。将校クラブに行く途中で新兵から当時の値段で3千円で購入したと。
時計は1948年製で、おそらくその若い米兵も1年前に両親から贈られたものだけど戦争に行ったら生きて帰ってこれるかわからない。だから遊ぶ金のために親父に売ったんでしょうね。
そして、実は私が1948年生まれなんです。
それからアメリカ時計が好きになりましたね。
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神谷:素晴らしいストーリーですね。それはアメリカ時計を好きになりますね。
川上:1975年にPOLOの企画打ち合わせでアメリカに出張した時、角の金(※1)がいっぱいあったんですよ。
※1:角金時計のこと。角型で金張りケースを有する時計を指す。アールデコの影響を受けたものが多く、1930~1940年代後半に多く製造された。グラマラスなケース形状を持つものが多い。ブローバやハミルトン、川上氏所有の様なエルジンが代表的。
幸いなことに、当時は年5回アメリカ出張に行く機会がありまして。
香港とシンガポールの出張もあったのですが、香港・シンガポールでは買うものがなかったので、そこでもらった日当をアメリカ出張に行った時に時計の購入に充てていました。ボーナスの月には使える金額が増えるので、3つ買えましたね(笑)
全ては親父からもらったエルジンが原点なんです。それがなかったら時計の「と」の字もない(笑)
僕はアメリカが大好きなんですよ。だって僕らの頃は音楽も映画も食べ物もファッションも全てアメリカです。当時は百貨店に行っても、今と違ってアメリカのものは置いていませんでした。なのでアメ横でよく探していましたね。
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ある時、デニムのスニーカーを買ったことがありました。高校の友達に「それどこで買ったの?」と聞かれましたが、店を教えるのも癪(しゃく)だったので、「アメ横。探せ」とだけ言いました。笑
自分たちで発見して誰かに認められる。口コミは一番確実なんです。ここ(OLD&NEW)もそうです。たまにECはやらないんですか?と聞かれることもありますが、それも同じ理由です。
他にもアパレルで働いている子達に「服はやらないですか?」と聞かれますが、服をどう飾るかを提案したいのです。
男性にお洒落になっていただきたい。デコラティブではなく、キラッと輝く男の何かを提供したい。そのお手伝いをするために、日夜戦い続けています。スーパーマンみたいに。笑
Chapter2. 創業と店名の由来
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神谷:お店を始める際にシグネットリングに着目された理由はどういったものだったのでしょうか?
川上:ニューヨーク マンハッタンで時計を買っていた店の近くにシグネットリングを売る店があったんです。
店頭に出ていたのは、レディースの小さいものだったので、いつもは挨拶をするくらいだったのですが、ある時ふと見るとひときわ大きなリングがあったので見せてもらいました。そしたら指にぴったりだったんです。笑
それがシグネットリングだったんです。
メンズリングといえば、カレッジリングだったのですが、大きいし色石が入っているものも多く、服に合わせるのが難しいと感じていました。それに比べてシグネットリング(※2)は指にフィットすることため取り扱うことを決めました。
※2:印台にイニシャルを彫った指輪。
店主に「どこで買える?」と聞いたら、「探せ」と。
それからマンハッタン中を周りました。その時に足で見つけた店から今でも定期的に送ってもらってます。
シグネットリングを結婚指輪やカップルで着用することも勧めていてこれまで72組に購入いただいていますね。
日本って結婚指輪はかまぼこ型が多いんですよ。それで内側にイニシャルを彫る。なんで隠すのと。
家紋だからカモン(笑)
※購入したカップルの中には誰もが知る有名人の名前も。
神谷:店名の由来を教えてください。
川上:古いものを今風に使いこなすという意味合いが込めています。
「日本の1丁目1番地」だから銀座に店を構えました。
Chapter3. 強みと特徴
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川上:バンバン売れても困っちゃうんですよ。なので本当に好きな人に売れれば良いと思っています。
神谷:仕入れの数は減ってきているのでしょうか?
川上:何とかやっています。色々な場所で販売するのですが、結構出ることもあります。
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神谷:お店の特徴を教えてください。
川上:男のおしゃれアイテムがメインです。来ていただければ何でもお教えします。
昔は"もの"にこだわりがあったんです。買わなくても着こなしや歴史など色々教えてくれる店があった。そういったエデュケーショナルなショップを目指したいと思っています。
今の百貨店は、お客様をアゲてアゲてをしてしまうので、お客様は自己を見失い、本当に自分に似合うものがわからないんです。本来であれば、お店は「購入していただく/売ってあげる」、お客様は「売っていただく/買ってあげる」というのが正常です。互いをリスペクトし、けれど特別扱いしすぎないのが健全であると考えています。
神谷:OLD&NEWさんで取り扱っている商品はは川上さんのご自身にとってどういうものでしょうか?
川上:大それたものではないです。幅にもリミットがあります。100万円の時計なんて買えないから買わないんです。そもそも自分が買えないでしょと。笑
自分が買えて人にも勧められるもの。ちょっと頑張れば買えるものを置いています。
昔、あるお客さんがいらしてウチのリングを見て「安いね」とおっしゃったので、ティファニーの金と、俺のところの金は何が違うんだと。
自分が良いと思ったら買えばと。自分たちで探しませんかと。
使い勝手も含めて教えたいです。なのでネットではやっていません。使い方を教えると皆さんわかっていただけます。
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ここにあるシグネットは、オーバル、スクエア、シールド、クレストの大きくは四種類に分類されます。人はそれぞれ手の大きさが違いいますし、どの指に着けるかによっても綺麗に見えるかが変わります。
バランスがあるので絶対ネットではできません。
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時計のカラーベルトもそうですね。実際に組み合わせてみないと分かりません。私はまず使用目的を聞きます。何に使うのか?プライベートなのか、仕事で使われるのかと。
それを聞いていただいたうえで、決めるのはお客様ご自身です。決め台詞は「最終ジャッジはあなただし、最終支払いはあなたです」というのです。笑
Chapter4. ビジョン
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神谷:今後、このお店をどうしていきたいか教えてください。
川上:受け継いでいきたいですね。職人の息子はバックボーンが違いますが自分が培ったアメリカ仕入れなどは引き継いでいきたいです。常にリレーですね。
※息子さんのお店 ajinaはレザー・シルバーアクセサリーをデザイン・制作・メンテナンスまで一貫して行っている。
Chapter5. オーナー川上様を象徴する”もの”
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前述のエルジン・デラックス
裏蓋にはお孫さんのイニシャルを彫っているそうだが、いつどの段階でお孫さんに譲るかは決めていないという。
4世代に跨り、歴史と想いを繋ぐ時計。
"もの"に命は宿っていないが、使う人の魂は宿り受け継がれていく。
時を刻む時計もメンテナンスしなければ動かなくなるが、想いを受け継いでいれば次の所有者がメンテナンスを続け永遠に生き続ける。
改めて"もの"が持つ可能性と価値を感じることができました。
Chapter6. これから来るお客様へのメッセージ
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編集後記
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いかがだったでしょうか。
日本アパレル業界の生き字引である川上さん。
記事中でご紹介した以外にもあらゆるストーリーを語っていただき、当時の臨場感と興味深い話の数々に取材そっちのけで聞き入ってしまいました。
なんでも情報が手に入ると誤解される現代ですが、たった数十年前のアパレル業界がどういったものだったかであったり、当時の小売店やお客さんの関係性などは知っている方から聞かないとわからないことの方が多いのは事実です。
そして、今当たり前に行われていることが昔より良いこととは言い切れなく、より良くするためは歴史から学び考えないといけないこと。
OLD&NEWさんへの取材で強く感じることができました。
取り扱っている商品が素晴らしいことは言うまでもなく、川上さんのお話はファッションが好きな方にとって必ず得るものがあります。
少しお時間に余裕を持って是非OLD&NEWさんに足を運んでみてほしいです。
ものときろく代表 神谷