IMCを成功させるメディアプランナーとは
I. IMCとは?
IMCとは「Integrated Marketing Communications」の略で、統合マーケティングコミュニケーションを指します。企業が一貫したメッセージとブランドイメージを消費者に伝えるために、さまざまなマーケティング手法やチャネルを統合的に組み合わせてプランしていく事が大きな特徴です。IMCは消費者に対して一貫したブランド体験を提供しやすくなる為、効果的にブランド認知やロイヤルティを高めることができると考えられています。
そう聞くと小難しく聞こえますが、実はやり方はとても簡単で「プロジェクトの初期段階から各プランナー同士がディスカッションしながらプランニング作業を進めていく」だけです。
私達VOSTOK NINEは過去に大手広告代理店で広告投資プランニングを行ってきたメンバーで構成されていますが、メンバーの多くが過去「IMCプランニングをやろうと(何度も)試みた事はあったけど、結局上手くいった経験は少ないよね」という感想を持っています。同時に「あの時は本当に上手くいった」という経験もあります。 今回はそれらの経験から「何故IMCプランニングが実際の広告プランニングの現場で上手くいかない事が多いのか」「メディアプランナーとしてどうすればIMCプランニングに貢献出来るのか」を整理してみたいと思います。
II. IMCプランニングの現状
そもそもIMCプランニングは広告主にとってはメリットしかありません。更に戦略〜クリエイティブ、メディア、PR、CRM、ダイレクト…と全てのプランニング機能を持つ総合広告代理店ではチャチャっと簡単に実現出来そうな気もします。では一体何がハードルになっているのでしょうか。
●ハードル①「思った以上に忙しい広告業界」
IMCプランニングを行うにはまずプランニングの初期段階で戦略・クリエイティブ(勿論、プロジェクトに応じて戦略PR、CRMプランナー等関わるであろうプランナー全て)と同じ目線で議論を開始する必要があります。 これはプランナーに限らずではありますが、広告代理店での業務は大体の場合激務になっていると思います。皆、当然のように複数の案件を抱えているので、まず打ち合わせの時間を合わせるだけでも相当な困難を伴います。そういった状況の中、大体の場合「皆忙しいので、全員集まるのはキーになるタイミングのみ、その他はセクション毎に個別に進行していく」という進行方針を選択する事が多いと思います。
これはまだ良い方で、場合によっては「とりあえず時間が無いので戦略と先に詰めて戦略の方向性が見えたら次にクリエイティブに声かけて…メディアに声かけて」というフォード生産方式のような進行方針を選択する場合もあります。そうなると各分野のプランナーが議論するタイミングがそもそも存在しません。こういった進行の場合、私達のメディア領域であれば「戦略があって、クリエイティブが決まっているので、それに沿って最大露出させるプランを作るだけ」の作業になってしまいます。
消費者のメディア消費や情報への接触態度は常に変化していて、それに合わせたチャネルで適切なクリエイティブ開発をした方が良い結果に繋がる気はしますが、そもそもクリエイティブや戦略にそういったインプットをする機会すら無くなってしまいます。
●ハードル②「各プランナーの他領域への理解不足」
多くの広告代理店では戦略やクリエイティブ、メディアは部署が分かれています。多くの会社と同じように部署が異なれば他部署のプランナーと会話する機会は少なくなります。又、広告プランナーは大体の場合は広告主に紐づいて業務を行いますのでその広告主が戦略やクリエイティブを必要としない、即ちメディア領域のみの受注となっている場合などでは極端な話「1年間、社内の戦略やクリエイティブと仕事をしていない」なんて事も起こりえます。そうなると当然の事ながら「他部門のあの人と一緒に議論したらめちゃめちゃ面白いコミュニケーションアイデアが生まれた」という成功体験も少なくなりますので「効率的に進行出来た方が良い(フォード生産方式で問題無し)」という考えに違和感を持ちにくくなってしまいます。
私達の経験上、これらがIMCプランニングを行う上での大きなハードルになっていたように感じます。ではこういった環境を打開する為、私達メディアプランナーは何をすべきなのでしょうか。
III. 最も大切なのは初手の動き
IMCは戦略→クリエイティブ→エグゼキューション→メディアと一方通行の設計では無く、それらのプランナーが各領域の専門家視点を持ち寄り同時に1つのプランを設計していく手法です。 ですので、戦略パートが出来てクリエイティブパートが出来て、それからやっとこさ重い腰を上げるスタイルでは到底IMCプランニングが出来ない事は前述の通りです。 まずプランニングの初期段階で戦略・クリエイティブ(勿論、プロジェクトに応じて戦略PR、CRMプランナー等関わるであろうプランナー全て)と同じ目線で議論を開始する必要があります。 この「初期段階」から車座で話す環境というのが本当に大切で、私達も初手でまずこの環境を作る事を目指します。当然各代理店の方針や雰囲気もあると思いますし営業の進行方針にもよりますので、そういったステークホルダーと粘り強く交渉したり、色々と難しい場合は勝手にフラフラと席まで行って即席のブレスト大会を開催するなり状況に応じて気合で用意します。何はともあれプランナー同士が「最初から直接話す事」はIMCプランニングの大前提になりますのでここは頑張りどころです。
IV. 最初の打ち合わせ(ブレスト)への準備
なんとか初期段階から各プランナーが集まる環境を整える事ができ、更に私達メディアプランナーもその打ち合わせ(ブレスト)に参加出来たとします。ここで既にIMCプランニングへの道は80%くらい達成出来ているのですがまだ気を抜いてはいけません。折角苦労して得た環境ですから、時間が許す限り事前準備をして臨みます。
RFP(クライアントからのブリーフィングシート)を事前に読み込む
→ これは絶対に欠かせません。RFPは絶対に事前に読み込んでおきます。読み込んだ上で下記のポイントをしっかりと事前に自分の中で整理してメモに残し初回打ち合わせ(ブレスト)に臨みます。広告の目的、予算規模を踏まえ大凡の使用チャネル(テレビなのかデジタルなのかその他なのか)の目処はつけておく。
→ 基本となる展開メディアのイメージがつけば戦略もクリエイティブもより具体的な作戦を考える事が出来ます。目処をつけたチャネルで最近面白い展開事例が無いか事前に探しておく。
→ 「彼を知り己を知れば百戦殆からず」ですので、時間が許す限り調べて全体共有します。他のプランナーも同じ事を調べているかもしれませんが、それでも全然OKです。共通言語が出来るのでこのタイミングでの作業被りはむしろ歓迎すべき事だと思います。その他、参考になりそうな成功事例があれば事前に集めておく。
→ 特にキャリアが浅いと「若輩メディアプランナーだから先輩CDを前にエグゼキューションまで語るなんて…(自分の知識不足を披露するようで)恥ずかしい。皆が当たり前に知ってる事を披露してしまったら恥ずかしい。」という慎ましい考えが頭を過る事もあるかと思いますが、少なくとも集める作業は誰にもバレませんので集めます。打ち合わせで発言するかどうかが問題では無く、成功事例を知っておくという事がこれから行うプランニング作業においてとても大切になります。RFP上の矛盾点(例えばデジタルのみを使い3ヶ月1億円の予算で広告認知70%獲得してくれ、というような既存のPaidメディア展開だけでは実現不可能な内容等がもしあれば)は整理しておく。
→ 広告主はマーケティングのプロであって大体の場合広告の(更にはメディアの)プロではありません。ですので案外荒唐無稽な定量目標が設定されている事があります。それにどう対応するのかという問題を放置しておくとプランニングの後半で自分の首を締める事になりますのでそういった懸念は必ず整理しておくようにします。KPIが(広告助成想起等の)容易にシミュレート可能なものだった場合、例えば予算を全てTV(デジタル)に使った場合は大体〇〇%の認知が獲得出来るであろう、という試算はしておく。
→ 精緻に計算すると時間がかかると思いますが、ざっくり45%くらい、くらいの粒度であればすぐに計算出来ますのでチャチャっと計算しておきます。これは戦略上も大切になってくる”アタリの数字” になります。「どうやら今回はTVだけやっても目標達成は難しいぞ」となったら、そこで起死回生のアイデアを皆で考えていくのがIMCプランニングの醍醐味だったりもします。競合他社の出稿状況をザックリと見ておく。
→ これも「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です。まず勝負する相手の活動を知る事は何より大切ですし、その活動内容によってこれから作ろうとする戦略やクリエイティブアイデアは大きく変わってくると思います。
V. 最初の打ち合わせ(ブレスト)における大切な事
メディアは定性的な部分も多いですが、定量的な側面も非常に多い領域です。その為、ブレストをしていると定量的な側面から「それは無理っすね」的な事を言ってしまいたくなる事もあるかと思いますが、このタイミングでは可能な限り定量的な部分での判断はしないようにします。経験豊富な各プランナーが集まって世の中に無いアイデアを今まさに作ろうとしている訳です。実績の無い新アイデアは当然広告効果の正確なシミュレートは不可能ですし、昨日までの理論の枠内では無理でも、ここで出た凄いアイデアを持ち帰ってもっと深く一考すればもしかしたら実現可能になるかもしれません。 私の尊敬するオグルヴィも「変化は我々の活力、停滞は死を告げる鐘だ。」と言っています。今まさに社会を変えるディスカッションが行われています。それを私達メディアプランナーが停滞させてはなりません。
VI. 【まとめ】IMCプランニングは泥臭いが、広告の醍醐味
IMCはその名の通り「統合」されている事がポイントになりますので全プランナーがプロアクティブに設計に関わる必要があります。最初のブレストでそこまで準備していくなんて時間的に無理、というケースも多いかと思います。それでも無理をしてでも何か一つでも準備をしていく。それがIMCプランニングを成功させるポイントだと思いますし、その”無理”に見合うだけのリターンが必ずあります。
そもそもIMCは泥臭い作業の積み重ねです。既存の枠組みの中で効率、効果を語り合う事では無く、社会にとっての新しい価値、広告主にとっての新しい戦略的価値を皆で生み出す作業です。そういったコミュニケーションを生み出せるチャンスは本当にワクワクしますし、私達はそれが広告に関わる醍醐味だと感じています。
繰り返しになりますが、私達広告マンにとっても広告主にとっても無理に見合うだけのリターンが必ずあるのがIMCプランニングだと信じていますし、少なくとも広告主にとってこの手法を取る事のデメリットはありません。 「デメリット0で、めちゃめちゃ大きなリターンを得る可能性はある」 こんな美味しい投資話は他に無いと思いますので、ぜひまずは周りのプランナーと話す事からIMCプランニングを試してみてもらえると嬉しいです。