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開発者体験の未来:マッキンゼーとマイクロソフトが示す、開発生産性のその先 #DevEx

こんにちは、vonxai合同会社の夏目です。近年、ソフトウェア開発の現場で注目されているのが「開発者体験(DevEx)」という概念です。複数の調査と専門家の意見により、従来の開発生産性(Developer Productivity)からDevExへのシフトが求められていることが明らかになっています。この記事では、マッキンゼーとマイクロソフトのアプローチを基に、その理由と背景を探っていきます。
この記事で学べること:
1.マッキンゼーとマイクロソフトの開発生産性に対する視点の違い
2.開発生産性が抱えている課題と解決策
3.DevExによる持続可能な開発者体験


開発者のベロシティとは?マッキンゼーの革命的なアプローチ

Developer Velocity(開発者のベロシティ)とは

マッキンゼーは2023年8月に開発生産性指標について『Yes, you can measure software developer productivity』という記事を公開しました。このタイトルと記事は多くの注目を集めましたが、まずはマッキンゼーがここに至るまでの取り組みを振り返りたいと思います。
マッキンゼーは2020年4月に発表した『Developer Velocity: How software excellence fuels business performance』において、開発者に権限を与え、最大限にイノベーションを発揮できる環境の重要性を強調しました。これを「Developer Velocity(開発者のベロシティ)」と呼び、開発者のベロシティがビジネスパフォーマンスに直結することを示しました。

開発者のベロシティ調査から作成した指標

マッキンゼーは440社の大企業の上級管理職や100人以上のCTO、CIOへのインタビューを基に、開発者のベロシティを高めるための指標「Developer Velocity Index(DVI)」を定義しました。DVIはテクノロジー・業務慣行・組織の強化にわたる13のケイパビリティ領域に分かれています。この調査結果から、ビジネスパフォーマンスに最も大きな影響を与える4つのケイパビリティは、ツール、文化、製品管理、および人材管理であることがわかりました。

Developer Velocity: How software excellence fuels business performance

マイクロソフトとGitHubによるDeveloper Velocity Labの立ち上げ

マッキンゼーがDVIを発表した翌年の2021年3月、マイクロソフトも開発者のベロシティに関するホワイトペーパーを公開しました。この調査は2020年後半にマッキンゼーと連携して実施され、DVIのスコアを計測するためのアセスメントも同じ時期に公開されました

弊社が実施した開発者のベロシティアセスメント結果
弊社が実施した開発者のベロシティアセスメント結果

Developer Velocity Labの設立

2021年5月、マイクロソフトはGitHubと共同でDeveloper Velocity Labを立ち上げ、同年6月にはNicole Forsgrenがこの研究所のパートナーとして加わりました。Nicole Forsgrenは、開発生産性指標であるDORAのFour KeysやSPACEに貢献したことで知られています。

Developer Experience Labへの改名

2023年5月、Developer Velocity LabはDeveloper Experience Labに改名されました。この変更は、開発者の速度や生産性だけでなく、彼らの満足度やウェルビーイングにも焦点を当てる新たな視点を反映しています。
Nicole Forsgrenは、この改名の背景には、開発者が直面する課題を解決し、彼らがより生産的で幸せな環境で働けるようにする必要性があると強調しています。また彼女の共著「DevEx: What Actually Drives Productivity」では、開発者体験の向上が生産性とビジネスパフォーマンスを促進すると書かれています。

マッキンゼーによる開発生産性の新たな指標

2023年8月、マッキンゼーは「Yes, you can measure software developer productivity」という記事を公開し、新たにOpportunity-focused指標を提案しました。この指標では、内部/外部ループに費やされた時間(Inner/Outer Loop Time Spent)やDVIなどを組み合わせています。

DORA vs SPACE vs Opportunity-focused metrics

これらの持続可能な開発体制に焦点を当てることで、組織は開発者の生産性を向上させ、ビジネス成果と開発者の満足度を同時に高めることができ、より効果的で充実した作業環境を創り出すことができると主張しています。

開発生産性からDevExへ:持続可能な開発者体験へシフト

従来の開発生産性指標であるFour Keysは、個人、チーム、組織の生産性向上にフォーカスしていましたが、開発者の燃え尽きやウェルビーイング、ビジネスへの影響に対するコミットメントの薄さが課題でした。これらの課題を解決するために生まれたのがDevExです。

DevExの利点

GitHubのブログでは、DevExについて「開発生産性+プロダクトへのインパクト+満足度のコラボレーションがDevEx全体にわたる乗数として計算される」と説明しています。

Developer experience: What is it and why should you care?

これによって、開発生産性、プロダクトへのインパクト、そして開発者の満足度という三つの主要な観点からDevExの利点が明らかになります。
開発生産性の向上
まず、優れた開発者体験は開発者が効率的に作業を進められる環境を提供し、生産性を向上させます。これは、最適化されたツールやプロセス、迅速な障害解決、そして不要な業務の削減を通じて実現されます。
プロダクトへのインパクトの向上
次に、プロダクトへのインパクトにおいて、開発者体験の改善は直接的にビジネス成果に結びつきます。効率的な作業環境により、プロダクトの市場投入までの時間が短縮され、品質も向上します。これにより、企業は競争力を維持しやすくなります。
開発者の満足度の向上
最後に、開発者の満足度の向上です。良好な労働環境やサポート体制が整っていると、開発者は仕事に対する満足感を高め、モチベーションを維持しやすくなります。これにより、離職率の低下にも寄与します。

これらの要素は、企業の長期的な成功に不可欠であり、開発者体験の向上がビジネスの成長を支える鍵となります。

結論と今後の展望

Developer Velocity Labから名称をDeveloper Experience Labに変更したマイクロソフトと、Developer VelocityからDeveloper Productivityへ言及対象を変更したマッキンゼー。一見すると両者のアプローチは異なるように見えますが、最終的にはどちらも開発生産性のみならず、それを踏まえた上で、持続可能な開発体制の向上を目指しています。
この記事を通じて、開発生産性の課題やそれを解決するためのDevExの重要性、そしてその背景にあるマッキンゼーとマイクロソフトの視点の違いを理解し、今後のDevExの向上に繋げていただければ幸いです。

この記事を読んでいただき、開発生産性の課題やDevExの重要性について理解を深めていただけたら幸いです。もしこの記事が役立ったと思われたら、ぜひ「スキ」を押していただき、他の読者とも共有してください。
また2024年7月16日に日本CTO協会主催のDeveloper eXperience Day 2024が開催されるので、興味がある方は参加してみてはいかがでしょうか。最新の開発者体験に関するトレンドや実践的な知見を得る絶好の機会です。

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