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【アーカイブ記事(2016/08/18公開記事】「#眞鍋JAPAN総括 ① 〜選手のフィジカル、コンディショニングの視点から〜」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール


 サッカーなどの運動量の多い競技では、国際大会が行われる度に(特に予想された結果が出なかった際に)コンディションの問題がしばしば話題にあがります。直前合宿での調整失敗や海外組含めたリーグでの疲労に加え、時差や長距離移動による疲労など、それらが敗因の一つに挙げられる事も少なくありません。

 他競技に比べバレーボールでは、国際大会後に選手のコンディションに視点を向けた記事はあまり見かけませんが、バレーボールでもコンディションやフィジカルの重要性は高いと思います。

 いや、高くなってきていると表現する方が適切かもしれません。

  なぜなら、現在のバレーボールで世界と戦う上で欠かせない、ブロックのバンチリードシステムや、数的有利を作り出す為の後衛アタッカーの攻撃参加、ブレイク率を上げる為のスパイクサーブの多用、といった要素を最大5セット、最後までパフォーマンスを下げずに完遂する為には強いフィジカルや高い運動量が必要だからです。


◎「ピーキングに失敗している」ように見えた眞鍋JAPAN

 私はトレーナーという職業柄、リオ五輪本番に限らず、OQTや昨年のワールドカップにおいても眞鍋JAPANの選手たちは、コンディションが整っていないままに大会を迎えてしまっているのではないか、と感じることが多々ありました。

 目標とした試合や大会をピークで迎える為に調整していく(ピーキング)場合、「超回復理論」と「フィットネス − 疲労理論」の二つの調整の考え方があります。

 長くなるので詳しくは説明しませんが、前者なら積極的に休息を入れることが重要で、疲労が取れて体力が超回復したタイミングで試合を迎えるように調整します。疲労が回復しないままトレーニング(練習)を重ねると体力は低下する一方ですし、休みすぎても体力が低下します。

 後者は大きな休息は入れずにトレーニング(練習)を積んでいきますが、試合が近づくにつれ徐々にテーパリング(量的緩和、トレーニングや練習量・頻度を減らすこと)を行って疲労を取り除き、高いフィットネス(体力レベル)で試合を迎えるようにします。テーパリングがうまく行かなかった場合、疲労が残った状況で試合を迎えることになってしまいます。


 眞鍋JAPANのスタッフが、「超回復理論」と「フィットネス − 疲労理論」のどちらをメインに用いているかはわかりませんが、どちらの考え方を採用するにしろ、休息や練習量・頻度の緩和が重要になるということです。

 トランジション時のスパイク決定率などを国内リーグ時のものと比較したり、ゲーム中のスパイカーの到達打点高や助走スピードなどを計測したわけではないのであくまで私見になりますが、もしピーキングに本当に失敗しているとすればなぜなのか?

 そこには眞鍋JAPANをはじめとする日本バレーが目指してきた戦術的要素に、根本的な問題が隠れているのではないかと考えます。


◎ “精密力” の追求が招いた「選手のオーバーワーク」

 伝統的に全日本女子の武器とされているのは、Aパスから繰り出される多彩な攻撃パターンならびにディフェンス(レセプションやディグ)であり、眞鍋JAPANにおいても攻撃面ではスピード、守備面ではレセプションやディグの精度を上げ、世界一を目指すと公言されています。

 特に攻撃パターンは、ナショナルチームとそれぞれの所属チームではメンバーの違いから異質なものになるので、精度を高めるにはかなりの練習量・時間が必要になるかと思います。

 競技練習時間が長すぎた場合、テーパリングにも配慮すると、フィジカル強化はしづらくなります。しかし長期的な目で見れば、フィジカル強化もしないと技術は向上しませんし、試合で高い運動量をキープすることができません。


 直前合宿というのは本来、コンディションを調整する期間だと思います。現に米国女子代表では、運動負荷を計測できるウェアラブルを使用して可視化されたタイミングで練習内容の切り替えなどを行っています。


 男子の世界各国のように、セッターとスパイカーがコンセプトを共有する「誰とでもファーストテンポ」が、それぞれのクラブで実践できている環境なら、メンバーが違うナショナルチームでも同様に「誰とでも」なので、攻撃の精度を高めることに割く時間やフィジカルへのストレスが、かなり減らせると思います。

 また国内リーグでも後衛での攻撃参加がどのチームでも行われているなら、ナショナルチームでそれを求められたところで急に運動量が上がるわけでもないので、コンディション的にも対応は難しくないはずです。

 ところが現実には、特にセッターをはじめ、主力メンバーが入れ替わったロンドン五輪以降、違うメンバー同士でのプレーの精度を高めようと直前に詰め込むようなことになってしまうからテーパリングも難しくなり、コンディションが整わないまま大会を迎えたり、大会直前に故障や持病を悪化させる選手が出てくるのではないかと想像します。


 ナショナルチームのみならず、Vリーグやもっと言えばそれまでのカテゴリー、中学や高校の育成世代からファーストテンポやトータルディフェンスといった、世界で当たり前となっている技術や戦術に取り組むことで、ひいてはナショナルチームのコンディショニングも行いやすくなり、常に良い状態で国際大会を迎えることが可能になると考えます。


◎「トレーナーの立場から」日本バレーへの提言

 ファンの皆さんの間でしばしば議論にあがる眞鍋JAPANが抱える技術面、戦術面の問題点は、フィジカルやメディカルの分野にも直結する課題だと常々感じています。

 たとえば、山本隆弘氏も指摘していました(*1)が、宮下選手がボールの下に入るのが遅くアンダーハンドでセットするシーンが多かったり、長身の割にネット際でのセットで不安定さが露呈するのは、フィジカルの強化がされていないことの証です。

 他にも、木村選手が前衛時にサーブで狙われるのは全日本女子のスタッフなら想定範囲内のはずですが、レセプションした体勢からのスパイクで、バランスを崩して動き出しが遅れるために強打できない場面なども多々見られました。

 これらは数年前からの課題だったはずですが、全日本女子のストレングス&コンディショニング(S&C)コーチやトレーナー陣はきちんと改善策を練ったのか? それとも改善が行えない程の練習メニューの組み方を全日本はしていたのか?

 コーチ分業制を敷いていた眞鍋監督ですが、S&Cコーチやトレーナーとの意思疎通ができていたのかについては、疑問が残るところです。


 選手が少しでも良いコンディションで国際大会を迎え、大会の最後まで100%の能力を発揮してもらうこと、が私たちの使命です。他のスポーツではフィジカル、メディカルの視点から技術面、戦術面の改善・強化が見られることは多々あります。監督から「ここを強化してくれ」と頼まれた仕事をこなすだけではなく、バレーボールという競技の本質を理解した上で、チームの目指すべきカタチをフィジカル面、メディカル面からむしろ監督に提言できるようになることが求められていると思います。


 リオ五輪で目標だったはずのメダルには遠く及ばなかった現実を見る限り、日本バレーの今後の課題として、技術や戦術面はもちろんですが、同時にフィジカル面の強化が必要なことは明らかです。選手のオーバーワークを招くことなく、ナショナルチームのフィジカル強化に取り組むには、前述したような根本的な問題を、むしろ育成世代のカテゴリーやVリーグの各チームで改善していく努力が必要ではないかと考えます。

(*1) 「意図を明確に、やることを徹底せよ 山本隆弘が女子バレーGLを総括」(『スポーツナビ』より)

photo by FIVB

文責:井手口 翔星
元・兵庫デルフィーノ チーフトレーナー
鍼灸師、柔道整復師
現在は鍼灸整骨院を運営しながら、高校・中学カテゴリーの複数チームのトレーナーを務めている。

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