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フィル・フォーデン――夢を叶えた”アカデミー最高傑作”

マンチェスター・シティに所属する個々の選手の生い立ちやそのキャリアを紹介する連載記事City Stories。第3回は、アカデミー最高傑作のフィル・フォーデン。彼の栄光の裏に隠された物語とは。


マンチェスター・シティとの出会い

ストックポートで生まれ育ったフィル・フォーデンは、サッカーが家族の日常の中心にあった環境で育った。父親が熱狂的なマンチェスター・シティのサポーターだったこともあり、フォーデンにとってエティハド・スタジアムでプレーすることは、早くから抱いた夢だった。6歳の時、地域の大会で圧倒的なプレーを披露し、シティのスカウトの目に止まった。彼の才能を間近で見たコーチたちは、彼を「特別な存在」としてアカデミーに迎え入れた。

フォーデンはアカデミー時代から類まれな集中力とプロフェッショナリズムを示し、コーチ陣を驚かせた。学校の課題を終えるとすぐに練習場に向かい、チームメイトが帰宅した後もピッチに残ってシュートやパスの練習を繰り返した。才能に加えてこの努力家としての一面が、彼をシティの未来を担う存在へと成長させた。

フォーデンの家族は彼のキャリアを全力で支えた。特に母親は練習や試合への送り迎えを欠かさず、彼の夢を叶えるために尽力した。フォーデン自身も家族への感謝を忘れず、「家族がいなければ今の自分はない」と語っている。その感謝の気持ちが、彼の謙虚で誠実な人間性を支える一因となっている。

クラブでのキャリア――着実に成長を遂げる若き才能

夢へ歩みを進めたアカデミー時代

フィル・フォーデンのアカデミー時代は、その後の成功の礎を築いた重要な期間だった。ストックポートで育ち、6歳でマンチェスター・シティのアカデミーに入団した彼は、当初から他の子どもたちとは一線を画していた。試合で見せる巧みなボールタッチや相手の動きを先読みする能力は、コーチ陣やスカウトを驚かせた。その技術とサッカーIQの高さは同年代では突出しており、早くからチームの中心選手としてプレーすることが求められるようになった。

フォーデンのアカデミー時代を象徴する出来事の一つは、FAユースカップでの活躍だ。シティのU-18チームでキャプテンを務めた彼は、トーナメントで圧倒的な存在感を示し、クラブの未来を担う選手としての地位を確立した。また、彼は試合外でもプロフェッショナリズムを見せ、練習後に居残りでシュート練習を繰り返すなど、常に向上心を持ち続けた。アカデミー時代から示されたその姿勢は、後の成功につながる原動力となった。

17/18シーズン:夢の始まり

2017年、フォーデンはついにトップチームデビューを果たした。このシーズン、マンチェスター・シティはグアルディオラ監督の下で新たな時代を迎え、若い才能にもチャンスが与えられる環境が整っていた。17歳のフォーデンは、チャンピオンズリーグのシャフタール・ドネツク戦で初出場を果たし、プレミアリーグでも最年少出場記録を更新した。

デビューシーズンはフォーデンにとって学びの年であり、プレミアリーグや国内カップ戦で経験を積むことで、プロとしての適応力を身に着けていった。特に注目を集めたのは、マンチェスター・ダービーでのパフォーマンスだ。短い出場時間ながら冷静なプレーを見せ、グアルディオラ監督からも「並外れた才能」と評された。

18/19シーズン:成長の足音

18/19シーズン、フォーデンはトップチームでの出場機会を増やし、公式戦26試合に出場した。このシーズン、マンチェスター・シティはプレミアリーグ、FAカップ、カラバオカップの国内三冠を達成。フォーデンはこれらの成功に重要な役割を果たした。

特に印象的だったのは、プレミアリーグでのトッテナム戦。フォーデンはこの試合でプロ初ゴールを記録し、チームを勝利に導いた。このゴールは彼の成長を象徴する瞬間であり、フォーデンに対する期待がさらに高まるきっかけとなった。グアルディオラ監督も彼の進歩を称え、「彼のような若手を見ると将来が楽しみになる」とコメントしている。

19/20シーズン:カップ戦の主役

19/20シーズン、フォーデンはカップ戦で主役となり、その才能を発揮した。このシーズン、彼はカラバオカップ決勝でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれ、シティをタイトル獲得へと導いた。特にアストン・ヴィラとの決勝戦では、彼の正確なクロスが先制ゴールを生み出し、その後も中盤で支配的なプレーを見せた。

また、チャンピオンズリーグでも存在感を示し始め、レアル・マドリードとの対戦では、途中出場ながらも試合の流れを変えるプレーを見せた。この年、フォーデンは出場時間が限られていたものの、重要な試合で結果を残す能力が評価され、グアルディオラの信頼を勝ち取った。

20/21シーズン:真のレギュラーへ

フォーデンにとって20/21シーズンは大きな飛躍の年となった。プレミアリーグではレギュラーとして活躍し、リーグ戦9ゴール、8アシストを記録。特に、リヴァプール戦でのパフォーマンスは彼のキャリアの中でも最も記憶に残るものの一つだ。試合終盤に見せたドリブルからの豪快なゴールは、シティのファンだけでなく、世界中のサッカーファンを驚かせた。

さらに、チャンピオンズリーグでも輝きを放ち、ドルトムントとの準々決勝では2試合連続で決勝ゴールを記録した。この活躍により、フォーデンは国際舞台でも注目される存在となり、若手選手の中でもトップクラスの評価を受けるようになった。

21/22シーズン:未来の象徴

21/22シーズン、フォーデンはさらに成長を遂げ、プレミアリーグで10ゴールを記録。彼の活躍はシティの優勝に直結し、チームの中核を担う存在へと進化した。このシーズン、フォーデンは左ウイングや中盤など複数のポジションで起用され、どのポジションでも高いパフォーマンスを発揮。彼の柔軟性と適応力が、シティの戦術の幅を広げた。

グアルディオラ監督はフォーデンを「クラブの象徴」として位置付け、彼を中心にチームを構築する意向を示した。フォーデン自身もプレッシャーを力に変え、「シティの未来を背負う覚悟がある」と語った。

22/23シーズン:栄光の三冠

22/23シーズンは、マンチェスター・シティの歴史に刻まれるシーズンとなった。チームはプレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグの三冠を達成し、フォーデンもその成功の立役者の一人となった。特にチャンピオンズリーグでは、レアル・マドリードとの準決勝でチームを牽引するプレーを見せ、決勝進出に大きく貢献した。

インテルとの決勝では、直接得点はなかったものの、フォーデンは攻撃の起点として何度もチャンスを演出。若干23歳にして、この大舞台で堂々たるプレーを見せたことで、彼が真のビッグゲームプレイヤーであることが証明された。

23/24シーズン:攻撃の柱へ

23/24シーズン、フォーデンはシティの攻撃を象徴する選手としてプレーした。ハーランドやアルバレスと連携し、プレミアリーグで自己最高の得点記録を更新。これまで以上にゴールへの嗅覚を発揮し、純粋なチャンスメイカーからスコアラーとしても進化を遂げた。

一方で、チャンピオンズリーグではベスト8で敗退するという苦い結果に終わった。この挫折は、フォーデンにとってさらなる成長を促すきっかけとなり、彼のメンタルの強さを試す機会でもあった。

24/25シーズン:新たなる高みへ

24/25シーズンは、フォーデンにとって厳しいシーズンとなっている。リーグ戦では得点数が伸び悩み、チームも一貫性を欠くパフォーマンスが続いている。さらに、チャンピオンズリーグではリーグフェーズ最終戦を前に敗退の危機に直面しており、フォーデンを含む選手たちに大きなプレッシャーがのしかかっている。

しかし、フォーデンには逆境を力に変える能力がある。これまで何度も壁を乗り越えてきた彼が、このシーズンの困難をどう乗り越えるのか、サッカーファンの注目が集まっている。彼のキャリアがこの挑戦を通じてどのように進化するのかが、彼の未来を占う鍵となるだろう。

代表でのキャリア――イングランドの中核を担う若きリーダー

2017 FIFA U-17ワールドカップ:世界にその名を轟かす

フィル・フォーデンが国際舞台で注目を集めたのは、2017年に開催されたFIFA U-17ワールドカップだった。この大会でフォーデンはイングランド代表の中心選手として活躍し、特にスペインとの決勝では圧巻のパフォーマンスを披露。2ゴールを決め、5-2の大勝に大きく貢献した。大会を通じて攻撃の起点として機能した彼は、全7試合で4ゴールを記録し、見事に大会最優秀選手賞である「ゴールデンボール」を受賞した。

フォーデンにとってこの大会は、自身の才能を世界に示す場となっただけでなく、将来のA代表入りへの大きなステップとなった。彼は「U-17ワールドカップ優勝は夢のような瞬間だった」と後に語っており、この経験がその後のキャリアにおけるメンタル面の強さを育んだと言える。

UEFA EURO2020:初の大舞台での確かな成長

2021年に開催されたEURO2020は、フォーデンにとってA代表での初の主要大会だった。グループステージではクロアチア戦でスタメン出場を果たし、試合序盤にはポストを叩くシュートで会場を沸かせた。イングランド代表はこの大会で勢いに乗り、決勝まで進出。フォーデン自身は決勝戦での出場は叶わなかったものの、大会を通じて攻撃陣の一角を担う役割を果たした。

イングランド代表はイタリアにPK戦で敗れたものの、フォーデンにとってこの経験は彼のキャリアにとって大きな意義を持つものだった。初めての主要大会で学んだことについて彼は、「結果は悔しいけれど、この経験を次の大会に生かしたい」と語り、さらなる成長を誓った。

2022 FIFAワールドカップ:有望株から真のエースへ

2022年のカタールで開催されたワールドカップは、フォーデンがA代表で重要な役割を担った初の大会だった。グループステージ初戦のイラン戦では途中出場ながら存在感を発揮。続くウェールズ戦ではスタメン出場を果たし、1ゴール1アシストの大活躍でチームを16強進出へと導いた。

ノックアウトステージでも攻撃の中心としてチームを支えたフォーデンは、フランスとの準々決勝で印象的なプレーを見せたものの、惜しくも1-2で敗退。この試合後、彼は「結果に満足することはできないが、世界のトップレベルで戦えることを証明した」と語り、敗北を糧にさらなる成長を誓った。この大会を通じて、フォーデンは単なる有望株から真の中心選手へとステップアップした。

UEFA EURO2024:伸び悩んだ若き才能

2024年に開催されたEUROでは、フォーデンにとって期待が高まる一方で試練の大会となった。イングランドはグループステージを突破し、決勝まで進出。フォーデンは全試合でスタメン出場を果たしたが、持ち前の攻撃的なプレーを十分に発揮できず、ゴールやアシストの記録がないまま大会を終えた。

特にスペインとの決勝では中盤での激しいプレッシャーに苦しみ、思うようにプレーできない時間が続いた。結果としてイングランドは1-2で敗れ、惜しくも準優勝に終わった。この大会についてフォーデンは、「期待に応えられなかった悔しさがあるが、これをバネにしたい」と語り、自らのパフォーマンスへの反省と次なる挑戦への意欲を示した。

フォーデンにとって、代表でのキャリアは常に新たな挑戦の連続だった。U-17ワールドカップでの成功からEURO2024での苦い経験まで、彼の成長は喜びと挫折の積み重ねによって形成されている。次なる代表での舞台では、さらなる成熟と飛躍を見せ、イングランドの真のリーダーとして輝くことが期待されている。

祖父との記憶

フィル・フォーデンの背番号47には、特別な意味が込められている。これは彼の祖父であり、家族にとって大きな存在であったロン・フォーデンの記憶を刻むための番号である。フィルがまだ若い頃、ロンは家族の支えとなり、フィルが夢を追い続ける環境を整えてくれた存在だった。しかし、彼が17歳になる少し前、ロンは他界してしまう。この喪失はフォーデンにとって大きな悲しみだったが、同時に祖父への感謝と敬意を胸に刻むきっかけともなった。

祖父が亡くなった年にトップチームに昇格したフォーデンは、自ら望んで「47」の背番号を選んだ。この番号には「祖父のことを忘れない」という意味が込められており、それ以降、この数字はフォーデンの代名詞として定着している。彼は「この番号をつけてプレーすることで、常に祖父が自分と一緒にいると感じられる」と語っている。背番号47は、単なる数字ではなく、彼のキャリアと家族への思いを象徴する特別な存在だ。

一家の大黒柱として

フィル・フォーデンは、自身の成功を家族と分かち合うことに何よりも価値を置いている。彼の成功の裏には、支えてくれた家族への深い感謝がある。フォーデンは、まだ若くしてサッカー界で成功を収めたが、常に地元マンチェスターに住み続け、家族との絆を保ち続けている。彼の原点は、少年時代に住んでいたシンプルな家庭であり、その経験が彼の人間性を形成したと言える。

プロとしての収入を得るようになると、フォーデンはまず家族のために尽くした。彼は両親に新しい家をプレゼントし、生活をサポートすることで恩返しを果たした。また、2019年には自身の息子が誕生し、若くして父親となったフォーデンは、家族の大黒柱としての役割を担うこととなる。練習や試合で多忙な日々を送りながらも、家族との時間を大切にし、息子にとって模範となる父親でありたいと語っている。

フィルは、「家族がいなければ、今の自分はなかった」と何度も公言している。少年時代には、母親が練習場への送り迎えをしてくれたり、父親が仕事の合間を縫って試合を見に来てくれたりと、家族のサポートが彼の原動力となっていた。現在では、自分がそのサポートを家族に返す番だと考えており、フィールドの内外で家族への愛情と責任感を示している。

フォーデンにとってサッカーの成功は、単に個人の栄光ではなく、家族全体のものでもある。彼の成長を支え続けてきた家族との絆が、彼の人間性を形作り、今後もさらなる成功を目指すための強い基盤となっている。

真のワールドクラスに向けて

フィル・フォーデンは、マンチェスター・シティのアカデミーで育成された「最高傑作」として、若くして多くの栄光を手にしてきた。しかし、彼自身も認めるように、そのキャリアはまだ完成には程遠い。彼が「真のワールドクラス」としての地位を確立するためには、さらなる成長と進化が求められる。

フォーデンのプレースタイルは、卓越したテクニックと視野の広さ、そして予測不能な動きが特長だ。しかし、トップクラスの選手として安定したパフォーマンスを維持し続けるには、フィジカル面やメンタル面でのさらなる成熟が不可欠だと言える。2024/25シーズンの不調からも見えるように、フォーデンには時折、試合中に波があることが指摘されている。シーズンを通じてコンスタントにトップレベルのプレーを発揮する力が、彼を次のステージへ押し上げる鍵となるだろう。

また、代表でのキャリアでも、フォーデンはまだ自身の最大限の力を発揮できているとは言えない。EURO2024では、不調により思うような結果を残せず、チームの中心としての責任感や期待に応えられなかったことが課題として浮き彫りになった。クラブではピッチ内外でペップ・グアルディオラからの信頼を受け続けているが、代表ではその力をいかに発揮するかが次なる大舞台での挑戦となる。

ただし、フォーデンには「まだ22歳でトレブルを経験した」という誰にも真似できない土台がある。これまでに学んできたことをさらに昇華し、彼のポテンシャルを最大限引き出すための次のステップが期待されている。フィル・フォーデンが完全なるワールドクラスの選手となるためには、ピッチ上での成績だけではなく、リーダーシップやチームへの貢献という要素も大きく関わってくるだろう。

フォーデンが常に語っているように、彼の夢は「マンチェスター・シティをより偉大なクラブにする」こと、そして「イングランド代表として世界の頂点に立つ」ことだ。その夢を叶えるため、フォーデンはピッチの上だけでなく、プロフェッショナルとしての振る舞いや人間性を高めることにも注力している。彼は若き父親としての責任感も持ち合わせ、家族を支えながらキャリアを築くという重責を背負っている。このような経験が彼を成長させ、真のワールドクラスの選手へと押し上げる原動力となるだろう。

未来のマンチェスター・シティ、そしてイングランド代表の象徴として、フィル・フォーデンがどのような選手へと進化していくのか。彼の今後のキャリアは、世界中のサッカーファンの注目を集め続けるに違いない。ピッチ上の成功、そして人間性の成長を通じて、フォーデンは真のワールドクラスへと歩みを進めている。

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