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マテオ・コバチッチ――クロアチアの誇る“魔術師”
マンチェスター・シティに所属する個々の選手の生い立ちやそのキャリアを紹介する連載記事City Stories。第12回は、マテオ・コバチッチ。タイトルに恵まれたキャリアを歩んできた彼の栄光の裏に隠された物語とは。
リンツ出身の"神童"
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マテオ・コバチッチは、1994年5月6日にオーストリアのリンツで生まれた。彼の両親はボスニア・ヘルツェゴビナ出身で、戦争を逃れてオーストリアに移住した背景を持つ。幼少期からサッカーに情熱を注ぎ、地元のクラブであるLASKリンツのユースチームでその才能を磨いた。
13歳のとき、彼はクロアチアの名門クラブ、ディナモ・ザグレブのユースチームに加入するため、家族とともにザグレブへ移住した。この移籍は、彼にとって大きな転機となった。当時、アヤックスからの関心もあったが、彼と家族はディナモ・ザグレブが人間的・選手的成長の両面で最適な環境であると判断した。ザグレブでの生活は、彼の人間形成や選手としての成長に大きく寄与し、彼自身もこの選択が人生で最も良い決断の一つであったと振り返っている。
ディナモ・ザグレブのユースチームでの活躍により、彼は「神童」と称されるようになった。
このように、幼少期からサッカーに情熱を注ぎ、家族の支えと自身の努力によって、コバチッチは若くしてプロサッカー選手としての道を歩み始めた。
タイトルに恵まれたジャーニーマン
ディナモ・ザグレブ――神童の誕生と早すぎる成熟
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マテオ・コバチッチがプロとしての第一歩を踏み出したのは、クロアチアの名門ディナモ・ザグレブだった。ユース時代から高い評価を受けていた彼は、2010年11月20日、わずか16歳でトップチームデビューを果たす。クロアチア国内リーグのフルヴァツキ・ドラゴヴォリャツ戦でデビューを飾り、すぐにスタメンに定着。
ディナモ・ザグレブでは、卓越したボールコントロール、パスの精度、視野の広さを武器に、中盤の要として活躍。2011-12シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグにも出場し、ヨーロッパのスカウト陣の注目を集める。リーグ戦43試合6ゴールの成績を残し、クロアチア国内に留まることなく次なるステップへと進むことになった。
インテル――セリエAでの試練と成長
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2013年1月、インテルはコバチッチの才能に目をつけ、1100万ユーロ(約15億円)という高額な移籍金で獲得。加入当初から背番号10を与えられ、クラブの期待の大きさを示していたが、セリエAはフィジカルの強さが求められるリーグであり、当時19歳のコバチッチにとっては適応が必要だった。
ポジションは固定されず、トップ下、ボランチ、時には右サイドハーフとしても起用されたが、持ち前のドリブル能力とプレス回避力で存在感を示す。2014-15シーズンにはリーグ戦35試合に出場し5ゴールを記録。中盤の主力として成長を遂げた。
しかし、インテルは経営難に陥り、財政再建のために主力選手の売却を余儀なくされる。その結果、2015年夏にコバチッチはスペインの名門レアル・マドリードへと移籍することになった。
レアル・マドリード――世界最高峰の競争の中で
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2015年8月、レアル・マドリードはコバチッチを3500万ユーロ(約46億円)で獲得。クロアチア代表の先輩ルカ・モドリッチとの共演が期待されていたが、マドリードにはトニ・クロース、カゼミーロといった世界屈指の中盤の選手たちが揃っており、コバチッチは定位置を確保するのに苦労した。
それでも彼は、チャンピオンズリーグやリーガ・エスパニョーラの試合で随所に輝きを見せ、途中出場ながら安定したパフォーマンスを披露。持ち前の推進力とパスワークを活かし、チームに貢献した。
レアル・マドリード在籍はわずか3年であったが、その3年間でチームはUEFAチャンピオンズリーグ3連覇を達成。コバチッチは特に2016-17シーズンにジネディーヌ・ジダン監督の下でローテーションの重要な一員として機能し、カゼミーロの代役を務めることも多かった。
しかし、レギュラー争いは熾烈を極め、試合ごとの出場時間は限られていた。より多くのプレー時間を求めたコバチッチは、2018年夏にイングランド・プレミアリーグのチェルシーへと期限付き移籍することを決断する。
チェルシー――プレミアリーグでの飛躍
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2018年夏、コバチッチはチェルシーへレンタル移籍。新天地ではマウリツィオ・サッリ監督の「サッリボール」に適応し、ジョルジーニョやエンゴロ・カンテとともに中盤を形成。彼のポゼッション能力やプレス耐性は、プレミアリーグでも十分通用することを証明した。
2019年には完全移籍が決まり、フランク・ランパード監督のもとでは攻守のバランスを取る役割を担い、2019-20シーズンにはクラブ年間最優秀選手に選ばれるほどの活躍を見せた。
2020-21シーズンには、トーマス・トゥヘル監督のもとでUEFAチャンピオンズリーグ優勝を経験。決勝では負傷の影響でフル出場はできなかったが、チームの成功に大きく貢献した。チェルシーでの通算成績はリーグ戦110試合出場4ゴール。
マンチェスター・シティ――ペップの新たな戦術ピース
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2023年夏、コバチッチはチェルシーを離れ、マンチェスター・シティへと移籍。移籍金は約3000万ポンド(約50億円)と報じられた。シティでは、イルカイ・ギュンドアンの後継者として期待され、中盤のダイナミズムを加える存在として迎えられた。
ペップ・グアルディオラの独特の戦術への適応に時間がかかり、前半戦は定位置を掴めなかったが、そこは百戦錬磨の経験のなせる技か、徐々にロドリとのダブルボランチやインサイドハーフとして柔軟に起用されている。特に、彼のプレス耐性とボールキャリー能力は、シティのポゼッションスタイルにおいて重要な要素となっている。
特に、クラブ・ワールドカップでは決勝戦にフル出場し優勝に貢献した。
迎えた2024-25シーズン、ロドリが長期離脱、デ・ブライネ、フォーデンの相次ぐコンディション不良で中盤の軸として躍動。代えの効かない存在となった。
偉大な先輩たちとの熾烈な争い
ブラジルワールドカップ――初の大舞台
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2013年にクロアチア代表デビューを飾ったコバチッチは、ブラジルワールドカップで初めてワールドカップの舞台を踏んだ。当時20歳と若手ながら、グループステージ全3試合に出場し、中盤でのプレーで存在感を示した。しかし、クロアチア代表はグループステージで敗退し、彼にとって苦い経験となった。
EURO2016――欧州での奮闘
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フランスで開催されたEURO 2016では、コバチッチはクロアチア代表の一員として大会に臨んだ。グループステージではスペインを破るなど好調を見せたが、ラウンド16でポルトガルに敗れ、ベスト16で大会を終えた。コバチッチ自身は出場機会が限られ、チーム内での競争の激しさを痛感する大会となった。
ロシアワールドカップ――歴史的快挙
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ロシアでワールドカップは、クロアチア代表にとって歴史的な大会となった。コバチッチは主に途中出場としてチームに貢献し、特にデンマークとのラウンド16では延長戦から出場し、中盤の安定感をもたらした。チームは決勝まで進み、惜しくもフランスに敗れたものの、準優勝という快挙を成し遂げた。この大会での経験は、彼のキャリアにおいて大きな財産となった。
EURO2020――再びの挑戦
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新型コロナウイルスの影響で2021年に延期されたEURO 2020では、コバチッチはクロアチア代表の主力として全試合に出場した。グループステージではスコットランド戦でアシストを記録し、チームの決勝トーナメント進出に貢献した。しかし、ラウンド16でスペインと対戦し、延長戦の末に敗れ、ベスト16で大会を終えた。彼の中盤でのプレーは高く評価されたが、チームとしての課題も浮き彫りとなった。
カタールワールドカップ――さらなる高みへ
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カタールワールドカップでは、コバチッチは中盤の要として全試合に先発出場した。特にブラジルとの準々決勝では、延長戦を含む120分間を戦い抜き、チームの勝利に貢献した。クロアチア代表は再び躍進し、3位決定戦でモロッコを下し、3位入賞を果たした。コバチッチの成熟したプレーは、チームの成功に不可欠なものとなっていた。
EURO2024――再びの高みを目指すもまさかの...
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コバチッチはEURO2024でもクロアチアの中盤の柱として全試合にスタメンで出場するが、クロアチアは、スペイン、イタリアらと同居した厳しいグループではあったが、まさかのグループステージ敗退となってしまった。コバチッチ自身のプレーは悪くはなかったが、決め手を欠いたチームの助けとなることはできなかった。
家族愛と人間性——ピッチ外でも輝くコバチッチ
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マテオ・コバチッチは、ピッチ上での卓越したプレーだけでなく、その人間性や家族との深い絆でも知られている。彼の家族愛を象徴するエピソードとして、ゴール後の特別なセレブレーションが挙げられる。2019年12月、チェルシー在籍時のバレンシア戦で得点を決めた際、コバチッチは鼻に手を当てる独特のポーズを披露した。このセレブレーションには、彼の姪たち、特にダウン症を持つ姪への深い愛情が込められていた。彼は姪たちとこのポーズをよく行っており、得点後にそれを再現することで、彼女たちへの思いを表現したのだ。
また、コバチッチは家族との時間を非常に大切にしており、試合やトレーニングの合間を縫って家族と過ごす姿が度々目撃されている。彼のインタビューやSNS投稿からも、家族への深い愛情と感謝の気持ちが伝わってくる。このような家族との強い絆は、彼の人間性の根幹を成しており、ピッチ上での冷静さやチームメイトとの良好な関係にも影響を与えていると考えられる。
さらに、コバチッチは慈善活動にも積極的であり、特に子供たちや障害を持つ人々の支援に力を入れている。彼のこうした活動は、単なるサッカー選手としてだけでなく、一人の人間としての温かさと誠実さを物語っている。
総じて、マテオ・コバチッチは卓越したサッカー技術だけでなく、家族や社会への深い愛情と献身を持つ人物であり、その人間性は多くの人々に感動を与えている。
マテオ・コバチッチの未来
タイミングの良いボールキャリーと相手の意表を突くコバチ砲で今季のシティを支えるコバチッチ。似たタイプのニコ・ゴンサレスが今冬の移籍市場で加入したため、ロドリが復帰する来季以降を考えると今季ここからのパフォーマンスがシティにおけるコバチッチの今後を大きく左右することになると個人的には思っている。
一方、クロアチア代表では、偉大な先人ルカ・モドリッチのキャリアの終焉が刻一刻と近づいていることもあり、今後、より重要な存在になっていくだろう。
シティとクロアチアを支える黒子役マテオ・コバチッチ。ベテランと呼ばれる年齢にはなってきたが、まだまだ老け込む年齢ではない。ここからもう一花咲かせることができるか。今後の彼のパフォーマンスに注目だ。