その女 ジルバ
むかしから、あまりドラマは観ない方だった。
これ!と思ったもの以外は、観ないできた。
だから、評判がいいと知った段階で、途中から観ることがほとんどで、ここ数年で初回から観たのは、MIU404くらいなもの。
MIU404も、W主演が綾野剛さん、星野源さんだから観てみようと思ったのが理由で、実際に観るまで、刑事バディものは苦手だった。
犯人を追う凸凹コンビ、アンテナタイプの登場人物、派手なアクションが定番の刑事ドラマが好きなのは男性だろう、そう思い込んでいた。
ところが、MIU404は違っていた。
1話こそカーチェイスを繰り広げ、最後には横転。廃車にしてしまうという展開だったけれど、テーマの核は、煽り運転という社会問題に焦点を当てていたし、2話以降は、高校の陸上部でドラッグが売られていた事実が発覚したことで連帯責任とらされ、廃部処分を受けた後輩の高校生が、うっぷんをはらすため警察を相手に嘘の事件を通報し、仲間とリレーで逃げ流ゲームを企てるという内容だったり、反社会的組織に騙され、知らずに関連会社で働いていた女性が金を横領。逃走するも、その金を宝石に換えて、恵まれない女性や子供を支援する国際団体に寄付して亡くなったり、ベトナムからの研修実習生の実態に切り込んだ物語から、この国の闇を恥部を視聴者に晒す結果になったりと、毎回、毎回、社会派とヒューマンとエンタメをバランスよく盛り込んだ内容で、放送後も、何度も何度も繰り返し観てしまうようなドラマだった。そして今も、その観たい欲求は続いている。
MIU404が終わったあと、刑事物はもちろん、他のドラマも一切観る気がしなくなってしまった。
どれもつまらないような気がして…実際、あまり評判は芳しくなかったらしい。
結局、一本も観ないまま、年を越した。
年が変わり、1月期スタートのドラマが続々始まったところで、そ数ヶ月、一切、新しいドラマを観てこなかったせいか、心境の変化か、ちょっと観てみようかなという気になった。
キャスト陣に誰がいるか、脚本は誰が書いているかなどをチェック。前評判のいいものを含め、食指が動いたものを5、6本を選んで、まずは全て初回を観ることにした。
前評判がいいものは、やはりキャスト、脚本家とも、人気、実力を兼ね備えているひとの作品が目立つ。
例えば、「俺の家の話」は、今春で表舞台から裏方へ回るらしいTOKIOの長瀬智也さん主演、宮藤官九郎さん脚本が担当。
かつて二人はタッグを組んで、人気のドラマをいくつか残している。今回も、ゴールデンコンビということで始まる前から注目度は群を抜いていた。
そして予想通りに、評判をとっている。
なお、このドラマについては、別の機会に書きたいと思う。
5、6本観た中で、今も観続けているのが
「その女、ジルバ」など4本、週に4本のドラマを観るなど、今までになかったことだ。
この中で、断トツに面白いのが「その女ジルバ」だ。
池脇千鶴さん主演のこのドラマ。
すでにネットでも評判で、あらすじを読まれた方もいるとは思うが、本当に面白い。
仕事もプライベートもぱっとせず、あらゆることを諦め、ただ生きているだけ、そんな毎日を送っていた主人公の「あらた」が、40歳の誕生日の夜、たまたま目に入ったのは、40歳以上の女性のみ募集するというチラシだった。
ホステス全員が40歳以上というそのBARに、引き寄せられるようにフラフラっと足を踏み入れた彼女が出会ったのは、綺麗にお化粧をし、華やかなドレスに身を包みんだ60歳以上の4人の女性と、80代のマスターだった。
40歳で人生を諦めた彼女だが、その店では最年少。
あなたは若い、まだまだ人生これからと励まされ、見習いでアルバイトをすることになる。
とりまく個性豊かな俳優陣の演技に魅了された。
最年長のママが草笛光子さん、草村礼子さん、中田喜子さん、そして久本雅美さん実年齢でも、全員60歳以上なのに、みんな生き生きとして佇まいが素敵で、さすが女優さん。
特に草笛光子さんが素晴らしい。背筋がぴーんと伸びた姿には、圧倒されるものがある。80歳を超えても、こんなに姿勢が良く美しくいられるのだと驚かされた。セリフもまるで自身の言葉のように語りかける姿は、とても80代には見えない。こんなふうに、歳を重ねていきたいと思わせてくれる。
ホステスとして働く3人も、それぞれ魅力的だ。
草村礼子さんは、昔、shallwe danceという映画で、社交ダンスの先生を演じていた。柔らかさの中に毅然としたものを感じさせてくれる女優さんと、それ以来ファンになった。今回も、気品が滲み出ていて、場の雰囲気を品よくまとめている。
中田喜子さんは、とにかく華がある。渡る世間は…に長く出演されていて、ともすれば固定されたイメージを持たれがちだが、年齢を感じさせない美しさと可愛らしさが、お嬢様育ちの女性が、結婚詐欺に遭い、転落したという経歴を感じさせない、根からのおっとりした雰囲気を醸している。
久本さんは、バラエティでは見せない役者久本雅美を見せてくれている。
元々ワハハ本舗の女優さんだが、バラエティ番組での活躍と、品が良いとは言えないキャラクターが持ち味なこともあり、まさかこんな役柄を演じるとは思わなかった。
そんな先輩たちに所作やダンスなど、接客のノウハウを学びしごかれるも、温かく優しい言葉をかけられて、あらたは、今まで忘れていた生活すること、生きることの喜びを感じ始め、内も外も変わっていく。その過程が、眩しく、活きいきとして、こちらまで元気をくれる。
あらたには正規の仕事がある。
倉庫の管理部門での仕事。
昔はアパレルで働いていたのだが、出向を命ぜられ今は、倉庫で働いている。
そこにも彼女の仕事仲間がいる。
新たと深く関わってくるのが、江口のりこさんと真飛聖さん。
ここ数年、活躍がめざましい江口さんは、ジルバでも存在感を大いに示している。
役柄として地味ということもあるけれど、その地味な演技の中から、じんわりと滲み出てくる存在感は、特筆すべきものがある。
演技をしている感じがしない、とても自然体なのだ。
なのに、胸にジーンと響いてくる声のトーン、目線、所作。こんなにも上手い役者さんだったんだと、驚いた。
悔しさや悲しみを、身体全体から滲ませる演技は、さすが舞台の女優さん。
4回目まで観て気がついたのは、2回目以降、毎回、主人公を取り巻くひとのなかのひとりを中心に描いてることだ。
主任だったり、ホステス仲間だったり、同僚だったり。
あらただけでなく、彼女を取り巻くひとりひとりに焦点を当てることで、それぞれに様々な出来事や、喜怒哀楽の人生があったことが見えてくる。
一人ひとりに生きてきた歴史があり、その中で家族がいたり、いなかったり、恋愛でつまずいたり、仕事がうまくいかなかったり。それでも懸命にみんな生きているんだと。
前回は、真飛さん演じる女性が、故郷の島根に帰ったところで終わり。
少しずつ生き生きと、自分の人生を歩み始めた「あらた」が、これからどんな選択をしていくかが楽しみだ。
幾つになっても可能性はあると、そして自分を諦めないこと、自分で自分に限界を作らないことの大切さを教えてくれた「その女ジルバ」から、勇気と元気をもらっている人は、たくさんいるだろう。
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