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ライオンのおやつ

このところ、ライオンのおやつというドラマを観ている。(ネタバレあり)
NHKで放送しているのだが、主人公は、まだ20代の女性で、ガンにかかり治療していたのだが、これ以上治療法はないと担当医に宣告され、とある離島のホスピスを最期の場所と選び、誰にも告げずに入所する。
そこで出会った、同じ境遇の人たちや、島に住む人たちとの交流をしていくなか、最期の時を迎えるというストーリーだ。

前回の、”生きるとか死ぬとか父親とか” もそうだが、生死を取り上げたドラマを続けて観てきた。
意図してというよりは、たまたま気になって観たら、そういうテーマだったというのも、何かしら自分と重なり、今、自分にとって必要なことが起きているのだと、不思議な巡り合わせに驚いている。

この離島のホスピスは、「ライオンの家」と名付けられていて、鈴木京香さん演ずるマドンナさんという女性が経営している。
入所してる人は、皆、末期ガンに侵されていて、小学生から老人まで幅広い年齢層が、静かに最期のときを、穏やかな日々を過ごしながら迎えようとしているのだった。

主人公の女性には、家族がいるにはいるが、実の両親は、彼女が幼い時に事故死してしまい、叔父にあたるひとが、彼女を引き取って育ててくれた。
長く叔父との二人きりの生活を送っていた彼女だが、叔父が結婚することが決まったのを機に独立。それ以来、ひとり暮らしをしていた。表面的には、自立したいからというのが理由だったが、本当は、最愛の叔父の結婚が、どうしても認められなかった、相手の女性を好きになれなかったことが、理由だった。

家族といっても本当の親子ではない。
叔父には妻がいて、実の娘もいる。たとえ彼女のことを、叔父が深く愛していたとしても、そこにはどうしても入り込めない絆がある。誰にも知らせないで、そっとこの世から去ることを決意させたのも、そんな理由だったのではないだろうか。
それよりは、同じように末期ガンを患い、そう遠くない時期に別れの時を迎える、ホスピスの仲間のなかで過ごす方が、気分的には楽だろう。

彼女自身もそう思って、ホスピスを終の棲家に選んだはずだったが、実際は、たくさんの葛藤が彼女を襲う。
死への恐怖、人を愛することへの憧れ、まだまだ生きたいという強い願望etc
もし、彼女が老人と呼ばれる年齢だったなら、諦めもついたかもしれない。(それはわからないが)しかし、20代で生命を終えなければならないとしたら…やはり、もっと生きたいと願うのは、当然のような気がする。

そんな彼女に、ホスピスの仲間は、最期にメッセージを残していく。
小学生の女の子は、部屋を水族館のように飾り付けてもらい、彼女に向こうへ行って再開したら、友達になって欲しいと言い約束して旅立っていった。
かと思えば、余命いくばくもないと入所したはずの、男性の老人は、体調の悪化が見受けられないことを理由に、一旦退所を決意する。
みんな同じように最期のときを迎えるはずが、やはりここでも、それぞれ異なる人生が待ち受けていることを示唆するのである。

タイトルの ライオンのおやつ とは、ホスピスで出されるおやつの時間に、入所者が、それぞれ自分が食べたいおやつをリクエストすることからきていた。
手紙に、どんなおやつか、おやつにまつわるエピソードを書いて、食堂に置かれた、お菓子の家に投函する。
それを無作為にマドンナさんが選び、その日のおやつとして出されるのだった。
最期に間に合わなかったおやつもあれば、早々に選ばれるおやつもある。
そして、例外なく、おやつにまつわるエピソードが記されているのだった。

先週の放送を観ながら、初めて自分と母親を重ねてしまい、涙ぐんでしまった。
二年半前、肺がんと診断された母。
体に堪える検査はせずに、そのまま自然体で最期の時を迎えようと決めて過ごした時間は、おそらく母にとって充実したものだったと思う。

俳句を詠み、句会にも参加し、仲間と交流し、毎日、勉強に勤しんでいた。
料理、洗濯、掃除、縫い物と、ごく当たり前の日常を淡々とこなして過ごしていた。
好きなものを食べ、好きな音楽を聴き、好きなテレビを観ていた。
高齢者はガンの進行は比較的遅いという話だったので、正直、あと2、3年は大丈夫と思っていたところがあった。
母自身、病を抱えているという自覚は、ギリギリ体調を崩す時までなかった。
それが、今年に入って一気に体調が悪くなり、とうとう逝ってしまった。

今までずっと、私の思い出のおやつは、母方の祖母が幼い頃に作ってくれた、ジャガイモの甘い茶巾絞りだった。
青森に暮らしていて、滅多に会うことがない祖母が、あるとき遊びに来てくれたことがあった。しばらく逗留していた祖母が、母が留守のときに私のために作ってくれた、茶巾絞りにはゴマつぶほどの人参が、彩に乗っていたのを思い出す。

しかし、母が亡くなった今、思い出のおやつは、母との思い出のおやつに変わろうとしている。
とは言っても、たくさんありすぎて、まだ一つに決められない。
もう少し、時間が経って、悲しみが癒えてきた頃、きっと思い出すことだろう。

母と過ごした、思い出のおやつのことを…

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