西城秀樹のバックバンドからドラマ主題歌まで。奇跡の二刀流・芳野藤丸という音楽家について

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。

このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

今回のテーマは…

「西城秀樹のバックバンドからドラマ主題歌まで。
奇跡の二刀流・芳野藤丸という音楽家について」


  • 金曜たまむすびでのイントロクイズ

以前、金曜たまむすびに出演した際にイントロクイズにチャレンジして、
そのときに回答出来なかった曲がありまして…
SHOGUNというバンドの「男達のメロディー」という曲です。
日テレのドラマ「俺たちは天使だ!」の主題歌として1979年に大ヒットした曲なんですが、本当に恥ずかしながらこの曲を知りませんで、あの日家に帰って調べてみてビックリしたんです。SHOGUNって、あの「芳野藤丸」さんがギターとボーカルを務めていたバンドなのか!と。

  • ・奇跡の二刀流・芳野藤丸

芳野藤丸さんという方は、超有名なギタリストで、スタジオミュージシャンのレジェンド中のレジェンドなんですね。この番組でも曲をオンエアするときに「この曲は藤丸さんがギター弾いてます」なんて紹介することも度々ありましたから、僕も藤丸さんのことはもちろん存じ上げていたんです。
ただですね、数々のヒット曲でギターを弾いている名ギタリスト、という、スタジオミュージシャンとしての認識しか持っていなかったんです。
まさか、大ヒット曲を歌ってレコード大賞新人賞を取っていた人とは全然知らなかったんですね。

本当に恥ずかしい限りというか、自分の無知を恥じまして、まずは芳野藤丸さんの自伝を購入しました。そしてネット上のインタビューも全部チェックしまして、今日は万全の大勢を整えて、売れっ子スタジオミュージシャンであると同時に大ヒット歌手という奇跡の2刀流を成し遂げた芳野藤丸さんについてお話したいと思います。

  • スタジオミュージシャンとしての芳野藤丸

まずは何と言ってもスタジオミュージシャンとしてのキャリアからお話ししたいと思うんですが、この音楽コラムで何度もお話ししているように、70年代以降のいわゆるニューミュージック的なポップスの世界では、ヘッドアレンジという手法が主流です。ヘッドアレンジとは何かというと、レコーディングスタジオに集められたミュージシャン達が、その場で自由にアイディアを出し合って、ああでもないこうでもないとやりながら曲のアレンジを決めていく、即興のアイディアでもって編曲を固めていくことですね。

それに対して演歌であるとか歌謡曲の世界では、作曲の先生、作詞の先生、編曲の先生、と完全な分業制が敷かれていますので、レコーディングの現場でミュージシャン達は編曲家の先生が譜面に記した通りに弾くわけです。
譜面で指示されたものをただひたすらに正確に再現するわけですね。
ある意味では自分の個性を押し殺し編曲家先生の意図を汲み取ってあらゆるジャンルや曲調に対応しないといけない。

つまり、ニューミュージックやロックの世界と、演歌歌謡の世界とでは、
スタジオミュージシャンに求められる内容が結構変わってくるわけです。

かたや、アレンジの創造性が求められ、一方では譜面通りに正確に弾く職人性が求められる。この2つの世界を軽やかに行き来出来るミュージシャンって、実はさほど多くないんですよ。そんな2種類のスタジオ仕事を高い次元で両方こなせる稀有なギタリストっていうのが芳野藤丸さんなんです。

例えば、編曲家先生がビッシリ細かく書いた譜面、通称「書き譜」なんて
言いますけど、「書き譜」を弾いた藤丸さんの有名曲としては、石川さゆりの「天城越え」、あとは太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の印象的なイントロなんかもそうですね。ヘッドアレンジで藤丸さんがその場で即興で弾いた有名曲としてはバンバンの「いちご白書をもう一度」とか。
数々のヒットソングからCMソング、数々の映画音楽やドラマ音楽まで、
藤丸さんがレコーディングに参加した曲は1万曲以上にものぼると言われています。

  • 西城秀樹との出会い

彼は3歳の頃からヴァイオリンを習ってますから、それによって鍛えられた耳の良さがスタジオミュージシャンとしての資質に大きく関係していると思うんですが、ビートルズと出会いロックに目覚め、藤丸さんはバイオリンからエレキギターに持ち替えます。
大学進学と同時に函館から東京に出てきてドラマーであり歌手のつのだひろさんにスカウトされたことによってプロギタリストとしてのキャリアが始まります。ちなみに藤丸という芸名をつけたのもつのだひろさんです。
そんな藤丸さんにとって大きな転機となったのが、
1973年のRod Stewart and Facesの来日公演です。このライヴの前座を務めたのがジョー山中さんなんですが、彼のバックバンドで藤丸さんはギターを弾いていたんですね。

それを客席で見ていたのが西城秀樹さんです。

その当時、沢田研二さん、萩原健一さんが井上堯之バンドってロックバンドをバックにつけて活動していまして、歌謡の世界でも、グループサウンズのブームを経て、ロックの要素がトレンドになっていたというか。
それまでの作曲家・作詞家・編曲家の分業制ではなくて、ロックバンド的な自由なアプローチで曲を作っていくっていうやり方が模索されていた時期だったんです。

もともと西城秀樹さんは大の洋楽ファンですから、自分も古式ゆかしい歌謡のやり方ではなく、バックバンドをつけてロックのイディオムで、つまりさっき言ったようなバンドメンバーがスタジオで膝突き合わせて意見を戦わせながらアレンジを固めていく。そんなスタイルで音楽をやっていきたい。
おそらくそう考えていたんでしょう。

客席から藤丸さんの演奏を見た数日後、乃木坂あたりを歩いていた西城秀樹さんは偶然道端で藤丸さんと思しき人物を見かけます。

そこで、西城秀樹さんは思わず声をかけるんですね。
ちょっとちょっとそこのあなた、こないだジョー山中さんのバックでギター弾いてましたよね?僕のバンドでも弾いてもらえませんか?と。
偶然道端で藤丸さんを見かけてスカウトしたわけですね。幸いなことに人違いではなかった。これをきっかけに、藤丸さんが中心となり、西城秀樹さん専用のバックバンドが結成されたというわけです。

以降、西城秀樹さんの超重要な時期を支えたギタリストがこの藤丸さんで、ツアーからテレビ収録からレコーディングに至るまで、西城秀樹さんの音楽的なパートナーとして藤丸さんは欠かせない存在となるんですね。

  • バックバンドからSHOGUN結成へ

と、ここまでは藤丸さんの職業ミュージシャンとしての経歴を振り返って来ましたが、、「スタジオミュージシャンはバンド組みがち」って話を以前にもしたじゃないですか。(※過去の放送にて)
やっぱり毎日のように現場で顔合わせて仲良くなりますし、音楽的にも相性が良いとなると、自分たちの作品も作りたくなるよねってことで、藤丸さん率いる西城秀樹さんのバックバンドも、ご多分に漏れず、自分たちの作品をハワイで録るんです。
そのテープを聴いた日テレの音楽出版部門の名物プロデューサー飯田則子さんがその音楽性の高さに目を付けます。

そして、「俺たちは天使だ!」という日テレのテレビドラマの主題歌を含む全ての音楽をこのバンドに任せるんです。ついでに、バンド名もこの日テレの飯田さんがSHOGUNと名付けます。世界に売り出すつもりでローマ字表記なんですが、でも冷静に考えてみたらこのバンド、もともと西城秀樹さんのバックバンドなわけですよ。
ドラマの主題歌をやるっていっても、歌は誰が歌うの?って思いませんか?

実は芳野藤丸さん、学生時代はグリー部に所属しておりまして、つまり合唱部ですね。歌もうまかったんです。西城秀樹さんのバンドでも素晴らしい
コーラスを聞かせていましたので藤丸さんがギターと歌も担当しました。

そしてそのドラマの主題歌が「俺達のメロディ」でございます。
この曲の大ヒットで西城秀樹さんのバックバンドだったSHOGUNがアーティストとしてブレイクしちゃった。まさにボブディラン のバックバンドをやっていたThe Bandがアーティストとして成功しちゃった。
みたいなことと全く同じ現象が起こったわけですね。

  • 忙しくなるSHOGUN、困った西城秀樹の言葉は意外にも…

1万曲以上をレコーディングした超腕利きのスタジオミュージシャンが、
お茶の間の大ヒット曲を歌う歌手になってしまったわけなんですが…
これで困った人が約1名います。

西城秀樹さんです。バックバンドがSHOGUNとして売れたもんだから、
忙しすぎてスケジュールの都合上、バックバンドはもう出来ない。
西城秀樹さんは次のバンドを見つけるために何度もオーディションして、
本当に苦労されたみたいなんですが、日テレの飯田さんが西城秀樹さんに
謝りに行ったんですよ。「わたしがテレビドラマに起用したばっかりに、大切なバックバンドを奪ってしまってごめんなさい」って。それに対する西城秀樹さんの返しが泣けるんですよ。
「一体何を言ってるんですか。彼らの成功を一番喜んでるのは僕ですよ」と。西城秀樹、カッコいいなって。

そんな芳野藤丸さん、SHOGUN解散後に、AB’sっていう別のバンドを組んでまして。こちらも超凄腕のスタジオミュージシャン集団なんですけど、
AB’sの曲は実は高橋芳朗さんの選曲で何回かこの番組でもかけてます。
それもあって僕の中での藤丸さんのイメージは、もう完全に今からお聞きいただくこの曲の雰囲気なもんで、未だに自分の中で藤丸さんがなかなか
「男達のメロディ」に結びつかないんですよ。

でもどんな音楽にもアジャストし素晴らしい作品にしてしまえるからこそ
こういう偉大なキャリアを築けたってことなのかもしれません。

ではお聞きいただきましょう、AB’sで「In the City Night」



youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。

金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
AM954/FM90.5/radikoから是非お聞きください。