「荒井由実・YMO・ガロ…伝説のレコード会社アルファレコードの歴史に迫る」
TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。
このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。
本日のテーマは…
「荒井由実・YMO・ガロ…伝説のレコード会社アルファレコードの歴史に迫る」~We Believe in Music~
ニューミュージックの生みの親「アルファレコード」
普段、金曜ボイスログでは、70〜80年代の日本のポピュラーミュージック、中でも当時「ニューミュージック」と呼ばれていた曲がよくかかっています。ニューミュージック、その名もずばり新しい音楽。
では、何が新しいか?
それまでの日本の流行歌・歌謡曲に比べて、当時の欧米の最新のロック・ポップスに限りなく近いという意味で新しかった。そんなニューミュージックと言われるジャンルの生みの親と言っても過言ではない、新しい日本のポップスの誕生において中心的な役割を果たしたアルファレコードという
レコード会社についてお話します。
今日の話の主人公は、村井邦彦さんという人物です。
この方、グループサウンズ全盛期にタイガースやテンプターズなどに曲を
書いて大ヒット曲を連発した作曲家です。
元々は慶應大学在学中に輸入レコード屋を開業するという、今で言う学生起業家なんです。レコード屋切り盛りしながら、なんと売れっ子作曲家になってしまったわけです。
欧米スタイルの著作権管理ビジネス
作曲家として売れっ子になっても、ただの作曲家という職業には収まっていられない。やっぱりベンチャー精神が凄いんでしょうね、
作曲家稼業と並行して、とあるビジネスを始めます。何を始めたか?
アルファミュージックという音楽出版社を立ち上げ、音楽出版事業を始めたんです。音楽出版とは、つまり著作権管理ビジネスです。
実は当時日本ではかなり珍しかったんです。
何故なら日本では古くからレコード会社専属の作曲家・作詞家が曲を作り、そしてその曲は、その作曲家先生の一門に所属する歌手が独占して歌う。
という慣習がありました。つまり〝1曲を1社が独占する〟というのが業界の確固たるしきたりだったので、そもそもレコード会社が自分のとこの曲を
管理すればそれで話が済んだんです。
一方欧米では、古くから曲を作るのはフリーランスの作曲家・作詞家で、
作った曲の権利、早い話が楽譜ですね、それを音楽出版社に預ける。
音楽出版社がレコード会社にそれを売り込みます。
「おたくの新人歌手にこんな曲はどうですか?」あるいは「おたくのベテラン歌手のイメージにぴったりな曲ありますよ!」てな具合です。
レコード会社も、歌手をデビューさせるときは、その歌手にぴったりな一曲を見つけに音楽出版社をハシゴするんです。
だからこそ、色んな歌手が同じ曲をリリースすることもよくあったし、
たくさんの歌手によく歌われる定番曲、つまりスタンダード曲っていうのが生まれるわけなんですね。でも日本ではそういう文化がなかった。
で、筒美京平さんと並んで日本におけるフリーの作曲家のパイオニアでも
ある村井邦彦さんは、これからは日本でも音楽出版社が楽曲を管理して、
レコード会社にそれを売り込むような時代が来るぞ!と思ったんでしょう。音楽出版事業を始めます。そして、日本だけではなく世界を舞台に音楽の仕事をしたい!という熱い思いもあって、海外のまだ無名な楽曲の出版権も買い始めるんです。
後にフランク・シナトラが大ヒットさせる「マイ・ウェイ」の権利を、なんとシナトラが歌う前に既に村井さんが買っていたりもするんですが、ご自身が売れっ子作曲家ですから曲の良し悪しを見抜く凄まじい眼力があったということでしょう。
原盤制作事業、「赤い鳥」のデビューアルバム制作を
そして、出版事業だけでは飽き足らず、村井さんは原盤制作事業も始める。原盤制作とは何かというと、早い話が曲をレコーディングしてレコードを
作ることです。もちろんこれは本来レコード会社の仕事ですが、村井さんは、自分のところの予算でゼロからレコードを作るわけです。
その代わり、販売やプロモーションについては大手レコード会社に委ねる、委託する、という今で言うインディーズの走りですよね。
それを1969年頃からやっていた。
最初にアルファミュージックが制作したのが「赤い鳥」という、
フォークグループのデビューアルバム。赤い鳥というのは伝説のドラマー、村上ポンタ秀一さんがそのキャリアをスタートさせたグループです。
この赤い鳥をデビューさせたのが他でもないこの村井邦彦さんなんですよ。
そしてこの赤い鳥を皮切りに次々と生み出してゆくアルバムというのが本当に傑作揃いで凄い。
ガロの大ヒット曲「学生街の喫茶店」、荒井由美の「ひこうき雲」
小坂忠「HORO」、歴史に残る名作群です。
特に荒井由美については彼女がまだ高校生の頃に、その才能に気づいて作家契約を結ぶという先見の明。そして、荒井由美のアルバム作りでは音楽面を細野晴臣に一任する。ミュージシャン達を信頼してヘッドアレンジで自由に作らせたわけなんです。
このとき細野晴臣が集めてきたミュージシャンというのが、
ティン・パン・アレイとしてありとあらゆる日本のポップソングに彩りを
加えたスタジオミュージシャン集団になるわけです。
以前、日本のヘッドアレンジっていうのはザックリいうと細野晴臣一派と
ポンタ&大村憲司一派の二大派閥から始まっているんですけど、両方の派閥ともに、誕生のきっかけはこのアルファレコードの村井邦彦だったわけです
こうやってヒット作の実績も順調に積み重ねた村井さんですが、
ただ音楽を作るだけでは飽き足らず、プロモーションや販売も自分でやりたくなっちゃったんでしょう、ついに1977年、レコード会社そのものを設立しちゃいます。その名も「アルファレコード」
そして海外進出へ
このレコード会社を設立してからは、もちろん日本のポップスの世界での
ヒット曲は引き続き生み出してゆくんですが、やはりもともと海外進出という野望がありますから、言葉の壁が無いインストの音楽にも力を入れます。
インストってのは歌がないですからね。
そしてさらに、CARPENTERSを擁するアメリカの名門レコード会社、
A&Mレコードの作品の日本での出版権も購入します。
ただ音楽を作るだけじゃなく著作権ビジネスも同時進行でやってのけることがこの人の凄いところなんだけど、インスト音楽と国際著作権ビジネスの
2つの軸が見事に交わり熟した果実というのが、実は「YMO」なんです。
言わずと知れた坂本龍一、高橋幸宏、細野晴臣によるテクノポップユニットですよね。
世界で売れる音楽を、というコンセプトのもと細野晴臣と練りに練って磨いた「YMO」という企画。これを、A&Mというアメリカの大手レコード会社とのコネクションが出来たことで、アメリカを代表する名プロデューサー
であるTommy LiPumaにYMOを聴かせることが出来た。
彼はすぐに気に入ってアメリカでの展開を約束。
その後の世界的な大ヒットはご存知の通りです。
ちなみにYMOの大ヒットを受けてアルファレコードは念願のアメリカ法人も立ち上げるんですが、YMO以外ではなかなかヒットを生み出せずに、残念ながらアメリカ進出は失敗に終わります。その責任を取るかたちで村井さんは会社を去るんですが、そのアメリカ法人を立ち上げて最初にリリースしたBILLY VERA & THE BEATERSのシングル盤は、村井さんが会社を去った後、
リリースから6年経ってから、なんと全米1位のヒットに輝くんです。
村井さんの目は確かだったんですね。
We Believe in Music~音楽を信じる~
村井さんがとあるインタビューでおっしゃっていた言葉でとても印象的な
言葉があります。「大手のレコード会社って、既にある程度売れてるものをさらに大きく売るのは得意だけど、ゼロからヒットを生み出すというのは苦手だ」と。「荒井由美だってヒットしてお金になるまでに4年かかったけど、普通のレコード会社だったらそこまで待てなかっただろう」。
アルファ創業時のポリシーとして、We Believe in Music
つまり「僕らは音楽を信じる」という言葉を掲げていた。
すぐにお金にならなくてももしそれが良い音楽なら信じよう。
これはね、音楽だけじゃないですよ。ありとあらゆる芸術アート全般に言えることですが、お金にするの凄く難しいんですよ。良いものだからといって必ずしもお金になるわけでもない、お金になってるから必ずしも良いものとは限らない。
以前、読売新聞の記事で、文化庁長官であられる都倉俊一さんという、
この方も歌謡曲の作曲家ですけど、芸術家に給付金を与えることによって、普段儲かっていない実力のない芸術家が潤ってしまうことは避けなければならない、という旨のことをおっしゃってたんですね。
まず、「儲けている or 儲けていない」が実力の有無の判断基準になってしまっている人が、よりにもよってこの国の文化庁長官を務めているという
事実が凄く悲しい。
そしてそんな肩書を持っている人が、売れない芸術家を盗人のような目で
見ているんだな、という、本当に暗澹たる気持ちになった。
だからこそ、アルファレコード村井邦彦さんの生き様「音楽を信じる」
ミュージシャンを信じることを一番に掲げた彼のこの生き様をご紹介したいと思った次第でした。
youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。
金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
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