Eaglesからアメリカの香りがしないのは何故か?
TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。
このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。
Eaglesからアメリカの香りがしないのは何故か?
72年デビュー・現在も活動を続けているモンスターバンド
僕、アメリカのロックが大好きなんですが…
普段何聴くの?みたいな話になったときに、70年代のアメリカンロックが好きって言うと、必ずと言って良いほど返ってくる言葉が、
「あ、じゃあEaglesとか好きなんですか!?」なんです。
Eaglesといえば「Hotel California」という大ヒット曲が知られていますが、72年にデビューしたアメリカを代表するロックバンドで、メンバーチェンジを繰り返しながら現在も活動を続けているモンスターバンドです。
ところが、どういうわけか個人的にはあんまり刺さらないというか、特に
初期のアルバム3枚はかなりカントリー色が強くて、音楽のモチーフ的にはまさにアメリカンなんですけどLittle Featとか初期Doobie Brothersみたいなアメリカの香りが全ッ然漂ってこないんですね。それが何でなのか、自分でもうまく説明出来なくて、周りから「Eaglesとか好きでしょ?!」って言われる度に「いや、Eaglesはなんかちょっと違うんですよ…」っていう話を
毎回毎回するハメになっていたわけなんです。
イギリス人プロデューサー、イギリスでのレコーディングだった!?
で、20代の頃にですね、その原因を探るべく、まずは敵を知るところからってことで、彼らのアルバムをオリジナル盤で1stから順繰りに買い集めてみたんですよ。まずは食わず嫌いせずにちゃんと聴いてみようかなって思って。
そしたらね、彼らのデビューアルバムを聴く前、クレジットを見てとんでもないことに気づいてしまいました。
なんと、アメリカ出身のロックバンドなのに、どういうわけかイギリス人のプロデューサーのもと、イギリスでレコーディングされていたんですよ。
もちろんイギリスのロックも好きですけど、Eaglesってとにかくアメリカンロックの代表選手みたいな文脈で語られますから、イギリスで録音してるっていう事実がかなり驚きだったわけですよ。
どこでレコーディングされたかというとロンドンのオリンピックスタジオ。以前この音楽コラムでもお話したTHE ROLLING STONESの本拠地ですね。
録音中に警察官が入って来てしまったエピソードをご紹介しましたけど、
そのときその現場でレコーディングエンジニアを担当していたのが
「Glyn Johns」です。
フリーのレコーディングエンジニアだったGlyn Johns
このGlyn Johnsという人は、もともとロンドンで活躍していたフリーのレコーディングエンジニアなんですが、THE ROLLING STONESとはデビュー前
からの友達だったこともあって初期の作品のほとんどをこの人が録ってるんです。
オリンピックスタジオっていうのが特定のレコード会社の所有物ではない
独立系のレコーディングスタジオとして当時のロンドンでは珍しい存在だったという話を以前しましたけど、Glyn Johnsもまた、特定のレコード会社に所属しない、当時としてはかなり珍しいフリーランスのレコーディング・
エンジニアだったんです。
オリンピックスタジオがTHE ROLLING STONESの本拠地だったという言い方を以前しましたけど、正確に言うと、THE ROLLING STONESを録っていた
エンジニアのGlyn Johnsの本拠地が、オリンピックスタジオだったというわけです。特定のレコード会社に所属しないフリーのエンジニアだから、当然使うスタジオも独立系の方がやりやすかったんでしょうね。
フリーでやっていくぞ!というその姿勢も含めて、エンジニアとして次世代の感覚を持っていた彼は、かの有名なTHE BEATLESの屋上ライヴも録りましたし、何と言ってもLed Zeppelinのデビューアルバムも録りました。
その他にもThe Who、Faces等々、主だったイギリスのロックミュージック、いわゆるブリティッシュロックのアーティストたちを一手に手掛けていた
名エンジニアなんです。ブリティッシュ・ロックのサウンドを作り上げた
1人といっても過言ではない。
アメリカから1本の電話が…
そんなイギリスを代表する大物エンジニアである彼に、1971年のある日、
アメリカから一本の国際電話が入ります。誰からの電話かというと以前、
半世紀にわたって喧嘩し続けているスーパーグループとしてこの音楽コラムでも紹介した「CSNY」のマネージャーを務めていた人物からでした。
David Geffenという男。彼が、凄い新人バンドを見つけたから是非あなたにプロデュースして欲しい、といって電話をかけて来たんです。
それが、Eaglesだったんですね。
EaglesもDavid Geffenもみんなアメリカ在住のアメリカ人ですし、レコード会社もアメリカの会社ですけどGlyn Johnsにプロデュースと録音を頼むからには、彼の本拠地であるオリンピックスタジオで録らないことにはやっぱり彼のサウンドにならないから、っていうことで、わざわざメンバーみんなでイギリスに渡り、いわば海外レコーディングを敢行したわけですね。
できあがったのはカントリー色の強いアルバム
Eaglesのメンバーっていうのは結構みんなハードめなロックをやりたいと
思っていたし、だからこそLed ZeppelinやThe Whoを手掛けたGlyn Johnsに
プロデュースを頼んだわけなんですけど、当の本人は彼ら4人のヴォーカルハーモニーの美しさに注目してロックンロールじゃなくて、もっとアコースティックに、美しいボーカルハーモニーを活かしてカントリー調の音楽をやるべきだと説得に説得を重ねて説き伏せた。
それで出来上がったのが1stアルバム、その名も「Eagles」と、2ndアルバムも「Desperado」なんですね。
どちらもかなりカントリー色が強いアルバムです。
つまりですね、音楽的なモチーフとしてはアメリカンなんですけど、
でもそれはあくまでもイギリス人であるGlyn Johnsが思い描くアメリカン・ミュージックなんですよ。生粋のロンドンっ子の彼のフィルターを通して
見たアメリカの景色がそこに広がっているわけです。
異国の人から見たアメリカの景色が表現されているっていう意味で、やっぱり普通にアメリカ人がアメリカ人のプロデューサーとアメリカのスタジオで録った作品とは全く異質のロックミュージックに仕上がってるんですよね。どういう風に異質かっていうと、なんかね、絵葉書のような。
なんか観光地の売店で売られてる絵ハガキって、河口湖でこんな綺麗な
「逆さ富士」実際の現実の世界では絶対見られないでしょっていう、
そういう出来過ぎな感じあるじゃないですか。「同じ場所で素人が撮っても絶対こんな景色にならない」っていう観光地の絵葉書の謎のクオリティ。
Eaglesってバンドは元々「Linda Ronstadt」という人気女性歌手のバックを
務めていたバンドなんです。以前スタジオミュージシャンやセッションミュージシャンはバンド組みがちっていう話をしましたけど、イーグルスもまさにそのタイプで、つまりメンバーみんなめちゃくちゃ演奏上手いんですよ。だからこそ、Glyn Johnsが思い描く世界観、彼が思う、アメリカン・ミュージックはこうであって欲しいっていう願望を、彼らは忠実に表現することが出来てしまった。
だから、言うならばめちゃよく出来た映画のセットみたいな、書き割りみたいな音の世界観なんですよ。今から曲聞いてもらいますけど、途中のギターソロで登場するバンジョーとか、そんな絶妙なタイミングで都合よく突然
バンジョー出てこねーだろ普通。っていう妙な非現実感があるんですよ。
良く出来た舞台装置みたいな音楽なんですよ。
Glyn Johnsのプロデュースでロンドン録音のEaglesのデビューアルバムから
A面1曲目です「Take It Easy」
youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。
金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
AM954/FM90.5/radikoから是非お聞きください。