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たくさん歩いてほしくて
たくさん歩いてほしくて・・・なんて言えば、
聞こえはいいけど、それは、ただ単に私の都合でしかなかった。
長男3歳、次男0歳の時のこと。
私は家から離れたところにあるホームセンターにどうしても買い物に行きたくなった。そこは、大人の足で歩いてもそこそこ時間のかかる遠い所だ。
当時、私は運転免許は持っていたものの、ペーパードライバーだった。
自転車はあったが、次男はまだ乗せられるほどの月齢ではなかった。
だから、ベビーカーに次男を乗せて、長男には歩いてもらうしかなかった。
途中歩き疲れて「だっこ」と言わせずに目的地に着くにはどうしたらいいものか。
歩き始めて間もなく、私はマンホールに目をつけた。
「ねーねー、Tちゃん、これ面白いね。なんか絵が描いてあるよ」
「ん?」
(よしっ!興味を示してくれた。ラッキー!!)
「あ、見て!向こうにもあるね。見に行ってみようか。」
「うん!」
「これ、マンホールっていうんだよ」
「マンホール♪」
「マンホール♪マンホール♪」
(ありがとう!マンホール!!)
マンホールにこれほど感謝したのは、人生の中で
後にも先にもこの時だけだ。
気をつけて見てみると、マンホールはそこここにある。
それも良い感じの間隔である。
そして、描かれている絵や文字の種類がいくつかあるので私も楽しくなってきた。
「次のマンホールはどんなのだろうね~♪」などと言いながらジグザグに歩いていたら、目的地に着いた。
「えっ。T君ここまで歩いてきたの?
すごいね~。遠かったでしょ。がんばったね~。」
偶然にも長男が通っていた幼稚園の園長先生もそのホームセンターにいらしていた。園長先生が車から降りられたときに私たちも入口に到着したのだった。
園長先生は自分が車で来たことを恥じ、息子の健脚ぶりに感心しきりでとてもほめてくださった。
長男は照れくさそうにもじもじしていたが、表情は嬉しそうだった。私も嬉しかった。
園長先生におほめの言葉をいただいて、帰りはマンホールの力を借りなくても蛇行せず直線に歩いて帰ることができた。
マンホールを探しながら歩いたあの日のこと、長男は覚えているだろうか。
私は、あの日ずっと手をつないで歩いていたこと、そして、小さくてやわらかい、ほかほかの手のぬくもりを今でも覚えている。