ベジタリアンが明日は肉を食べると言い出した話
これは、旅行会社に勤務していたときの話。
とあるメーカーさんのインセンティブツアーでの出来事。
全米で売り上げの良かったディストリビューターの皆様をご夫婦で日本と香港への旅行に招待というツアーだった。
移動や宿泊費はもちろん、ツアー中の三食の食事代はクライアントさんのご負担。皆さんを喜ばせるためにお金はいくらでも払いますから、良い内容にしてくださいとのリクエストに、ペーペー平社員の私は色んな意味で震え上がった記憶がある。
ツアーの中盤、能登にあるステーキで有名なお店で夕食を食べた。
衝撃的に美味しいステーキだった。
ツアー中、他にも美味しい食事はあったはずなのに、その日のお肉があまりに美味しく、あとは何を食べたのか思い出せないくらいの美味しさだった。
お肉のおかわりができないか、というリクエストがお客様から続出した。
クライアントの担当の方に確認をとると、
「そんなに喜んでもらえているならいいでしょう。確かに、こちらのステーキはとてもおいしいですね」とのこと。
みなさん、大喜びでワインもおかわりして、あちらこちらで再び乾杯の声が聞こえてきた。追加のお肉が運ばれてきて、大満足の様子だった。
食事が終わって、移動のバスに乗り込むときに1組のベジタリアン夫妻に向かって、何やら話している声が聞こえてきた。
「こんなにおいしい牛肉を食べないなんて、人生を損している」「今日の牛肉は食べるべきだったと思うよ」「本当においししかったんだよ」
みんなの勢いにおされたのか、ベジタリアンご夫妻は、「そんなに牛肉がおいしいなら、明日は食べてみるよ」と皆さんにむかって宣言した。すると「ヒュー、ヒュー」とはやし立てるような声を出し、みんな大はしゃぎ。
けれども、私は心の中で叫んでいた。美味しいお肉を食べるなら今日の方が絶対によかった!!!明日は京都に移動。夕食はすき焼きの予定。でも、舞子さんをよんでいてそちらに予算をかけているし、言っては悪いが明日のすき焼きは、驚くほど美味しいわけではないのを私は知っている・・・あぁ。
翌日、ベジタリアン用の特別メニューにプラスして、すき焼きも召しあがったご夫妻に感想を聞いてみた。
「まあまあだったよ」
だろうな、と思った。
「残りの日程の料理はベジタリアンメニューでいいからね」と言い添えるのを彼らは忘れなかった。
あ~ぁ、食べてほしかったな。あのステーキ。
このツアーは、いろいろと印象深い。こちらの記事にも書いたが、私が日本語教師を目指すきっかけの一つにもなったからだ。
おわり