とあるIFAの顧客保有ファンドはインデックス運用0本、その理由2⑫
インデックス(Index)には目次や目録のような目印に近いニュアンスがあります。
例えば日本国内の株式市場のインデックスは日経平均株価やTOPIX、JPX日経インデックス400などが代表的です。またアメリカの株式市場であればダウ工業平均株価(ダウ・ジョーンズ30種工業平均株価)やS&P500などが代表的と言えるでしょう。
今回はこのインデックス運用ブームの歴史的背景と何故とあるIFAはインデックス運用に否定的なのかの側面に触れていきます。
インデックス運用の提唱者、バートン・マルキールは何故インデックス運用を提唱したのか
1973年1月にバートン・マルキールが著書「ウォール街のランダムウォーカー」(第1版)を発表しました。最新版が2019年時点で第12版ですから、超長ロングセラーです。
“多くのアクティブ型投資信託はインデックスに長期運用では勝てない”
現在では日本人の初心者投資家でさえ聞きかじった程度には知っているこの定説はこの一冊の本から始まりました。
ちなみに表紙に描かれているのがマルキールです。現在は表紙が変わっていますが、なんとも悪そうな顔をしていると思いませんか?(笑)ハリウッド映画の悪役に出てきそうな表情です。
さて発表されたこの当時、アメリカどころか世界中にまだインデックス型投資信託というものは存在していませんでした。
日本では「多くのアクティブ型投資信託は”インデックス型投資信託”に勝てない」と拡大解釈をしているきらいがあります。
当時、インデックス型投資信託など世界のどこを探しても存在しなかったのですから日本では誤ったインデックス信仰とでも言うべき思想が浸透していることが伺えます。
作中でマルキールは米国株式の代表的な指標(インデックス)であるS&P500と当時のアクティブ運用のファンドの運用パフォーマンスの比較を行っています。
S&P500を近年はインデックス(指標)と表現する人が殆どですが、インデックスとはそもそもなんでしょうか?
S&P500は米国における上場企業から500社を民間の格付会社であるStandard&Poor’s社が選んでいる訳ですからこれを市場の指標とすることにはふと疑問が浮かびます。
同じような話は日本でもあり、日経平均株価(nikkei225)も民間企業である日本経済新聞社が日本国内の上場企業から225社を選んで構成しています。
証券取引所が公表している株価指数または平均株価やマーケット規模を現す指数ではなく民間の企業が何らかの基準を用いて選んだ銘柄で構成されているということは本質的にそれはアクティブ型と呼べるのではないでしょうか。
何が言いたいかと言えばインデックス運用だから良いのではなく、米国でダウ工業平均やS&P500に選ばれている銘柄が株価の上昇をしてくれる優良銘柄であった。
日本では株価の上昇を殆どしない銘柄が対象に選ばれてきた、ただそれだけではないのかということです。
この事はアクティブvsインデックス論争(科学と宗教の戦争)の前提条件に関わる非常に重大な話のハズですが、きちんと定義される事なく日本では結論だけが一人歩きしている感がある事に個人的に恐怖を感じます。
さてマルキールが著書を発表したその3年後の1976年、米国バンガード社によって世界で最初の公募型投資信託としてFirst Index Investment Trust(現Vanguard 500 Index Fund)が発売されました。
日本ではそこから凡そ10年ほど遅れて1985年に国際投信委託(現三菱UFJ国際投信)から国内初のインデックス型投資信託が発売されます。
何故、世界の資産運用会社は続々とインデックス型投資信託の販売を行ったのでしょうか?
時代を振り返れば1970年代から1980年代と言えばベトナム戦争終結、ニクソンショックやオイルショック後。またイランイラク戦争(通称イライラ戦争)、日本の高度経済成長とバブル経済に湧きたち西側諸国の株価も右肩上がりの時代でした。
90年代にかけてはベルリンの壁崩壊、湾岸戦争、ソビエト連邦崩壊となり世界の経済の中心は第二次世界大戦後の米ソ2強時代からアメリカ一強時代、そして米欧2強時代と常にアメリカが世界の経済の中心にいました。
アメリカに世界のお金が集まった結果としてアメリカの株式市場を押し上げたという歴史的側面があります。
こんな中でマルキールがアメリカの当時のアクティブ型ファンドはインデックスに長期運用で勝てないと提唱したのは何故でしょう?
「アクティブ運用は長期でインデックスに及ばない」発言には理由と条件がある
①10年、20年、30年という長期運用をしていくと伝説的・カリスマ的なファンドマネージャーとは言え高齢化や入院や長期離脱、交代・引退は避けられないので、”多くの”アクティブ型は勝てない。
例外的なファンド(ウォーレン・バフェットの運用とか)がたまにあることは否定しない。
また市場平均を常に上回るパフォーマンスを出し続けられるファンドは存在せず、やがて市場平均に収束して近づいていくのであれば最初から市場平均に投資すれば低コストで運用益が出しやすいのではないだろうか。
②株価が長期的に見て右肩上がりの相場なら、アクティブ型に高い信託報酬を支払うのはパフォーマンス上は不利であると考えられる。
③インデックスとインデックス型投資信託は別物である。真性のインデックス型投資信託は信託報酬分は必ずインデックスに負ける
マルキールの意見は常にいくつかの予防線を張っています。またマルキールの理論をより正確に表すのであればインデックス運用を推奨するのではなく、本のタイトルにもなっている「ランダム・ウォーク理論」です。
結果的にインデックスファンドでの運用を彼が落とし所として提唱する理由はそこにあります。
しかし結論やランダムウォーク理論の一部だけを切り取った”誤った解釈”によって日本でも90年代〜2000年代にかけて2度のインデックスブーム(90年代は信託報酬の低コストブーム、2000年代はノーロードブーム)がありましたが、そこはボタンの掛け違いをした日本人です。
インデックスとはそもそも何なのか、インデックス運用が市場にもたらす影響を未だにきちんと理解せず、また説明もせずに兎に角インデックスファンドが良いらしい。
取り敢えずインデックス型に投資しておけば良いらしいとマルキールもそんな事を一言も言っていないのに声の大きな人たちの都合の良い誘導を疑いもせず大切な資産をインデックス運用に投じています。まるで第二次世界大戦末期の世界の国々のようです。
インデックスファンドと言っても色々なタイプがあるんだが知ってます?あなたのそれはどれ?リスクは理解出来ていますか?
海外では投資家から絶対収益追求のアクティブ型(日本のアクティブ型とは定義がまた異なる)に加えて、その派生形の投資信託も根強い支持を集めています。
例えばインデックスをベンチマーク(目標)として、それを上回ることを目標としてインデックスの対象企業からファンドマネージャーが構成比率を変えてインデックス以上に高いパフォーマンスを低コストで目指すエンハンスト・インデックス運用(アクティブ型ファンド)や利益や純資産、企業規模、成長性などの独自基準でインデックス構成銘柄を絞ってより洗練する「スマートベータ戦略」(アクティブ型ファンド)などがその代表格です。
さて日本において過去の結果を観ると1989年12月の日経平均最高値以降、30年以上もバブル期のこの株価を超えることはありませんでした。企業収益は過去最高益を更新しているというのに。
日本では企業の業績が良い悪いで株価が変動するのではないという特異な状態が続いています。
他方アメリカのインデックスを観ると、これらをインデックスと呼ぶのであればですが、ダウ工業平均もS&P500も株価の下落局面こそ何度もありましたが、その度に乗り越えて時間の推移とともに常に最高値を更新してきました。
右肩上がりの相場なら放っておいても株価が上がっていくのだから、コストの安いインデックス型投資信託で良いではないか…この議論は時として「コストは悪」という所に行き着きます。
日本でもまさにそう言った議論がここ最近もつみたてNISAという金融行政の誤った投資理解によって声が大きく取り上げられるようになってきましたが、この議論が如何に見当はずれなものかこれを読まれた方にはご理解をいただけていれば嬉しく思います。
積立投資とインデックス運用は全く独立した考えだと言うことを声を大にして言いたい!
とあるIFAがインデックス運用否定派の理由
さて、とあるIFAが特に日本のインデックス運用にネガティブかと言うとインデックス運用をするとは、投資される資金が対象となる指標に含まれている企業の株式へ資産運用会社を通じて投資されることを意味しているからです。
株式発行の目的は市場からの資金調達ですから株式が買われるとその企業は投資された資金を得ることになります。
金融行政は何故、インデックス型投資信託への投資を勧めるのでしょうか?
つみたてNISA発案者の森前金融庁長官(現コロンビア大学国際公共政策大学院非常勤教授)は2017年4月に講演の中でこの事に触れています。
“米国は、企業のファンダメンタル価値を評価する投資家の層が厚いため、市場の効率化が進み、インデックス戦略が機能している”だから、日本もインデックス運用が普及すれば経済が活性化する…と森全金融庁長官は言いますが、本当に果たしてそうでしょうか?
アメリカのインデックスが伸びてパフォーマンスを出してきたのはアメリカが長きにわたり世界経済の中心にいたから資金が集まったと考えると日本に同じことが言えるのかはよく考えなければなりません。
また日本の上場企業は上場する事がゴールで、上場してしまった後で株価が伸びていく企業は残念ながら稀です。
株式上場とは市場から資金を調達をして、より良いサービスや商品の研究や開発・販売などをしていく事が目的です。
しかし日本の上場企業の殆どは上場企業というだけで経営努力や企業努力をしなくても日銀が2010年から毎年約4兆円の公的資金を投入しています。
2014年からは年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が160兆円の年金積立金をこれまでの国内債券ではなく、日本株式、外国株式、外国債券に投じることになりました。日本株式はそのうち40兆円規模です。
この方針を発表する時に安倍首相は世界に向けてこう発言しました。
皆さん耳にタコが出来ているのではないでしょうか?アベノミクスです。
“3本の矢”の一つが公的資金による日経平均、TOPIXの底上げです。(日銀のETF買い)
結果、2010年に8,800円前後だった日経平均は2万4千円を一時超えました。
しかしこの株価の急上昇は長く続きません。
最初こそ外国人投資家マネーを呼び込みましたが、時間の経過と共にどんどん投資額が減り、2019年8月には逆に流出超過に転じました。
アベノミクスはトリクルダウン(別名シャンパンタワー)を実現できるという説明でした。
しかし結果として潤ったのは法人税減税の恩恵を受けた大企業や富裕層で、その税収補填のために2度の消費増税と社会保険料の増額によって殆どの国民は貧しくなっていきました。
こういうのは独占(モノポリー)と呼びます。量的緩和と叫ばれた大量の資金投入は一部の人の独占で庶民の元には行き届かず、その財源の清算のために増税が進められています。
途上国支援のお金もどれだけ先進国や国連やユニセフが資金を提供してもその国が文化的、社会的生活水準を向上させないのはその国の上層部にいる人たちが私腹を肥やすからというのとなんら変わりません。
アベノミクスとインデックスブームの不思議な関係
またアベノミクスの一貫がインデックス運用による投資ブームです。
株式投資を通じた資金が上場企業へ流れるように入ってくる環境を作り出しました。
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