📧コロナ流行で民主主義崩壊の危機!?物事を多面的な視点で捉えるリベラルアーツの重要性⑥(2021年9月号)

本編はセミナー受講者・契約者・有料メールマガジン会員向けの記事です。

会員の無料公開期間終了後、原則として有料記事として公開しております。

1年分をまとめたお得なマガジンがおすすめです。
(未経過分は毎月15日頃に順次追加されます)

WITHOVER NEWS(定期購読)｜ポッターさん｜note

WITHOVER News2021｜ポッターさん｜note

ALL Collect｜ポッターさん｜note

.note

間もなく衆議院総選挙、民主主義の国家において国民が自分たちの国の政治を託す政治家を選ぶ大切な選挙が近づいています。

その一方で長引く新型コロナウィルスの影響で世界各国の民主主義が危機に瀕しています。なんとも不穏な言葉ですが、皆さんはどれくらいその感覚があるでしょうか。

日本で生まれて育った多くの日本人にとって民主主義とは空気のようなもの、あって当たり前のものかもしれません。日本国憲法が世界の憲法の中で
どれくらいの位置づけなのかは知らなくても、保障されているという安心感の中で我々は人生を生きています。

天皇を象徴と位置づける日本国憲法は「基本的人権の保障」を最大限尊重することを保障しています。
その中には国民主権、つまり血脈や出生の如何によらず、日本国籍を有する人による18歳以上の人による投票によって選ばれた政治家に国の未来を託して、そして日々の仕事や生活に集中できる仕組みが提供されています。
(それが実際にどれだけ実効性を伴っているかはさておき)

世界には信仰の自由がない国もあります。

言論の自由がない国もあります。
職業選択の自由がない国もあります。

国民に選挙権さえない国も実質的にそれらが機能しない国もあります。

しかし私たちの生きる日本の民主主義は今日では機能不全に陥り、危機的な状況にあります。何故でしょう？

今号では作家の佐藤優氏の著書『16歳のデモクラシー　受験勉強で身に着けるリベラルアーツ』を元に民主主義とは何なのかを私なりの私見を交えながら解説していきたいと思います。

16歳のデモクラシー: 受験勉強で身につけるリベラルアーツ

　『16歳のデモクラシー』は佐藤優が埼玉県立川口北高校の当時高校一年・二年生を対象に2019年2月14日、4月3日～5日の計4日間、朝8時45分から午後3時45分までさいたま市内のホテルで行った集中講義の内容を書籍化したものです。集中講義のテーマはサブタイトルにある「受験勉強で身に着けるリベラルアーツ」。

参考書として採用したのはアメリカの神学者ラインホールド・ニーバー(1892-1971)の『光の子と闇の子―デモクラシーの批判と擁護』(2007年晶文社、翻訳：武田清子訳、解説：佐藤優)。

新版 光の子と闇の子──デモクラシーの批判と擁護

この本は偏差値がそれなりに高い(埼玉県内における高校受験で同校の偏差値は62~63前後。全国における同校の偏差値は66前後)高校生でも、一般的には大人でさえ理解するのには少々難解な本です。

佐藤優はこれに書かれている原文(英語)を高校生たちと4日間かけて宗教、政治、経済、歴史、文化と英語の読み解き方とそれが今日の社会の何に結びついているのかを解説しました。
しかもテーマがデモクラシー(民主主義)、日本国民が近世においてもっとも望んで手に入れそこなったもの(結果として戦争へ突入してしまった)、そして近代においてもっとも軽んじてしまっているイデオロギーについて踏み込みました。
これは特別講義とはいえ、均一性を重んじる公教育においては異例のことです。

この講義を受けた高校生たちは2021年3月に高校卒業を迎えました。つまりこの授業は大学入試改革の1期生となる世代の子どもたちに向けて行われたと言えます。

社会主義崩壊を知る数少ない日本人作家、異色の経歴

解説の佐藤優はソビエト連邦が崩壊した直後の時代に、外務省官僚としてロシアへ駐在をしていた経験のある作家です。

ソビエト連邦とは1917年のロシア革命によって終焉を迎えたロシア帝国(帝政ロシア,およそ300年続いたユーラシア大陸北部のほぼ全域を支配した巨大帝国)に代わってレーニンらによって1922年に周辺国をまとめて建国した
“世界初の社会主義国家”です。

つまり社会主義国家の崩壊後の社会を知っている数少ない日本人ということになります。これほどうってつけの解説者はなかなかいません。

そのソビエト連邦が解体したのは1991年、日本ではバブルが弾けた直後という時代にあたります。マルクスとエンゲルスという思想家が行き過ぎた資本主義への警鐘として掲げた『共産党宣言』 (1848)を、経済・国家の価値観の根底に敷き、理想的国家(共産主義国家)の建設を目指した過程にあるのが社会主義国家です。

日本では社会主義・共産主義を一括りにしてしまうことがあります。中国や北朝鮮、またはシンガポール、キューバなどの社会主義国家はありますが、共産主義国家は地球上に存在しません。

共産主義とは社会主義国家の追い求める資本主義による貧困・格差・失業などの社会的問題が完全に排除された状態を目指しています。

こう説明すると「資本主義」とすこぶる相性が悪いことに気づくでしょう。

我々は民主主義国家に生き、資本主義社会を生きています。
民主主義とは政治の仕組みで、資本主義は経済の仕組みです。
民主主義とは冒頭にざっくりと書きましたが、資本主義とは何でしょうか。

資本主義とは資本を持つ人(資本家)が資本を出資(投資)して、その出資した資本によって人を雇い、資本を増やす『経営と雇用』の関係に代表される経済の仕組みです。

言い換えるなら経営側の立場が圧倒的に強く、雇用は雇われる側という構造の中に閉じ込められます。資本によって資本が増え、その増えた資本を元手に更にまた資本を投じて資本を増やす経済活動を基本とするのが資本主義の本質です。

資本主義が行き過ぎると行き着く先に待っているのは雇われる人間をどれだけ搾取・酷使して、資本をどれだけ効率良く増やすことが出来るかということになります。ここでいう搾取・酷使とは「生かさず殺さず」の段階です。あまりにこれが行き過ぎると暴動やデモが起きます。
日本だけでなく世界的に20世紀後半からブラック企業と呼ばれる言葉が流行り批判を浴びましたが、これは末期の状態と言えます。

そうならないために国は最低賃金や労働基本法、企業は労働組合を結成して春闘などの賃金交渉(ベースアップ)や労働条件の改善を経営側に対して交渉・対抗する事を認めているのですが、近年の日本でストライキはほぼ聞いたことがありませんし、職場によっては労働組合などがない場合も相当数増えてきています。

また労働組合が経営者の言いなりなどの機能不全も珍しくありません。
マルクスとエンゲルスによる『共産党宣言』では資本主義が行き過ぎた結果、社会に格差や貧困などの社会的問題が増え、生きる希望をなくした民衆によって資本主義は崩壊すると予言されていますが、果たして崩壊するほどのデモやストライキが日本で起こるでしょうか？

詳しくは『16歳のデモクラシー』を直接読んでいただければと思いますが、内容はタイトル通りの高校生でも理解できる内容にかみ砕かれていて、世界の歴史や経済の仕組みに関心がある人であれば読んでおいた方が良い内容です。

本の内容は歴史や経済などの根底にあるものを紐解いていますが、この本で最も大切にしていることはリベラルアーツでしょう。

ある物事を観た時にどのようにしてそれを捉えて、自分が判断・行動をするか。欧米と日本の教育を比べた場合に日本が最も出遅れている分野がこのジャンルです。

本書はこの基本的な考え方を高校での勉強においてどう展開できるかに挑戦していますので、社会人である我々は高校生の親であるかを問わず学ぶことが求められる内容となります。

歴史に学ぶ国家体制の変遷「君主制」から「衆愚政治」まで