📧アメリカ最後の日～政治への無関心と分断、そして近未来への警鐘

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自民党総選挙2024が決着

自民党は生まれ変われるのか

日本では9月27日に自民党総裁選が行われ、総裁選5回目(決選投票3回目)の挑戦をした石破茂氏が総裁に就任。10月1日の衆議院にて内閣総理大臣として指名され、同日午後に天皇陛下から任命されました。

自民党は派閥解体をきっかけに史上最多9名の候補者での総裁選挙は票が分散。1回目投票1位の高市氏との決選投票で逆転し、勝利。

党内の新総裁就任演説中、壇上でこの逆転劇を裏で指揮したとされる岸田前総裁の隣で、あからさまに不機嫌な表情だったのが麻生太郎副総裁でした。

(翌日の党内人事でも一緒に写真に写らないなど露骨な態度を表す)

不機嫌な麻生氏

皆さんは麻生太郎氏が国会議員に初当選した1979(昭和54)年のインタビューを見たことがあるでしょうか？彼は若き日にこんなことを言っていました。

「人に嫌われてもいいから、やっぱ日本の方向を間違えない政治家になりたいね」
「国会議員として日本の方向を、世界の中の日本という立場で間違えずにやったっていうのが
あの男だったなという風に歴史に残ってくれさえすればええな」

長らく安倍晋三を支え、財務大臣、金融担当大臣、自民党副総裁も務めた麻生氏。

現麻生派の源流は、河野太郎氏の父である河野洋平氏(1937-)にあります。
当時の宮沢派(現:宏池会)を離脱した議員を集めて結成された大勇会(河野グループ)を、麻生氏が2006年に受け継いだのが為公会しこうかい(後の志公会)で安倍派(清和政策研究会)に次ぐ党内第二位の派閥となったのが現在の麻生派となります。

党利党略があるとはいえ恩義ある子である河野太郎氏を支持をせず、関西弁としてのニュアンスを含んでいるとはいえ財務省・日本銀行の金融政策に「アホ」と歯向かう姿勢を示した高市氏を支持したこと。

5人で争った2012年総裁選

安倍晋三と2012年、2018年の総裁選の決選投票で対峙した石破氏が、安倍派からの支持を引き継ぐ高市氏に立ちはだかり、そして敗れたというのはなんという皮肉でしょうか。

過去、自民党総裁になれなかったのは細川政権時代の河野洋平総裁と民主党政権時代の谷垣総裁だけ。河野洋平以来の最高顧問に麻生氏を据える人事も、代表権のない会長職のような閑職とされ事実上の隠居か？

石破総裁と野田代表の与野党対決

また先立つ9月23日には立憲民主党代表選で選出されたのは、2011年に民主党が自民党に政権交代を許し、国会での安倍元首相追悼演説をした野田佳彦元首相でした。

野田代表は、松下幸之助が立ち上げた松下政経塾の1期生で初の首相となりました。

(ちなみに高市氏は松下政経塾5期生)

自民党総裁選挙の結果を受け、石破氏と学年違いの同い年となる野田新代表は「がっぷり四つに組んで、どちらが押し切るかという論戦をぜひやってみたい」と語ったそうです。(毎日新聞9月27日午後)

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中位投票者仮説

経済学の世界では選挙における投票する人の行動を分析する際に「中位投票者仮説」という考え方があります。

仮に左派(リベラル)と右派(保守)という政策の異なる2つの候補者(政党)がある場合、投票する人は両者のどちらに投票するのか、候補者の政策はどのように揺れ動くのかという考え方です。

候補者はお互いに投票人を取り込もうと議論を進めていくと、それぞれに左派なのに右派寄りの落としどころを見つけようとします。そして右派も左派寄りの落としどころを見つけようとします。

本来は両極端のように異なる2つの候補者が、いざ投票となった時にある部分(争点)ではとても近い政策を展開する事になるというものです。

これを日本の現与党である自民党と、野党第1党の立憲民主党で考えるとどうでしょうか？立憲民主党のような政策を掲げる自民党と、自民党のような政策を掲げる立憲民主党が存在した時に、あなたはどちらに投票するでしょう？

多くの投票人は、政策実行力のある方を選ぶということになります。

野党の役割・存在意義とは、与党の政策に対案や議題をぶつけ、外から与党内に危機感を含む変化をもたらすことにこそ最大の意義があるのです。

よく錦の御旗のごとくとにかく政権交代を掲げる野党がいますが、政権交代が起こるかどうかだけが選挙ではないし、仮に政権交代が起きたとしてもそれだけで社会が劇的に何かが変わることは殆どありません。

むしろ激変による混乱や政治の停滞など弊害も少なくないことは民主党政権を経験した多くの人々にとって忘れてはならない教訓ではないでしょうか。

そして選挙の結果というものは、最後まで分からないという事も、今回の自民党総裁選は改めて私たちに教えてくれたのではないでしょうか。

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映画『Civil War アメリカ最後の日』

さて、ここからは10月4日から公開がされる一本の映画の紹介を交えつつ、米国大統領選挙とその映画のテーマでもある「アメリカ最後の日」について考えてみたいと思います。

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<今月公開のオススメ映画>
『シビル・ウォー　アメリカ最後の日』
アレックス・ガーランド脚本・監督/A24制作

舞台は19州が離脱し、テキサス州・カリフォルニア州からなる「西部勢力」と連邦政府による内戦が勃発した近未来のアメリカを舞台に、NYからワシントンD.C.へと向かうジャーナリストたちを描く作品。

先行公開された米国では公開2週連続1位を獲得
上記画像をタップでYouTube予告動画へ(US版字幕90秒)

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分断を繰り返す米国史

米国大統領選挙でも「中位投票者仮説」で多くの投票者の行動と候補者たちの政策の揺れ動きが説明できます。

民主党か共和党か。ハリスかトランプか…ぶつかり合った議論の末に、現実の世界で米国で大統領選挙を決するものは何でしょうか？

バイデンやハリス支持者でもなく、トランプ支持者でもなく、皮肉的な話ですがこれまで政治に無関心だった若い世代の民主党でも共和党でもない、無党派の市民・国民(Civil)の投票行動がその結果を左右するのです。

映画のタイトル"Civil War"の直訳は「市民戦争」ですが、米国では「南北戦争」のことを指します。

南北戦争は1861~1865年に起きた米国史上最大の戦死者約62万人を出した内戦とされています。(第二次世界大戦の米国戦死者は約41万人)

当時、米国で始まった産業革命によって機械や工場が相次いで進出した経済的にも豊かな北部では黒人の奴隷などもはや不要。機械による大量生産社会に突入し、ヨーロッパから入ってきた人権意識の高まりと共にリベラルな思想を掲げる共和党からエイブラハム・リンカーン大統領が選出されました。

しかしこれを良しとしなかったのが南部の人たちでした。

アフリカ西海岸から奴隷船で米国に送られた黒人奴隷たちが
18~19世紀の時代に支えられた

テキサス州など南部ではプランテーション(大農園)などを行う昔ながらの生産方法によって投票権を持つ雇用主は潤い、投票権を持たない黒人奴隷などは酷使されている状況で公民権などまだありませんでした。

温暖な気候の南部では綿花・煙草などの栽培が主な産業で、
それを支えたのが奴隷たちの労働だった

雇用主たちが支持したのは保守的な考え方を持つ民主党で、彼らはアメリカ連合国としての独立を掲げ、分離独立を宣言しました。

現在でも南部だった地域では南部連合旗が掲げられ、
人権問題などで度々シンボルとなっている

リンカーン大統領による「奴隷解放宣言」をきっかけに、奴隷たちが蜂起し、南軍は敗北。米国史上最大の内戦は終結に向かいました。

奴隷解放宣言の2年後、4年に及んだ南北戦争は終結。
終戦のわずか5日後にリンカーン大統領はワシントンD.C.で観劇中に銃撃。
翌日に亡くなり米国史上初の現職大統領暗殺事件として歴史に刻む

日本製鐵のUSスチール買収騒動

さて、現在に立ち戻って、米国共和党と民主党はどうでしょうか？

まるで当時の南北戦争当時をひっくり返したように、一般的にはリベラルな民主党、保守的な共和党というイメージが根付いていないでしょうか？

今回は解説しませんが、こうした現在とのねじれも歴史と経済を紐解いていくと、その原因となった様々な出来事がつながっていきます。

マーク・トゥエイン(1835-1910)
ディズニーランドの蒸気船にもその名を遺す作家

『トム・ソーヤの冒険』の著者でもあるマーク・トウェインは「歴史は繰り返さないが韻を踏む(History does not repeat itself, but it rhymes.)」と語っています。

たとえば近年、日本製鉄によるUSスチール買収*に全米鉄鋼労働組合USWが反対が噴出し、バイデン・ハリスの民主党陣営とトランプ率いる共和党陣営の双方から「USスチールが盗まれた(スティール)」と買収に反対する事態となりました。

*両経営陣の間では買収合意済み。

USスチール本社はスイングステートの一つペンシルベニア州にあり、ここは南北戦争の最大の激戦地ゲティスバーグもある場所。

この場所は先ほども触れたリンカーン大統領の奴隷解放宣言や、それと共に良く知られる「人民の、人民による、人民のための政治」という演説の舞台ともなった今日の米国民主主義を代表する地であり、そして1回目のドナルド・トランプ暗殺未遂事件が起きた州でもあります。

*ペンシルベニア州知事は民主党のジョシュ・シャピロ

既に触れた通りペンシルベニア州は南北戦争時代に北部と南部の境界に位置し、五大湖一帯は水運を利用することでかつては米国有数の工業、製鉄業などの栄えた地域です。

現在USスチールは従業員数2.18万人だが、最盛期の1943年には34万人を擁していた。
USWはペンシルベニア州ピッツバーグに本拠地を置き、製鉄だけでなく、製紙・林業・ゴム・製造業・エネルギーなど製造業の労働者を幅広く抱えている総合労働組合。

(対岸のデトロイトではゼネラルモーターズ・クライスラー・フォードのビックスリーが本社や工場を構えて繁栄)

しかし近年、この北部一帯は労働組合の力があまりに強くなりすぎ、企業はやがて衰退。

現在では閉鎖され放置されたり、放置されたままの工場一帯を皮肉って「Rust Belt」(錆びた一帯)と呼ばれています。

米国北部に位置し、製造業衰退・工場閉鎖を重ねて
Frost Belt(凍り付いた一帯)の別名もある地域

他方、2000年代以降ではテキサス州など南部一帯(Sun Belt)は労働組合が相対的に弱く、今や世界的企業であるトヨタ*などの日本の製造業も数多く進出し、JETROによる調査では同州における日系企業は2020年時点で436社とされています。

*トヨタ北米本社は2014年にカリフォルニア州からテキサス州へ移転。

皮肉なことに米国の強さは、現在もそうであるように、歴史的に国民の分断と対立を何度も繰り返しながら、今日の大国としての地位を築いてきたことを忘れてはなりません。

リンカーン大統領の愛用した聖書に手を置き、
大統領就任式で宣誓したドナルド・トランプ(2017)

米国の未来を予言する『FRORIDA』

一方で、先日のハリスvsトランプによる討論会の直後に歌手のテイラー・スウィフトはX(旧Twitter)でハリス支持を表明。この行動が政治に関心の薄い無党派の若者の取り込みに成功したかもしれないと報じられました。

彼女が今年4月に発表した新曲タイトルは「FRORIDA!!!」で、2回目のトランプ候補暗殺未遂事件が起きた地でもあります。

またフロリダ州はミニ・トランプとして候補者争いをしたロン・デサントス知事が治め、2016年は共和党支持だった州ですが、2012年のオバマ大統領時代には民主党支持だった州です。

もしフロリダ州の結果がひっくり返ると米国内第3位の投票人*30人が民主党に雪崩れ込むことになり、選挙の行方は共和党が７つのスイング・ステートの大部分を抑えたとしても一層混迷を極めます。

*カリフォルニア州54人、テキサス州40人

その後スウィフトはイーロン・マスクによってXから追放され、マスク氏はトランプ氏の支持と献金を表明するなどコミュニケーション手段である新興メディアSNS(YouTube含む)が、現代における選挙の飛び道具として少なくない影響力を持っていることを知らしめます。

スイングステートの選挙人はネバダ6、アリゾナ11、ジョージア16、
ノースカロライナ16、ペンシルベニア19、ミシガン15、ウィスコンシン20人

もし米国がこの映画『Civil War』のように本当に分断する未来がやってくるなら…

ここで近年、国際的に燻っている懸念の一つが、現在の国際連合は第二次世界大戦の戦勝国となった国際連合軍(United Nations)が母体となっているという点です。

国連の常任理事国であるロシアが起こした構図として西側諸国で語られるウクライナ戦争は常任理事国となった当時の枠組みで観た時には旧ソ連における「内戦」であるから国連は介入ができないように、現実の世界でもしアメリカ国内の内戦に国際社会は介入をする事が出来ません。

これと同じ理屈で考えると、常任理事国が誕生した際に中国を代表するのは中華民国(台湾/中国国民党)でしたので、中華人民共和国*(中国共産党)との有事もまた「内戦」として扱われる懸念もあるのです。

*中華人民共和国の人民は国民という意味ではなく、"人民"解放軍の意味。

このように現在の国連は、既に多くの人が疑念を抱いているように無数の課題と矛盾を抱えています。

常任理事国が持つ「拒否権」によって、常任理事国が絡む戦争・紛争には介入できないというのは大きな課題です。

何故なら1か国でも常任理事国が反対すればその決議は否決することができるという仕組みになっているからです。

国際連盟は第一次世界大戦の教訓からルーズベルト米大統領の提唱で
創設された世界平和と国際協力の組織(1920-1946)

こうしたことから国連は近い将来かつての国際連盟のように瓦解し、第三次世界大戦のような争いを経て誕生する新たな戦勝国軍等によって世界は全く新しい秩序によってリセットされる予兆なのかもしれません。

提唱者のルーズベルト自ら国際連盟の脱退を表明

国連が瓦解するという事は、そこに実質的に連なるWHO(世界保健機関)やWTO(世界貿易機関)、米ドルを基軸通貨とするIMFなどの世界銀行なども同じようにリセットされる危険性が高まるという事です。

国際連合軍を母体に常任理事国が組まれ、加盟国で総会が運営されている。
ユニセフ、IMF、WHO、WTOなど国際関連機関は多い

そしてこうしたことを2008年に米国の社会学者リチャード・フロリダ氏は社会、経済、環境などの課題を解決するために既存のシステムをリセットして、新しい世界秩序を構築することを"The Great Reset"と提唱し、既に2020年のダボス会議(世界経済フォーラムWEF)などで多くの人の知る所となっています。

偶然の一致？キーワード「フロリダ」が提唱者の名前にも。

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政治とメディアの功罪

映画の話に戻すと、映画『Civil War』のアレックス・ガーランド監督(代表作『エクス・マキナ』)監督は皮肉的に、近未来をどこか現実の世界を想起させる出来事を描くことでも知られています。

政治色を極力除いて描かれても、私たちが米国の分断・内戦をスクリーンで観る時に、現実の世界の出来事をつい重ねて観てしまう。

そんなウィットに富んだ作中での出来事を我々は単なるフィクションとして捉えるのでしょうか？それとも近未来からの警鐘として捉えるのでしょうか？

今やメディアが正しく報道しないだけで、実際にはかなり近い状態に陥っているとするなら、この映画を通じてガーランド監督が警鐘を鳴らす「政治とメディアの功罪」を私たちは考えざるを得ません。

日本人には米国大統領選挙の投票権がない上に、米国大統領選挙の結果も例に漏れず誰にも最後まで分かりません。

しかしこの映画のような未来にならないことを願うだけでなく、世界で起きている事、社会で起きている事、自国の政治・選挙にもっと多くの人がつながりを感じ参加し、議論し、そして考えるきっかけになればと思います。

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