📧クレジットカードの歴史と普及によるマーケティングの変化⑥(2020年5月)

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突然ですが、皆さんのお財布の中には何枚のクレジットカード (クレカ)をお持ちですか？
お財布の中の平均保有枚数は2016年調査で3.2枚、自宅にあるものを含めると6枚、成人の84%の方が保有と言われていますが…
皆さんはクレカについてどれくらいご存知でしょうか？

クレジットカードの誕生と普及

最も有名な説*では1950年、ニューヨークのレストランで食事をしていたある実業家が会計の時に財布を忘れていたことに気付きました。家族に財布を持ってきてもらう事で事なきを得ましたが、彼は待っている間の恥ずかしさが忘れらず、弁護士の友人に相談し、現金がなくても食事ができる制度を共同で設立しました。

名前をDiners Club(ダイナースクラブ,晩餐クラブ)。世界で最初の多目的に利用できるクレカの誕生でした。
* 1890年電報料金の後払い、1911年には単一目的(車購入)のためのクレジットカード発行済

この仕組みはあっという間に銀行の目に止まり、1951年にフランクリン・ナショナル銀行が正式なクレカとして発行を開始したそうです。
この時代、物の値段が年々高くなるインフレと銀行にお金を預けていても利息がインフレ率以下のため実質的に目減りをする低金利時代にアメリカは突入していました。
実質的に目減りする銀行にお金を預けておくよりも買い物をした方が良いと買い物が奨励され大量消費社会に突入した1950年代のアメリカ。

『バック・トゥ・ザ・フューチャーPart1』や『スタンド・バイ・ミー』には1950年代の米国人の生活様式が垣間見れる

驚くべきことに買い物によるローンの金利部分は住宅以外でも所得控除されるほど、社会的に買い物をする事が奨励された時代でした。
ダイナースによる世界初の多目的ローンは買い物のたびに申込・審査をしていた信販、ショッピングローンの手間や確定申告を一気に簡略化し、現金を持ち歩かなくても銀行残高から決済(デビット)ができ、小切手に代わる新たな手段(手数料ビジネス)として様々な銀行とカード会社が誕生・提携を行いました。

同年、米国最大級の資産を持つバンク・オブ・アメリカもクレカの発行を始めます。会員数が勝機と見た同行は郵送で一方的に無審査でカードをばら撒き、会員数の普及を後押ししました。後にこれは未払いや貸し倒れが増え禁止されるようになりますが、会員数の爆発的増加に寄与。その後の郵送によるカード発行の原型となり、現在のVISAブランドへと発展していきます。

また1850年に設立され宅配業・郵便業を行っていたアメリカン・エクスプレス(通称アメックス) はこの時代、多角経営で金融事業(郵便為替***やトラベラーズチェックの発行)、ホテル事業も行っており、旅行客の囲い込みとしてコンシェルジュサービスやチケット予約などを組み合わせたサービスを盛り込み、クレカ業界へ1958年に参入しました。

西部開拓時代に宅配業や郵便事業を祖業として始まったアメリカンエクスプレス。馬車で荷物を運んだ当時の写真。

1966年に世界で初めて上客向けのゴールドカード、1984年に更にプラチナカードの導入を行ったのもアメックスだったと言われています。

* * *郵便為替とは現在の日本におけるゆうちょ銀行などの送金・振替の仕組みの原形で、アメックスが世界で最初の郵便為替業務を行ったとされています。

アメックスとVISAが二大巨塔だった事に危機感を覚えた他の銀行とカード会社は1966年にインターバンク・カード・アソシエーションという連盟を作り、そこで発行されるカードをマスターチャージカード、現在のマスターカード(主に欧州で普及、1980年代までは世界一のカードブランド)へと繋がっていきます。 

日本におけるクレジットカードの普及

1950年代にアメリカで生まれた"クレジットカード"という概念が、
日本で登場したのはダイナースの「最初の晩餐」から10年後の1960年。
首都圏や地方の駅前などを中心に店舗を構える株式会社丸井(マルイ)が最初と言われています。

買い物の決済方法を駐車券のような会員証を発行し後払い・割賦(かっぷ・分割)払いを可能にし、集金員が自宅へ毎月の支払いを回収したり、窓口で毎月支払うという仕組みだったと言います。
※当時はまだ口座振替も十分に浸透していない時代。現在も百貨店などにこれらの窓口があるのはその名残でもあります。

割賦払いが出来ることは上客のステータスとして若者を中心にマルイの”赤いカード”は浸透し、やがて他の百貨店も同様の会員証を発行するようになりました。しかし支払いの遅延や滞りが発生するとヤクザまがいの取立てが横行。法整備(割賦販売法)がされたのは1961年。その後、時代の変化を踏まえながら約40回ほどの改正を重ねています。

欧米と日本で異なるクレジットカードのビジネスモデル

一見するとクレカは日米で同じビジネスモデルに思えますが、実は大きく異なります。

欧米では手数料は買った人が負担するのが基本ですが、日本では店舗が負担します。
手数料率は1.6～8%、クレカでの年間取引量が多いほど手数料率は安く、少ないほど高い仕組みです。
またこの他にも店舗側は決済用の専用端末などの維持費がかかります。
海外では分割払という考え方が当初は殆どなく、分割はカード会社が予め設定のリボ払いを選ぶという状態でした。(任意で分割払に変更できる) 少し前のデータですが、2001年の支払い方法調査によるとアメリカ人のクレカ決済の76%がリボ払い、一括払は4%でした。

また米国カード会社の収益構造は買い物をした人が支払う利息収入が68%、加盟店手数料15%、遅延利息8%でした。

他方、日本のカード会社はショッピング利息11%、加盟店手数料29%、キャッシング利息50%でした。米国で主流の支払方法「リボ払い」は正式名称をリボルディング(revolving*)方式返済法。利用額ではなく、月々の支払額を固定する代わりに高い利息が未返済の借入額に課せられます。毎月払っても払っても雪だるま式に利息が積もり、⾧い期間支払うことになるこの方式を日本では「クレカで分割払いにすると利息を取られる」と混同していた人が多かったのが1990年代までです。

*拳銃の弾薬の入った回転部分をリボルバーと呼ぶのと同じく、半永久的に返済を回転させる返済方法から名づけられている。
他方、日本では丸井が割賦払いを基本として普及させました。割賦払いとは返済回数で割って返済額を確定させる方法です。携帯電話の機種代などでも使われていますね。日本では分割3回以上は利息が取られますが、2回までの分割に金利が取られないのは店舗が手数料を負担しているためです。

貸金ビジネスによるブランドマーケティング