負けに不思議の負けなし~カマラ・ハリスはなぜ大敗を喫したのか(side:Blue)
2024年アメリカ大統領選挙の結果が出て、共和党候補のドナルド・トランプ元大統領が史上二人目の復活で2期を務めることになる大統領となりました。
選挙の勝敗は兎も角…接戦だ、接戦だとメディアがはやし立てていたので週末や週明けくらいまでかかるかと多くの人達が思っていたようですが、すんなり勝利宣言と敗北宣言が出ましたね。
元プロ野球選手で監督も務めた故野村克也氏は、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と語りました。
今回は「負けに不思議の負けなし」をテーマに、民主党ハリス候補の敗因を言いたい放題書き連ねながら、この選挙における本当の争点は何だったのかを考えたいと思います。
(次回、トランプ再選について書く予定)
今回の米国大統領選挙における民主党ハリス候補の大敗は、事前の報道と比べて、終わってみれば必然だったと多くの人が思っているのではないでしょうか。
問題はそれが選挙戦中にTVなどのオールドメディアの情報に埋もれ、非常に見えにくいという事です。
そもそも日本人には米国大統領選挙に投票権がありません。
また私は別に民主党支持でもなければ、共和党支持でもないんですが、もし仮にトランプ氏がまた僅差で敗戦した場合に暴動と分断…
最悪の最悪は映画『Civil War』のような分裂が起こることを懸念していたので、まぁこの結果であればそうした心配は今の所なさそうで良かったなと素直に思っています。
そうした意味でも個人的には、2016・2020年に民主党大統領候補として競ったバーニー・サンダース議員(83歳)の分析は鋭く、もしこの人が擁立されていればと思わなくもありません。
もっとも現在の民主党はエセリベラルなので、ガチの左派(民主社会主義)であるサンダース氏が擁立される事は自分たちで自分たちをエセ(偽)だと認めることになるため年齢を除いても殆ど芽はなかったのですが。
ガチの左派支持者であれば、彼を選べないのは100年の損失だったでしょう。
ハリス氏大敗の必然
日本のオールドメディア(TV・新聞等)では投票日どころか開票中までも接戦と報じられてましたが、終わってみれば大差で圧勝したことになります。
さて、まず選挙結果を振り返ってよく見るのは、以下のようなアメリカの地図を赤と青で獲得した州ごとに塗りつぶした開票状況です。
獲得選挙人数で観るとメーン州・ネブラスカ州を除けば、米国大統領選挙の特徴の一つである「勝者総取り」となるため以下のようになります。
NYタイムズ紙による選挙動向の特設ページには右向き(赤=共和党)か左向き(青=民主党)の矢印で、2020年大統領選挙と比べてそれぞれの選挙区での変化を示すインフォグラフィックスも。
また日本のオールドメディアが殆ど報じませんが、州の中の更に細かい選挙区(群)ごとの勝敗はご覧の通り。
全米地図や獲得選挙人数の印象以上に、トランプ氏を支持する「赤い波」が起きたことがわかります。
絶対に負けられない激戦州Pa
7つの激戦州の内、トランプ氏が絶対に勝たないといけない州がジョージア、ノースカロライナ、ペンシルベニア。
他方、ハリス氏が絶対に勝たないといけない州がウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア。
両方ともに絶対に落としてはいけない州として重複するのがペンシルベニア州で、激戦州中の激戦州でした。
そしてここは2024年7月13日にドナルド・トランプ銃撃事件が起きた地でもあり、米国史上最大の内戦である南北戦争最大の激戦地であり、奴隷解放宣言を打ち出した共和党の結党とリンカーン大統領による「人民の、人民による、人民のための政治」で知られるゲティスバーグ演説*が行われた地でもあります。
互いに絶対に負けられないペンシルベニア州の現職知事はジョシュ・シャピロ氏。民主党の副大統領候補として最後までリストに挙がっていた人物でした。
シャピロ氏は保守派のユダヤ教徒で、2023年12月に州最大の都市フィラデルフィアでイスラエル料理店の前で親パレスチナ派による抗議活動が起こった際に、デモ参加者を「露骨な反ユダヤ主義者」と非難。
全米各地でイスラエルの中東への攻撃に対しての抗議デモが拡大する火付け役となってしまいました。
これにより背景的にも立場的にもイスラエル寄りの人物としての印象が付いており、その後のイスラエルによる中東諸国への報復攻撃等による米国内の厭戦ムードの中で副大統領に擁立することが適切か非常に難しいポジションとなり、最終的に当たり障りが少なく、民主党のリベラルを体現するであろうウォルツ候補(ミネソタ州知事・福音ルター派*)が擁立されることになりました。
10月5日、トランプ氏は銃撃されたペンシルベニア州バトラーのあの会場に再び立ち、支援者となったイーロン・マスク氏を紹介し二人で壇上で聴衆に向け演説。
同19日には、同氏が立ち上げたアメリカPACを介して、「言論の自由」と「銃所持の権利」を求める嘆願書に署名した激戦州の有権者登録者から1日1人100万㌦をプレゼントするキャンペーンを発表。
バラエティ番組の賞金のように大きな小切手を使って、当選者に直接渡すなど無党派や有権者登録をしていない人の掘り起こしに必死でした。
アメリカ司法省はこれを選挙違反の可能性がある違法宝くじであると警告し、大統領選挙が終わるまで当選者の発表会を控えるなどの駆け引きも行われました。
こうした選挙活動が良かったのかどうかの感想は人によると思いますが、PACという仕組みは候補者から独立していることが条件であり、誰に投票をするかを強要しているわけでも、また秘密選挙のためきちんとトランプ候補に投じたかを確認することもできません。
また司法長官は民主党政権(バイデン)から指名を受けた人が行っているものであり、この警告がむしろ選挙妨害に当たる可能性さえあるという毒を以て毒を制すような状況。
こうした活動が功を奏したのでしょうか?ペンシルベニア州はトランプ氏50.6%、ハリス氏48.5%で競り勝ち、大統領選挙の勝利を確実なものにしました。
オールドメディアの劣化
メディアに対する個人的な印象として、2016年のヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの大統領選挙から、これらオールドメディアは全く成長していなかった、むしろ更に劣化していると感じました。
2016年の大統領選挙で敗戦をしたヒラリー氏の場合、トランプ氏よりも得票総数では上回っていたものの、勝者総取りによる「選挙人獲得数」で惜敗しました。
しかし、今回のハリス氏の場合は得票総数でも負けています。
つまり完膚なきまでに負けたことになります。
加えてバイデン氏が勝利した2020年の大統領選挙と比べると、トランプ氏は200万票以上の積み増しをしていますが、ハリス氏はバイデン(2020)よりも獲得票数を相当数落としています。
そしてこの大敗の結果を受け、民主党寄りのコメンテーターたちが敗因*と向き合えていない痛々しいコメントを口走り、もはや失笑を通り越して、民主党の劣化がここまで進んでいたことを教えてくれている所まで露呈しました。
(彼らのフォローをするならば、こんなに早く結果が出ると思っておらず集計途中の経過を面白おかしく報じる予定でキャスティングだったと思われる)
端的に言ってしまえば負けの要因は無数にありますが、その一つはハリス陣営の選挙戦は「反トランプ」票を取れば勝てると踏んで臨んだという戦略ミスだったとも言えるでしょう。
ニューメディアと不正監視
今回の大統領選挙の開票中に起きたことは、𝕏(旧Twitter)などSNSに代表されるニューメディアの方が、実際の選挙結果に近い結果を報じ、日本に限らずアメリカでもオールドメディアはかなりバイアスのかかった、自分たちに都合の良い解釈と情報を垂れ流していることでした。
𝕏はトランプ候補(共和党)を支持するイーロン・マスクが運営する会社のサービスなのだから、共和党寄りの報道がされるのは当然だというのではなく、イーロン・マスク氏によって買収され、リベラルに大きく偏っていた発信や拡散に対して規制や改革を行った大きな成果と私は考えます。
また前回のバイデンジャンプ*などのような事態が本当に不正によって起こったのかは現段階では分かりかねますが、トランプ氏による呼びかけで投票や開票・発表後にきちんとそれが行われたのかを監視する人数を全米で10万人規模で取り組んだ事が牽制または抑止をもたらしたのかもしれません。
その一方で生成AIによる動画が容易に作成できるようになり、フェイクニュースも混在する昨今ですが、この監視をかいくぐるデジタル投票では、投票所のタッチパネルによる誘導と思われる現象なども拡散され、真偽不明ですがもし事実だとすれば大きな問題となりかねません。
加えて、郵便投票に対する放火が数件発生したり、認知症の高齢者などの投票において誘導をして投票を指せる行為などの懸念も払拭できておらず、課題も少なくないようです。
また同時に行われた連邦議会選挙(上下院)。2年前の中間選挙では、2020年の大統領選挙での敗戦を共和党は引きずって議席を落としていましたが、今回は現民主党政権への不満が爆発。
この2年間で急速に進んだ物価高。それを抑えるための金利引き上げなどによって多くの人々の生活が圧迫されてきたこと等がその理由として指摘されています。
結果、こちらも上下院でも共和党が過半数を確保する見通し。
いわゆる大統領・上下院による「トリプル・レッド」状態となりそうです。
共和党の法案が通りやすい状態ですので、2期目のトランプ大統領は就任直後からかなりアグレッシブに様々な事に着手すると思われます。
労働者のための民主党の歩み
また決定的な敗因は、民主党が労働者を軽視してきた積み重ねのツケがやって来たことだと私は考えています。
米国民主党はアメリカ独立宣言起草者の一人トーマス・ジェファーソンらによって立ち上げられた民主共和党を起源とする、現存する世界最古の政党です。
規制緩和や権利を勝ち取る、リベラルなイメージが持たれることが多い近年の民主党ですが、結党当初は保守的な政党でした。
しかし南北戦争において結党された共和党でリンカーン大統領が誕生し、北軍を率いて「奴隷解放宣言」など革新的な政策が掲げられると民主党は退潮。
その後、民主党の党勢が盛り返したのは1929年の世界恐慌時で、共和党が伝統的な自由主義に基づく財政政策*を主張したのに対して、民主党(ルーズベルト大統領)はテネシー川流域開発公社(TVA)に代表されるニューディール政策(ケインズ政策)を掲げて需要を生み出し、失業率を下げる積極的な介入で労働者の支持を集めて現在に至ります。
その後、民主党は政府が大きな権力を持ち、労働者や労働組合が支持する自由主義な政党。
対して共和党は経営者(金持ち)などの支持を集めて、規制緩和など市場の自由競争に任せる保守主義を掲げる政党でした。
しかし2024年大統領選挙では、これまで民主党を支えて来た激戦州などの工場労働者が多い地域の大部分を民主党は落としています。
特に注目してほしいのが五大湖周辺のペンシルベニア州やミシガン州、ウィスコンシン州の動向でした。
この一帯は五大湖の豊富な水源と河川による運搬を利用してUSスチール(Pa)、ボーイング(Pa*)やゼネラル・モーターズ(Mi)、フォード(Mi)、クライスラー(Mi)などの米国製造業の一大拠点ともなりかつて栄えた地域ですが、今日では「さび付いた地帯」と呼ばれています。
1959年にハワイが50番目の州として加わって以降の大統領選挙を観ても…
ペンシルベニア、ミシガン州を民主党が抑えています。
選挙人数は各州ごとの配分(上院2議席分)と、人口比例(下院議席数)*で割り振られます。これらの州の1960年当初は選挙人数がペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン州はそれぞれ32人と20人、12人でしたが…。
ペンシルベニア32→20
ミシガン20→16
ウィスコンシン12→10
これらの地域は人口減によって選挙人数も減らしています。
アメリカ国内全体では人口が増えているにも関わらず、これらの地域から若い人々は大学進学などをきっかけに大都市へ移動をしました。
そして地元では仕事がないため、多くはそのまま都市部で就職をして、都市部で家庭を築き故郷には帰ってきませんでした。
そして1990年代に入ってから西海岸と東海岸で青い州が固定化されてきた変化が分かります。
この頃、日本に経済で追いつかれそうになった米国は、1985年9月22日のプラザ合意*(円高ドル安)、1986年の日米半導体協定、1989-1990年の日米構造協議などによって半導体産業を始め日本経済への圧力を強めた時代であり、MicrosoftやIntelなど米国の大手IT企業が独占的地位を確立した時代とも重なります。
また金融と政治が一層強く結びついた時代も、この1990年代と言えるかもしれません。
クレジットカードのVISA、MasterCard、Amex、Dinners…
銀行のバンクオブアメリカ、JPモルガン、CITI…
証券・投資銀行のモルガン・スタンレー、ゴールドマンサックス…
金融とITもまた結びつき、2000年前後にはドットコムバブル(ITバブル)を生み出しました。
またその後は不動産ローンの証券化によって肥大化。モラルが崩壊し、サブプライムローンショックやリーマンショックをもたらしたのもこの時代に重なります。
ここに911同時多発テロやアフガニスタン侵攻、イラク戦争などのテロとの戦いと米国経済の疲弊も重なります。
そして民主党はこの時代の前後から伝統的な労働者・労働組合の支持の取り込みから西海岸・東海岸に拠点を設ける巨大企業を中心としたロビー活動と結びつき、労働者・労働組合を置き去りにし始めます。
民主党は労働者・労働組合の味方…という長い伝統は多くの献金をしてくれ、政権として通商交渉など諸外国との交渉材料にもなる巨大企業の言い分ばかりを聴くようになり、労働者を表向きは支援しつつも実態はほったらかし。
そして特定の企業に限らず、経営者(CEO)は従業員の何十年、何百年分の年収をたった1年で受け取るようになっていきました。
一般的に従業員の平均給与と役員報酬を年収ベースで比較した際、20倍を超えると不満が高まるとされています。
こうした格差を長年ほったらかしにして、見て見ぬふりをしてきた不満からも民主党は遂に労働者・労働組合から見限られたと言えそうです。
データか人柄か
党派を除いて、候補者としての比較ではどうだったのでしょうか?
ハリス氏が「私は学生時代にマクドナルドでアルバイトをしていた事がある*」と庶民っぽさをアピールすれば、トランプ氏はマクドナルドでアルバイトをして見せます。
またバイデン大統領が「私が目にする唯一のゴミはトランプ支持者」と発言すれば、すかさずゴミ収集車で応戦。
言葉にするのはカンタンですが、実際に一般の労働者と同じ目線に立って働くことができるというのはなかなかできる事ではありません。
(たとえそれがパフォーマンスだったとしても)
ましてやトランプ氏は現在78歳。激戦州だけでなく全米各地の集会を飛び回って選挙集会で演説をしながらの大統領選挙を2016年、2020年に引き続き行っている訳でバイタリティーの高さも見せつけてくれています。
また大統領選挙をエンターテイメント化している…という向きもありますが、多くの人に興味関心を持ってもらうことで投票率を高めれば高めるほど、民意を取り込めるのですから民主・共和党の両陣営ともその点では共通しています。そしてそれにうまく乗っかった、たとえ汚れ役でもこなしたトランプ氏が何枚も上手だったと言えるでしょう。
勝つためなら何でもする…そうした成功哲学を構築し、数々のやらかし、不倫やセクハラから事業失敗を経て成功して来たドナルド・トランプは、決して綺麗なイメージの人物ではありません。
トランプ氏のバラエティ番組での決め台詞は、
"You're Fired.*"。
また本人は創作だと否定的に言っていますが、バラエティ番組と同名の映画『THE APPRENTICE』ではその哲学が構築されていく過程が描かれた映画がアメリカでは大統領選1ヶ月前から公開開始。
(日本では2025年1月中旬公開予定)
またトランプ氏の応援演説には元プロレスラーで悪役も務めたハルク・ホーガンなど猛々しい印象の人が駆けつけるなど自身のイメージを拡張する事にも抜け目がありませんでした。
トランプ氏は清廉潔白とは程遠い人物だと誰もが知っているからこそ、多少(?)の失言や過激な発言は毒舌キャラとして織り込み済み。
むしろトランプ節として、愛されキャラを確立しているまであります。
他方、ハリス氏はバイデン大統領続投に年齢と認知症疑いなどの健康不安があったから、民主党は若いハリス副大統領(60歳)に引き継いだとはいえ、トランプ氏ほどの泥臭さを彼女が見せることは選挙戦中ありませんでした。
(現職の副大統領なので業務も並行しながらの選挙戦ということもある)
それがエリートでスマートな選挙戦なのかもしれませんが、多くの労働者たちからすればそれが鼻持ちならないのです。
政策面でも現職の副大統領ですから、何か問題があるとすれば何故取り組んでいないとトランプ氏に追求されてしまいます。
また自分自身を副大統領に指名したバイデン大統領はいわば上司であり、「バイデンと違う」と言いつつも、具体的に政策面などでどう違うのかを語れませんでした。
選挙戦終盤となる10月4日のミシガン州での選挙集会では、ハリス氏の原稿を表示するプロンプターが故障。
プロンプターがあれば目線を原稿に落とさずに顔を上げたままスピーチができますので、自然なスピーチができます。
しかし不具合によって、「選挙まであと32日」をオウムのように繰り返すだけとなったりなど、自分の言葉で話していない(話せない)ことが露呈したことはそうした彼女の臨機応変に対応できない弱さの象徴的なシーンと言えそうです。
こうした一つ一つが、使う言葉はたとえ綺麗なものではなくても、自分の言葉で話して伝えようとする、語り掛けるトランプ氏との器の違いを明確にしたことは政策面などとは別に、誰に投票しようかという人間味の厚さの部分でも差が付いたのかもしれません。
トランプ氏は嫌いな人は徹底して嫌い、「反トランプ」などと言われますが、好きな人は「トランプファン」や「トランプ信者」などと呼ばれ、好かれるを通り越して愛されています。
しかし「民主党信者」はいたとしても、「ハリス信者」というのは全く聞こえてきません。
この差は「反トランプ」票さえ獲得すれば勝てるという選挙戦を、もし民主党の選挙対策チームが本当に踏んでいたとすれば愚かとしか言いようがありません。
数字やデータや傾向を分析して、有権者を見ていない選挙戦を徹底して行ったのでしょうか。
相手を批判することで得られる票があるとすれば、それは同時に「反体制」「反民主党」「反バイデン」という考えの人の票を失う事でもあるのですから。
トランプ氏はチャレンジャー側ですから、こういう点は容赦なく攻め取り込もうとしてきます。
有権者は何を重視しした?
有権者が重視したとされる公約面はどんなところだったのか、CBS*が報じた出口調査では以下の5つの争点で出口調査が行われました。
①経済(51%)
②移民(20%)
③民主主義の現状(12%)
④人工妊娠中絶
(民主党:中絶は権利
/共和党:中絶禁止)
⑤外交
ハリス氏に投票した人は民主主義56%、人工中絶21%、③経済13%を重視しており、経済面(景気・物価・賃金)での不満・不安が少ない人ほどハリス氏を支持したことになります。
他方でトランプ氏に投票した人の過半数を占める無党派層は経済面での現政権への不満・不安・改善を求め投じたと分析されています。
客観的には先行きは兎も角、足元のアメリカの経済は強く、失業率は平均5%くらいのところを3~4%台で推移していて、歴史的に見ても低い水準。
物価高も利上げによって落ち着きを取り戻しつつあり、景気も堅調。
けれどトランプ政権時代の方が物価高もなく、暮らしやすかったという懐古的な印象を想起させられ、現政権陣営となるハリス氏にとっては不利な風向きが作られたとも。
逆差別
加えてハリス氏の掲げる政策は基本的にバイデン政権の継承であり、多くの有権者に伝わっていたハリス勝利で明確に実現するのはリベラルと米国初の女性大統領、アジア系の大統領であることくらいでした。
大統領とは初の女性だから、アジア系だから、ゲタを履かせられてなるものでしょうか?
多くのアメリカ国民から支持される人物だから大統領になるのではないでしょうか?
現状維持か、変える事を望むか…民意を投じる、大統領選挙とはそういうものです。
かつてと異なりアジア系も2倍に増えていますが、黒人計は2倍、ヒスパニック系*はアジア系の3倍近い人口を有しています。
多様な人種が入り乱れるアメリカにおいて…この人種という言葉そのものがもはや「差別的」と言われかねない昨今において、彼女の大統領候補としてのアイデンティティは多くの有権者に支持されなかったのです。
人種だけでなく、性自認の多様性LGBTQなども民主党が掲げてきた自由主義の象徴の一つでした。
自認は本人の受け止め方ですから容認するにしても、それがたとえば肉体は男性、心は女性というアスリートが女性の大会に出場して記録を塗り替えた…これを多くの肉体と心が一致している男性、女性はどう思うでしょうか?
アメリカは民主主義(共和主義・共和制)と自由主義が絶妙なバランス感覚で成り立ってきました。
しかし自由であること…言論(思想)の自由、信仰の自由、財産の自由、職業選択の自由などの自由と平等は必ずしもイコールではありません。
ある人にとっての自由は、ある人にとっての不自由でもある訳です。
リベラルが掲げてきた理想は素晴らしいのかもしれません。しかしそれが実社会において、自分たちの生活や人生に浸食をして来るとなれば抵抗したくなるのは当たり前ではないでしょうか。
マイノリティだから迫害や弾圧を受ける事が間違いであったとしても、マイノリティであることを理由に既に確立している社会にそれをあまりにズケズケと入り込んでくることは恐怖ではないでしょうか。
まるでいじめられている子が、教師を味方を持った途端にそれを振り回していじめる側に変貌しているようでもあります。こうした現象を「逆差別*」と呼びます。
こうした所にトランプ候補の雄々しさも対称的に映った可能性があります。
7月13日の銃撃事件直後のこの一枚が、「強いアメリカ」を多くの有権者に意識させました。
女性だから大統領になれない…ハリス候補は、いわゆるヒラリー・クリントンが語ったような「ガラスの天井」で阻まれた訳ではありません。
バイデンがロシアのウクライナ侵攻やイスラエルを含む中東戦争で弱腰を見せてしまった今の状況。
またインフレによる生活が圧迫され続けたそれを継承することを基本路線とするハリス氏は、トランプ氏の掲げる戦争停止やわかりやすい言葉などと比べ、あまりにも明確ではなく、きれいごとばかりで、多くの有権者にとっては不明瞭で、そして負のイメージが多すぎたのです。
これはトランプ候補をもはや単にポピュリスト(大衆迎合主義者)とわかりやすく揶揄するのは適切ではなく、トランプ候補はアメリカの多くの有権者の代弁者となったと呼ぶ方が適切かもしれません。
そうでないならアメリカはポピュリズムを選んだことになってしまい、アメリカ建国の理念である自由が失われてしまうからです。
掲げた高い理想の反動
脱炭素、地球温暖化対策、クリーンエネルギー…国連が掲げるSDGsなどもその一つでしょう。これらが全くダメだという話ではありません。
しかし物価高で電気代・ガス代の高騰に生活が圧迫されているのに、地球環境に良い事だからと石油などの化石燃料を使った発電を削減し、コストの高くて発電効率が高くない太陽光発電を行う事。
電気自動車(EV)の普及を後押しする事…中長期的には必要かもしれませんが、それは見切り発車ではないのでしょうか?
どうして徐々にではなく、こんなにも急進的に普及させようとするのでしょうか?
あまりにも高すぎる理想は、高慢で傲慢…そんなリベラリストたちに多くの人は既に疲れ果てているのです。
まさにサミュエル・スマイルズの言う『自助論』の通りなのです。
2020年のバイデン勝利時よりも得票総数を減らしたということは、政党として、政策として、候補者としても負けたということです。
まさに負けに不思議の負けなしです。
敗北宣言
投票日の夜、トランプ氏が優勢となる中で、ハリス氏の勝利宣言を待ち望んでいた母校ハワード大学(ワシントンD.C.)に設けられた特設会場にハリス氏は現れず解散。
学生や支持者たちが去った会場には、大量のゴミが投げ捨てられていました。
そうして散らばったゴミを、翌朝に黒人の清掃員が片付ける姿がAP通信を通して報じられます。
翌日11月6日、同校でハリス氏による敗北宣言が行われました。
これまでの選挙期間中のどんな演説よりも、彼女自身の言葉で語られた言葉が、多くの有権者に響いたことは皮肉というより他ありません。
さて、次回はトランプ再選ということで132年ぶりの復活した二期目の大統領として、イーロン・マスク氏や勝利宣言の中で掲げられた「アメリカの黄金時代」について考えてみたいと思います。
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