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中小企業向け補助金の注意点:本当の闘いは採択後…!?

 2025年2月現在でも、国から中小企業向けに様々な補助金が用意されており、代表的な補助金が中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」で紹介されています。これらの補助金はそれぞれ新規事業のためだったり、業務プロセスの省力化だったり、ITツールによる効率化のためだったり、M&Aのためだったりと目的が定められており、各事業者が自分のやりたいことに合った補助金を選べるようになっています。

 ただし、補助金を利用する際には様々な注意点があります。本稿では補助金を利用しようと思われる事業者の方々が、後々「こんなはずじゃなかった!」とならないように、主要な注意点を説明したいと思います。

 なお、本稿は補助金の注意点のイメージをお伝えすることを目的としておりますので、情報の正確性に関しては十分でない可能性がございます。詳しい要件や具体的な手続きについては各補助金の公募要領をご確認ください。


1. 補助金の目的は国の政策を促進すること

 補助金は中小企業を支援するためのものではありますが、その第一の目的は国の政策を促進することです。昨今、国は中小企業が積極的な設備投資を行うことにより新規事業の創出や生産性の向上、デジタル・トランスフォーメーションを進めることを重要視しています。また、国はM&Aなどによって中小企業が統合され、経営効率が向上することも重要だと考えています。

 しかし、中小企業は全国に300万社以上ありますから、国が中小企業を個別に指導することは不可能です。そこで国は中小企業を国が求める方向へ誘導するために、補助金という人参をぶらさげるわけです。したがって、補助金に応募しようという事業者は、まず以下の2点を考える必要があるでしょう。

  • 国がその補助金をどのような意図で作っているのか。

  • 自分がやろうとしていることはその意図に沿っているのか。

 もちろん、制度の目的や事業計画の評価ポイントは補助金の種類によってそれぞれ異なりますが、応募する側が上に挙げた2点を明確に分かっていないと、どんなに労力をかけて事業計画を作り申請書を作っても審査に合格する可能性は低いと言えます

2. 補助金で補填されるのは投資額の一部

 補助金には「補助対象経費」と「補助率」「限度額」が存在します。「補助対象経費」は補助金で補填される対象となる経費のことを言い、基本的には設備投資に要する費用が該当しますが、中には事業の起ち上げに必要な初期費用(販促活動費など)が含まれる場合もあります。

 そして、補助金の対象となる事業(補助事業)に使われたかどうかが判別しにくい経費、つまり人件費や汎用的な備品(パソコンやデスクなど)などは補助対象経費に含まれないことが多いです。投資に当たらない費用(商品代など)も補助対象経費には含まれません。

 どのような費用が補助対象経費に含まれるかは補助金ごとの公募要領に記載されていますが、最終的には事務局が見積書や納品書を見たり申請者にヒアリングを行ったりして判断しますので、申請した分だけ補助金が貰えるとは限りません。むしろ、事務局による審査の結果、当初申請した額よりも一部減額されることが多い印象です。

 また、補助金の「補助率」と「限度額」についても正しい理解が必要です。以前、5,000万円の設備投資に対して5,000万円の補助金が出ると思っていた方がいらっしゃいましたが、そんなことはありません。

補助率1/2の補助金額算定イメージ

 「補助率」とは補助対象経費の額に対して補助金で補填される割合を言います。補助率は補助金ごとに、また補助金の中でも応募類型ごとに異なりますが、だいたい、1/3~3/4の間であることが多いです。上は補助率1/2の場合に、補助対象経費の額が消費税込み5,000万円だったとして、補助金の額がいくらになるかというイメージ図です。

 注意すべきは、補助対象経費に含まれる消費税額は基本的に補助金の対象から除外されること、つまり補助金の額は税抜ベースで計算されることです。これは、課税事業者は消費税の確定申告をするときに支払った消費税の額を控除して納税することができますから(仕入税額控除)、控除される消費税の額の一部を補助金の対象としてしまうと、実際の補助率が規定よりも大きくなってしまうからです。したがって上の例で言えば、税込5,000万円の補助対象経費に対する補助金の額は2,500万円ではなく、5,000万円×10/11×1/2=2,272万7,272円になります。

 「限度額」とは補助金で補填される額の限度を言います。限度額は企業の規模(従業員数で測られることが多い)によって設定され、規模が大きいほど限度額も大きくなる傾向があります。

補助率1/2、限度額2,000万円の補助金額算定イメージ

 上は先に案内した例に限度額2,000万円を設定したイメージ図です。先の例では補助金額は2,272.7万円でしたが、限度額の設定により2,000万円を超える部分が切り捨てられますので、この場合の補助金額は2,000万円となります。限度額はイメージしやすいと思います。むしろ、限度額を決定する要素である「従業員数」をどの時点で測るかについて悩むケースが多い印象です。これは申請時点が正しいと言われていますが、不安なときは事務局に直接問い合わせることが安全でしょう。

3. 補助金が給付されるまでの手続きが多い&時間が長い

事業再構築補助金の手続きスケジュール

 この章では事業再構築補助金の手続のイメージについて、以下に順を追って説明します。他の補助金の手続きも基本的にはこの流れと同様です。

応募申請

 補助金の申請書を作成し、事務局に送る手続です。近年はオンライン申請が主になりました。書類を揃えて郵送する手間はなくなりましたが、事前に申請用のIDを取得する必要がありますので、段取りをしっかり確認しなければならないことには変わりはありません。

採択発表

 国が補助金を給付する候補として選出された事業者がWEB上で公表されます。しかし原則、まだ申請した設備投資を開始してはいけません。

交付申請

 申請した設備投資について見積依頼書を作り、見積書を外部業者から集め、総事業費の金額を積算した申請書を作って事務局に送ります。基本的に2社以上に見積りを依頼し、安いほうを選定したことを示す必要があります。このお役所的手続きに慣れていない事業者の方々は少なくありません。随意契約は基本ナシです(アベノマスクは例外)。そして交付申請を済ませても、まだ設備投資を開始してはいけません。

 交付申請後、事務局が交付申請や見積依頼書、見積書の内容を審査します。申請者は事務局から質問を受けることもあります。見積書に「諸経費」など用途が曖昧な経費の項目があれば差し戻しとなり、再度見積書を集めて提出することになります。書面の形式を整える地味な作業が続き、見積を依頼する相手の発注先にも気を遣いますので、骨の折れるやり取りになります。

 なお、事務局は通常、国から委託された民間団体が務めています。そして電話やメールで応対する事務局の担当者は基本的に補助金の専門家ではないので、マニュアル対応が基本です。担当者の意図と理解度、許容範囲を読み取り、スムーズに手続きを進めていく事務の手腕が問われます(カスハラダメ絶対)。事務が苦手な方は行政書士その他の専門家にアドバイスをもらうなどして手続きを手伝っていただいたほうが良いかと思います。ただし、申請自体は申請者本人が行う必要があります!代理申請ダメ絶対。

交付決定通知受領、補助事業実施

 交付申請の審査が終われば、事務局からメールなどで交付決定通知が届きます。交付申請~交付決定通知にかかる時間は申請する項目が少なければ2~3か月、多ければ半年というケースもありますが、事務局とのラリーが少なければ短くなることは確かです。交付決定通知を受領して初めて、申請した設備投資に着手する(補助事業実施)ことができます

 ここでやっておく必要があるのは、見積書だけでなく発注書や受注書(または契約書)、納品書、検収書、請求書、支払証憑(振込依頼書やネットバンキングの振込画面プリント)、設備投資物件の写真などなど、補助事業実施の証拠となる資料を集めることです。

 普段の取引では見積書と納品書、請求書しか取り交わしていない、という事業者さまも多いかと思いますが、今回の相手は行政のトップである中央政府です。形式に一点でも曇りがあればこの後の「実績報告」にて容赦なく差し戻しを受けることになります。とにかく先回りをして資料集めに奔走する必要があります。ここでも骨が折れます。

実績報告

 補助金プロジェクトにおける最大の難関です。申請した設備投資に係る最後の支払いを終えたら、先に述べたとおり、補助事業実施の証拠となる資料を集め、総事業費の金額を積算した申請書を作って事務局へ申請します。

 ここで集める資料の数は交付申請の倍以上多くなります。オンライン申請ではフォルダに各資料を整列させて視認性を良くする必要もありますので、パソコンスキルと事務スキルが多分に試されます。発注先にも多くの資料をお願いすることになりますから、交渉力も要求されます。

 また、いったん実績報告を行ったとしても、必ずと言っていいほど事務局とのラリーが発生します。この段階になると事務局からはルールブックに記載がないような修正要望も多く入ってきますが、とにかく無心で即座に打ち返すことが重要です。ラリーをする中で補助対象経費の一部が否認され、補助金額が減らされることもありますが、補助金が出るまではどんな状況でも耐え続ける、ストイックな姿勢が必要になります。

補助額確定通知以降 

 実績報告の審査が終われば、事務局からメールなどで補助額確定通知が届きます。実績報告~補助額確定通知にかかる時間は短くて3~4か月、諸事情があれば1年にわたるケースもあります。とにかくここまで来れば、あとは「精算払請求」をして補助金を入金してほしい銀行口座の資料(通帳コピー)を送ればものの1か月もしないうちに補助金が入金されます。ほっと一安心です。

 その後は1年に1回、5年にわたって補助事業の実施状況報告を事務局に行う必要がありますが、補助事業の損益を分けて会計を整えておけば難しいことはないでしょう。

最後に

 いかがでしたでしょうか。昨今、色々な場面で補助金の活用が推奨されていますが、補助金の種類によっては、実際に補助金を受け取るまでに多大な事務的な労力を要することがあります。

 補助金の入金は設備投資に係る支払が終わってからになりますから、通常の運転資金に加え、設備投資用の資金を調達する必要もあります。補助金を申請する前に事業計画だけでなく資金計画、事務計画もしっかり策定しておくことで、補助金の活用計画をスムーズに運用することができるでしょう。

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