雲雀恭弥夢/男夢主
学校のチャイムが鳴る。これは、おそらく2限の始まりのチャイム。廊下は沈黙が支配しており、潰した上履きからはみ出たかかとはじわじわと冷たさに侵食されている。この中学の制服は特段ダサいわけでもなく、名前の通り並みではあるが、ある程度の防寒は出来ている。
「やあ」
「……おはよお…」
後ろから声をかけてきたのは並盛では知らない人はいないといわれている雲雀恭弥である。
「授業はどうしたの?3年C組は…数学」
「雲雀君、お腹冷やさない?」
「僕の話を聞け」
彼はセーターを着ている日もあるが、今日はワイシャツのみ、そしていつも通り、羽織学ラン。いつも通り背後から気配もなく話しかけてきて、いつも通り、俺の時間割を把握している。そんな彼とは俺が中学に上がったときに出会った。そのときにはもう応接室を我が物としていたし、よくわからんリーゼントも居た。
「あ~…雲雀君が一緒に来てくれるなら俺も行くよ♡」
嘘である。
中学なんて義務教育で、温室で、自由を謳歌できない場所で、椅子に縛り付けられる日常を送れと、この自由しかない男が、俺を強制するのは間違っていると思っている。これは小さな反骨精神である。この町を我が物顔で闊歩する俺と同じクソガキへの。
そんな俺の微妙な顔を彼なりに察知したのか、彼も唇を小さく動かした。
「応接室、こたつ、あるよ。」
「マジ?」
「ほんと。」
彼らしからぬ、少し視線を逸らし、窓の外を見ながらの発言に少々驚きつつ、これは不器用な彼なりのお誘いなのだと察した。意外とかわいいやつ。
「こたつに入りながらさあ、アイス食べるのが良いんだよな」
「バンホーテン」
「雲雀君…俺バンホーテン大好き。何で知ってんの?」
「おや、知らなかったかい?僕は君のことを愛しているのだけれど」
そういいながら、踵を返し、応接室へ向かう雲雀君。
(チョロいけど、俺。)
微妙な距離のふたりに5題