human
「あなた…それでも人間なの?」
これでも人間だ。そして、だからどうした?
「人を騙して、人を責めて、人を傷つけて、人を殺して。人間のやることじゃない。」
人間のやることだよ。いくらでもやってきたことじゃないか。あんたにとっては“人間”というのは、現に生きている人間のことではなく“神”とか“善”とかと同じく思想や概念なんだな。そんな“人間”がいると思うのか?まさか自分がそうだと?
「何を言ってるの…まともじゃない。人の心がないの?」
まともじゃない?当然だ。人間はそもそもまともじゃない。必要な時にだけ仕方なくまともになるだけだ。それに“人の心”ときたか。あんたは人間について深読みしすぎだな。まず見たままを受け入れろよ。ちょっとイラッとしたってだけで誰かを殺したかと思えば、次の日にはそれと同じ手で、損得なく別の誰かを助けたりする、それが人間だろ。
「私はあなたとは違う。あなたは生まれるべきではなかった。」
不幸にも悪が生まれたと?違うな。生まれたのは人間だ。いつでもどこでも、まず生まれるのは人間だ。そして人間が悪を生むんだよ。選別できるわけないだろう。
「…まだ言い残すことはある?」
秩序を守れ。そのために“善”や“悪”ではなく人間をちゃんと見ろ。人間なんて大概は言葉をしゃべる獣でしかないんだよ。それを忘れて“人間”を妄信するようになったら、それこそあんたは人間であることに失敗するだろうな。
「…さようなら。」
─無数の赤い軌跡が走り、大小の肉塊がボタボタと地に積まれた。