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Review:甘い暴力『スウィート・ペイン・ロックンロール』

甘い暴力公式サイト

『スウィート・ペイン・ロックンロール』は、甘い暴力の20枚目のEP。2024年2月に自主通販サイトでフィジカル音源が先行販売され、翌月3月に配信も解禁。今年で活動8年目を迎える彼らは、4~5曲入りのEPを毎年コンスタントにリリースしており、本作で20枚目の大台に到達した。

表題曲「スウィート・ペイン・ロックンロール」は、不穏さと快楽が混ざり合った中毒性の高い一曲だ。再生と同時に漂うやさぐれ感のあるボーカルや、重厚なギターサウンドが際立ち、メンバー全員によるタイトルコールから爆発力のあるサビへと突入する流れには、強い攻撃性が感じられる。そこに〈どうどう〉〈早々〉〈とうとう〉というわかりやすい韻や、〈トラウマ〉〈シミュレーター〉の独特な発音、さらに繰り返される〈トゥ トゥトゥルル〉のコーラスと〈なぜか 甘く〉で歌メロが重なる部分など、聴いていて気持ちいいポイントが細かく散りばめられている。この要素が重なり、暗がりで4人がニヤニヤと待ち構えているような危険な香りが漂う曲となっている。危ないとわかっていながらも引き寄せられ、いけないことをしている気分が癖になる──甘い暴力というバンドそのものの魅力と繋がる一曲である。


2曲目「溺愛シット」は、2016年に会場限定音源として発売された同曲の最新版。オフィシャルサイトの音源リストでは“0th SINGLE”と記載されており、甘い暴力の原点とも言える楽曲だ。2019年にほぼ全曲がサブスク解禁された際にもこの曲は配信されず、今回のEPで初めて解禁された。口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディと、ライブ中のフロアの光景が一瞬で想像できるノリの良いテンポ感が魅力的で、ライブで長年武器として活躍してきた貫禄が感じられる。サビ前の〈殺されそう〉〈愛されたい〉というキラーワードには甘い暴力らしい細やかなこだわりと、この楽曲が“始まりの曲”として持つ特別な意味が込められている。また、コントロールできない感情に苦しむ女性目線の歌詞も、後に続く甘い暴力の作品群の原点を示していると言えるだろう。

3曲目「子どものように」は、本EP全体で最もシリアスな雰囲気を持つバラード。薄暗い部屋に差し込む光を想起させるピアノの音が印象的で、暗さの中にも煌めきや美しさを感じる。スロウで静かな始まりから徐々に盛り上がり、中盤の間奏では畳みかけるような怒涛の展開を挟み、最終的には咲のアカペラ熱唱で燃え尽きるような構成だ。特にクライマックスの〈ひとり 泣いた夜も〉からラストまでは、一文ごとに細かく改行され、歌詞の表現が〈歌にできるような〉から〈歌にできるよな〉へと変化している点からも、感情のほとばしりが感じられる。本当は“君”の前でもこうした感情をさらけ出したかったという切ない心情が浮かび上がる。

4曲目「今、ここで死ねたなら」は、2023年10月にZepp Shinjuku (TOKYO)で開催されたワンマンライブのタイトルを冠した楽曲。2023年11月から「共依存」とともにライブ会場限定で先行販売されていた。これまでの甘い暴力には珍しい疾走感あふれる爽やかなロックチューンで、歌詞にはファンへの手紙と私小説が交差するような熱いメッセージが込められている。タイトルとは裏腹に、未来への決意表明のようにも感じられるが、歌詞がメロディにやや収まりきっていない印象も受ける。しかし、その未完成さが逆に、生きた言葉としての力強さを与えているのかもしれない。ラストの〈お前との夢を描いてしまった俺を 許して欲しい〉という言葉は、恋人や特別な関係性のたった一人に向けたもののように感じられる。この言葉には、直接ではなく音楽やライブを通して一対一のコミュニケーションを取り続けてきた甘い暴力のスタンスがにじみ出ている。EP全体として統一されたコンセプトはないものの、4曲それぞれが表題曲になり得るインパクトがあり、ライブのセットリストにおいても、すでに強力な武器となっている。シーンの中で強い存在感を放っている甘い暴力。本作は、彼らの勢いをさらに加速させた一枚である。

南 明歩:平成1年生まれ、埼玉出身のフリーライター。ライブレポートやプレスリリースなどをまじめに書いています。
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