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vol.573「どうしたらぶれない生き方ができるのか?」(2025年1月24日配信)
イチロー、野球殿堂入り
イチローさんがMLBの野球殿堂入りを果たしましたね。殿堂入りは累計2万人以上の大リーガーの中で2百数十人しかいないそうです。しかもアジア人初。素晴らしいですね。
そんなイチローさんを私はよくセミナーのネタで使わせて頂いています。企業のミッション、ビジョン、バリューズがどうつながっているのかを伝える時です。
MVVとは何か
ミッション、ビジョン、バリューズは一般にその頭文字をとってMVVと言われますが、経営理念に欠かせない3要素です。
ミッションは「何のため、誰のため」に私たちが存在するのかという『目的』です。「企業使命」や「経営理念」と同義です。また、近年は「パーパス」とも言われます。パーパスという言葉が頻繁に使われるようになったのは、従来の経営理念が「お客様のために」の意味合いが強かったのに対し、「社会課題の解決のために自社が存在する」をより強く発信するためだと私は考えています。
次にビジョンは、自分たちが力を合わせて「目指すところ」です。達成したい『目標』のことで、ビジョンはその名の通り、絵で描けることが理想です。
そしてバリューズは、ビジョンの実現に向けて日々取り組む行動のうち、誰もが意識して取り組む『行動』を示したものです。「行動指針」や「スピリッツ」と同義です。
この3つが揃うと「誰の何のために」私たちはこの会社に集まり、「何を目指して」進んでいるか。その実現のために、日々何を心がけて「行動」すればいいのかがわかります。それを、誰もが知っているイチローさんを使って説明するのです。
イチローから学ぶMVV
では、どう伝えるのか。まず、イチローさんから連想されることを思いつく限り付箋に書き出してもらいます。するといくつも出てきます。次にその付箋を分類します。すると概ね以下の3つに分類できます。
【イチローさんの存在感】
スーパースター/日本人の誇り/求道者/世界を代表する日本人/野球少年の夢/安打製造機/孤高の人/理想を実現する人…ほか
【イチローさんの実績】
10年連続200本安打/レーザービーム/MLB年間最多安打記録者/日米で首位打者9度受賞/WBCでの優勝に貢献/オールスターでMVP…ほか
【イチローさんが日々徹底していること】
毎日練習する/誰より早く球場入りする/入念な準備/道具を大事にする/ガッツポーズをしない/ファンを大事にする/日本語で自分の言葉で応答する/自分が応える質問を選ぶ/整理整頓をする/常に冷静/妻を大事にする/奢らない…ほか
MVVの実践例としてのイチロー
これを上記のMVVに照らして考えてみます。
まず、【イチローさんの存在感】は、イチローさんの「野球をする目的」に近いのではないかと思います。実際にイチローさんは現役時代に自分が野球をする目的を公の場で語ったことはありません。ですから私の推察でしかありませんが、イチローさんは「野球道の求道者」や「野球少年の夢」であり続けたいと思って野球をしていたのではないかと思います。つまり、【イチローさんの存在感】に書かれたことが彼のミッションであり、理念だと思います。
次に【イチローさんの実績】が、イチローさんの目指していたビジョンに近いのではないかと思います。この中でイチローさんが公言していたのが「年間200本安打」でした。シンプルに、それだけを目指したことが多くの記録を遺す原動力になったのだと思います。
そして、【イチローさんが徹底していること】がイチローさんのバリューズだと思います。イチローさんも人間ですから気持ちが乗らない日もサボりたい日もあったと思います。が、そんな日でも自分に課した「毎日練習する」「誰より早く球場入りする」「入念な準備をする」ことを怠りませんでした。それは、そうすることが自分が目指した「年間200本安打」を実現するためには欠かせないことだったからでしょう。
日々、自分で決めたバリューズを徹底して行動することが、偉大な記録を生み出し、結果として「野球道を究める」ことにつながるのだと思います。
このように企業に必要な理念体系MVVを説明する時に私はイチローさんに置き換えて伝えています。すると、野球好きな人はもちろん、そうでない人も「頭の中でバラバラに存在していたMVVの関係がよくわかってつながりました」と言ってくれます。イチローさんのシンプルでぶれない生き方が、多くの人の共感を呼び、分かり易さにつながっているのだろうと思います。
利他の心がぶれない生き方を作る
そんなイチローさんですが、実は引退後に自分が野球をやってきた目的=ミッションを公の場で語ったことがあります。それは、22年のシアトルマリナーズの球団殿堂入りの式典で述べたスピーチでした。
彼は、次のように語ったのです。
「私の使命は、選手とファンの両方がこの特別なゲームを楽しみ続けられるよう、その一助になることです」
ここでいう「特別なゲーム」とは、ファンが観に来た試合、という意味です。ファンは毎日野球場に足を運ぶわけではありません。野球場で家族や友達とプロ野球観戦する日は、何日も前からワクワクして眠れなくなるような、特別な日でしょう。その特別な日に「野球観に来てよかった!」「楽しかった!」と思ってもらえる一助になること。それがイチローさんのミッションなのです。
私はこのスピーチの内容を新聞で読んだ時に、驚きました。それまでイチローさんは「自分のため」だけに野球をやっていると思っていました。が、彼の中には「選手(仲間)とファンのため」というファン目線の「利他の心」があったのです。
自分のためならぶれてしまう生き方も、他人のためならぶれずに踏ん張ることができます。「利他の心」こそ、あらゆるMVVの源であり、長く活動し、次世代が受け継ぐ原動力なのです。
さて、あなたとあなたの会社のMVVは何でしょうか?既に制定している人は確認してみましょう。まだの人は、ぶれない生き方をするために是非考えてみてくださいね。
実践に役立つ動画の解説
このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。
ミッションに注目が集まる背景となる、社会の変化とはなんでしょうか?
他人のためのミッションを考える時のポイントはありますか?
繋がりや一貫性をもったミッション・ビジョン・バリューズをつくるポイントはありますか?
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