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vol.564「今の時代の最大の経営リスクは〇〇〇」(2024年11月1日配信)


政治から見える「人の心」というリスク

衆議院選挙で与党が大幅に議席を減らしましたね。巨額裏金事件や非公認となった人たちへの政党交付金2,000万円の支給などが影響したようです。改めて人の心の難しさが分かる出来事でした。人は、触れてはいけないところに触れてしまうと、あっという間に離れて行ってしまうのです。

今の時代、「最大の経営リスクは人の心」だと言われます。とりわけ中小企業にとって、社員の心変わりは大きなリスクです。「こんな会社でやっていられるか!」そう思ったら、どんどん辞めてしまいます。辞められたら最後、なかなか補充ができません。人手不足倒産も覚悟しなければなりません。

逆に、リスクは見方を変えれば強みでもあります。人心がひとつにまとまりONE TEAMになれば、必ずや自分たちが描いたビジョンを実現することができるでしょう。

エコ建築考房に見る理念経営の成功例

例えば、愛知県一宮市にある社員数60人の(株)エコ建築考房さん(以下エコケンさん)のケースをご紹介しましょう。

エコケンさんは、国産の木材のみを使った木造住宅の工務店です。新建材と呼ばれる合板は一切使いません。合板にはシックハウス症候群の元になる接着剤が使われています。それを避けるため、住人から見える所はもちろん、見えない所にも使いません。

それゆえに、エコケンさんのお客様は木の家ならではの良さを存分に味わうことができます。ただし、国産材を丁寧に削って仕上げますから、納期は他社の1.5倍かかります。また、価格もアップします。

一般に、工務店の住宅の単価は2,500万~3,000万円程です。一方、エコケンさんは国産木材や自然素材にこだわった家づくりにも関わらず、大手ハウスメーカーの3,500万円~4,000万円と同価格帯。木の良さにほれ込んだお客様が、エコケンさんを選びます。

それどころか、同社の社員の1/5がエコケンさんのお客様です。客としてエコケンさんと家づくりを考えるうちに健康や安全について真剣に考えるようになり、ぜひ、この家の魅力を多くの人に伝えたい。そう考えて「ここで働きたい」と入社を希望してくるのです。

創業の志を守り抜き、社員の心を離さない

では、エコケンさんはなぜそこまで木の家にこだわるのか。それは創業者の髙間会長の原体験によります。髙間会長は、元はハウスメーカーの営業マンでした。そんな髙間さんにある日、お客様からクレームが届きます。「この家に住んでから、頭が痛い」。シックハウス症候群でした。

髙間さんはそのことを上司に伝えました。が、取り合ってもらえません。ならばいっそのこと自分で理想の工務店を興そうと、コンセプトを社名に込めたエコ建築考房を立ち上げたのです。

同社の職人は髙間会長のその志に共感し、本物の木造住宅をつくりたい人ばかりです。現在の喜多社長は、そんな髙間会長の娘婿。元は化学品メーカーの営業マンで、建築はド素人でした。

そんな喜多社長にできることは、持ち前の営業のセンスで、木の魅力を発信し、お客様との出会いの機会を創ることと、社員、関係者が働きやすい様に、より良い働く環境を作ることでした。そこで、上記のように数量は追わず、高単価で丁寧な家づくり戦略に舵を切ったのです。

この戦略を選択する時、喜多社長は考えました。仮に自分が売上拡大に捉われて棟数を増やす経営をしたらどうだろうか?住民から見える所はともかく、見ない所まで国産材にこだわることはないんじゃないか?そこには新建材を使って、価格を安くし、納期も短くできれば、棟数が増え、売上も増えるのではないか?

が、喜多社長はこの考えの危険性に気づきます。仮に、「見えない所まで国産材にこだわるな」と社長が言い出したら、職人はどうでしょう?髙間会長の志に共感して一緒にやってきて人たちです。「そんなこと、やっていられるか!」と離反するのは必定です。

が、実際はそうはなりませんでした。そのことを喜多社長は「自分がド素人だったから」だと振り返ります。ド素人だから職人さんの力を借りるしかない。職人さんたちが喜んで働いてくれる環境を整えるには上記の高価格路線を選ぶのは必然だったのです。

もし社長の考え方が少しでも「棟数アップ」「売上アップ」にブレて、本来の志を忘れてしまったら、職人は離れて行ってしまいます。逆にそこを徹底的に重視すれば、社員もお客様もちゃんとついてきて、上記のようにお客様が列を作り、共感したお客様が入社を希望する会社になるのです。これが「人の心は最大のリスク」と言われる所以です。

サイゼリアに学ぶ顧客価値の追求

もうひとつ、サイゼリアの例をご紹介します。サイゼリアは安価で美味しいイタリアンレストランですがその魅力のひとつが、お客様が無料で使える調味料です。シチリア岩塩、ブラックペッパーエクストラ・バージン・オリーブオイル、ホットソースの4種あり、どれも無料なのです。

仮に「無料の調味料なんてコストでしかない。もっと安価な塩や胡椒にしろ」とか「シチリア岩塩なんて贅沢だ。有料にしろ」と経営者が言い出したらどうでしょう?たちまちサイゼリアのファンは離反するでしょう。

そのことが分かっているからこそ同社の創業者の正垣さんは「無料のものにこそ、コストをかけろ」と言っています。真の利とは、最も利が少ないところにあるものだと判っているのです。

経営の原点:信念を貫く大切さ

利の少ないことをまじめにやると、そこにその会社の、担当者の信念とか仕事に対する考え方などいわゆる「人間力」がそのまま出ます。人は、そこに驚き、共感し、ファンになるのです。

繰り返しになりますが、今の時代の最大のリスクは「人の心」です。社員の心であり、お客様の心です。経営者は自らの欲に駆られて、一瞬でもそれを見失わないようにしましょう。受け継ぐ軸がある会社はしっかりとそれを受け継ぎ、創業した人は自分の軸を言語化して内外に宣言し、長く愛され続ける会社に育てていきましょう。

実践に役立つ動画の解説

このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。

質問項目

  1. 昨今の人件費や原価が上がる経営環境で、経営者は何を考えるべき?

  2. 利の少ないことを真面目にやれる会社とそうでない会社の違いはどこ?

  3. 「経営の軸」を言語化するときにまずやってほしいことは?

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