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あだ名は【先生】


私が小学6年生の時に、母は36歳で運転免許を取得した。

父が脱サラをして自動車の修理販売の会社を営んだこともあり、父の手伝いができるように母も免許を取ったのだ。

おかげで私は母の運転で買い物に出かけることが増え、母と2人だけの時間を持てとても嬉しかった。

ある日の夕方、毎日母が仕事帰りに寄る市場について行った。

市場には魚屋さんや豆腐屋さん、八百屋さんや惣菜やさんなど、小さな店が並んでいた。
その日のメニューに合わせて各店で食材を購入するのだが、どの店に行っても母のことを「〇〇先生!」と呼ぶのだ。(*〇〇は私の旧姓)

たぶん市場で顔見知りになったであろう主婦からも「〇〇先生!」と呼ばれているのだ。

ん??なに?なんで?
小学生の私は困惑し、〇〇先生と呼ばれている母の顔を覗き込んでも、母はなんの躊躇もなく挨拶や会話をし買い物を続けていた。

私はその日の事を今でも鮮明に覚えている。
なぜなら母が着ていたコートが、とても好きだったからだ。

白地にネイビーとグリーン、赤茶のランダムなストライプのスプリングコート。

人と違った個性的な服好きの母のことを私は、美人ではないけれど、とてもお洒落な人だと思っていた。
特にストライプのコートを着た母が、とても素敵で魅力的で大好きだった。

そしてキャッツアイ型の赤いフレームのメガネをかけていた。
昔はざーますメガネといったものだ。

どう考えても先生には見えないと思うけれど…。

帰宅して母に「なぜ〇〇先生と呼ばれているのか」と聞くと、「たぶん姿勢が良くてざーますメガネの印象からそう呼ばれているのではないか」と話してくれた。

何度も先生業ではないと伝えても、市場の店主さんたちは先生と呼び続けるし、市場で会う人たちにも先生と呼ばれるから、そういう事にしたらしい。
そう話す母はちょっと嬉しそうでもあった。

どこの誰かはわからなくても、その市場では〇〇先生。
それが母なのだ。

今SNSの中でやりとりしている私と同じじゃないか。

やるな!お母さん!
やっぱりいつも私のずっと先を行ってるね。

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