活動レポート:VIVITA CITYSCAPE in 渋谷 Powered by 東急(株)
はじめに
2021年10月16日〜17日、渋谷キャストにて「VIVITA CITYSCAPE in 渋谷 Powered by 東急(株)」のイベントをおこないました。
このイベントは、東急株式会社が取り組んでいる渋谷のまちづくりをテーマに子どもたちが専門家やクリエイターと共創し、「VIVITA CITYSCAPE」の渋谷版を完成させる活動です。
「VIVITA CITYSCAPE」は、誰もが気軽に「まちづくり」の計画に参加するきっかけをつくり、みんなで楽しみながら創造的にまちの未来を考えることができるツールを目指して開発しているボードゲームです。
ボードゲームのカスタマイズとプレイを通じて、みんなで楽しくまちづくりを議論していける世界をつくりたいという考えに共感した株式会社オンデザインパートナーズさん、株式会社日建設計さん、NPO法人ピープルデザイン研究所さんが参加してくださることになり、にぎやかな活動になりました。
「VIVITA CITYSCAPE」は、VIVITAクルーの「あなっち」と「コテコテ」が地道に試行錯誤しながら開発してきたボードゲームです。VIVITAのメンバーや外部の方々を巻き込みながらテストプレイを繰り返し、ゲームバランスを調整しながらかたちにしてきました。
そんな苦労の賜物である「VIVITA CITYSCAPE」のお披露目も兼ねるこのイベントには、子どもたちと一緒にこのゲームをブラッシュアップしたいという目的もありました。
まず、このボードゲームは本当に楽しいのか?自分たちの自己満足になっていないか?ということ。そして、ゲーム参加者が自分のアイデアをかたちにして、その地域に住む人の想いをのせてカスタマイズする「ご当地版」をどこまでつくることが可能なのか?という部分です。
活動1日目——公共空間について考える
初日は子どもたちとの初顔合わせです。
もともと試作として手作りしているボードゲームですので、私たちの力では2セットつくるのが精一杯です。ひとつのゲームに対して6名、合計12名で募集を開始したところ、あっという間に定員に達してしまい小学校4年〜中学生の14名が参加することになりました。
最初に、VIVITAから「渋谷のまちにあったらいいなと思う公共空間のアイデアをかたちにしよう」という活動の目的を子どもたちに共有しました。
そして都市デザインの専門家である株式会社日建設計の伊藤さんから「都市における公共空間」について、渋谷発のダイバーシティ/インクルーシブな街づくり活動を展開しているNPO法人ピープルデザイン研究所の田中さんから「公共空間における人の活動」についてレクチャーを受けました。
一口に公共空間と言っても、私たちは実際に何が公共空間なのかはきちんと認識できてなかったりしますが、日建設計の伊藤さんから「誰もが使うことができるところが公共空間」であることを教えてもらい、いろんな公共空間のかたちがあることを知りました。誰もが使えるような工夫や着眼点があれば、公共空間のアイデアは無限にありそうです。
ピープルデザイン研究所の田中さんからは、「誰もが使うことができる」の「誰」にはいろんな立場の人が含まれ、そこには多様性があることを教わりました。
つい、自分と同じような人たちが自由に使えるというイメージを持ちそうになりますが、その「誰」には、高齢者や障がいをもつ人、妊婦さんや子育て中の人、外国人やLGBTの人たちがいること、その人たちの視点やニーズはそれぞれ異なることを知ることができました。
伊藤さんと田中さんから考えるきっかけとヒントをもらったあとは、実際に公共空間を見るため、渋谷のまちを街歩きをしました。
活動場所である渋谷キャストのほか、ミヤシタパーク、北谷公園といった商業施設と共存している特徴的な渋谷の公共空間を訪れ、どんな人たちが使っているのか、その人たちがその場所にアプローチしやすい工夫はあるのかなど、新しい視点でまちを観察します。
渋谷は「谷」なだけに坂道ばかりで、1時間ほどの街歩きでしたが次の日は筋肉痛になってしまいました・・・。
以上で一日目は終了です。
最後に、翌日の活動で製作するボードゲームのコマのアイデアをまとめるためのアイデアシートを配布し、まずは自由な発想で、渋谷にあったらいいなと思う公共施設について自宅で考えてきてもらうことにしました。
活動2日目——CITYSCAPEに挑戦
2日目、まずはアイデアシートの宿題がどのくらいできたのか確認してみます。自信を持ってやってきた!という人から、絵が描けなくてアイデアだけで断念したという人までさまざまでしたが、全員何かしら考えてきてくれました。
アイデアをかたちにする作業の前に、「VIVITA CITYSCAPE」を理解してもらうためにボードゲームのルールや仕組みを詳しく説明しました。このゲームは、手持ちの区画カードや開発カードを使い、区分けされた渋谷のまち(ボード)にいろんな種類の建物を建設することで得点を重ね、勝者を決めるゲームです。
大人だけで何度かテストプレイしたときは、建物によって異なる建設条件をなかなか覚えられず「わからない」の連発だったので、子どもたちは理解できるのだろうか?と少し不安でしたが、むしろルールの穴を指摘してくるくらいしっかりと理解してくれました。さすがです。
この日は2つのチームに別れて活動しました。チームごとに自分たちが考えてきたアイデアを共有し、個人作業でコマの製作をおこないます。
自分が考えてきたアイデアを、ボードゲームのコマのかたち(立方体)でどう表現するのか、いろんな材料を組み合わせて考えていきます。かたちにしていく過程でアイデアも進化し、そのコマを置ける条件のパターン案もたくさん出てきました。
一つのコマで表現せず、いくつかのコマを合体させて大きな複合公園ができたり、道路で分断している区画をつなぐ空中回廊のようなコマができたり。たくさんのユニークなアイデアが生まれた、楽しい製作の時間となりました。
午後からはそれぞれのチームで集まり、完成した自分のコマをみんなに共有します。
それぞれ、自分のコマの得点を高くしたい気持ちで説明しますが、その思いはみんな一緒。得点やルールを決める話し合いは、紆余曲折します。
「私が考えたコマはとてもいいアイデアだから得点はすごく高くしたい。」
「ゲームでは簡単に建てられるようにしたい。」
「でも簡単に建てられたら得点は高く設定できない。」
いろんな思いが交錯しつつも、他の子のコマの条件と折り合いをつけながらカスタムルールを設定していきます。この話し合いの様子が、リアルなまちづくりの話し合いに通じる部分が多く、とても興味深いものになりました。
ガッチリ話し合い、ゲームルールの中にその条件を落とし込んで準備ができたら、いよいよゲームプレイがスタートです!ここに来るまでの準備が長かったためか、「やっとゲームをプレイできる!」とみんなヤル気最高潮です。
どちらのチームもまずは得点を稼ぎたいらしく、みんな点数の高い建物を建てていきます。そのまま両チームが同じような展開をするのかと思いきや、途中からまちづくりの取り組み方がどんどん違うものになっていきました。
片方のチームは、自分の得点を気にしつつもまち全体も良くしていきたい気持ちを合わせ持つメンバーが現れ、みんなのまちづくりにアドバイスや意見をする場面が見られるようになってきました。
ただ、自分がつくったオリジナルのコマは自分が建てたいという気持ちがみんな強く、誰かがつくったコマを他のメンバーが建てることは最後までありませんでした。・・・が、最後の最後でみんなで協力して、住みやすさや治安の視点で公的な施設をつくる動きが見られました。すごい!
また、もう片方のチームは、みんなが高得点を狙っている雰囲気は同じなのですが、誰かがつくったオリジナルのコマを他のメンバーが使って建物を建てることが活発におこなわれていました。
そのおかげか、お互いに協力する動きも多く見られ、条件が多くて使うのが難しいオリジナルのコマを、自分たちの意図通りに建てることができていました。
そうやって完成した2つのまちは、それぞれ異なる景色になりました。
片方のチームは、わかりやすい特徴があるまちとは言い難いのですが、細かく観察すると住みやすさを感じる要素や面白い景色がたくさん見つかります。
もう片方のチームは、各自が思う面白いまちの要素が重なり合い、さまざまなオリジナルのランドスケープが生まれ、とても個性的なまちになりました。
「VIVITA CITYSCAPE」はボードゲームのなかに、まちづくりの面白みをしっかり表現しています。
・ゲーム序盤で建てる基本建物の「住宅」「オフィス」「公園」
・基本建物の隣接条件で建てることができる警察署や図書館などの特殊建物
・基本建物が建った組み合わせで開発できる開発建物
などがあり、それぞれ解放条件のバランスを取ることで、開発しやすく得点が高い開発建物よりも先に公的要素の強い特殊建物が先に建つようにしています。
リアルのまちづくりに通じる部分をゲームに盛り込んでいることで、子どもたちも自分たちがつくったオリジナルの開発建物を建てるための作戦を考えながらゲームプレイ=まちづくりが出来ていたように思います。
ゲームプレイで盛り上がったあとは、実際のまちづくりと比較しながら「どんな公共空間のコマをつくったか」「つくったコマはゲームでどう使えたか」ということを中心に子どもたちと話し合いました。
イベントに協力してくださった東急株式会社の岡本さん、オンデザインパートナーズの西田さん、日建設計の伊藤さん、ピープルデザイン研究所の田中さん、放課後NPOアフタースクール代表理事・新渡戸文化学園理事長の平岩さんからたくさんのフィードバックやコメントをいただきました。
子どもたちがまちづくりに取り組んだ素直な感想や、専門家ならではの視点による興味深いコメントが飛び交い、この振り返りも楽しい時間になりました。その様子は、ぜひ動画でもご覧ください。
さいごに
冒頭にも書きましたが、今回の取り組みの軸はVIVITAのクルーが「まずは自分たちが面白いと思う活動をかたちにしてみよう」と考え、つくり始めたボードゲームです。
VIVITAは、誰もが自分のやりたいことや興味を突き詰めてかたちにする過程のなかで、周囲の人や社会を変えていくような活動を生み出すコミュニティでありたいと考えています。そのためにまずは、VIVITAのクルー自身が自分の好奇心に周囲を巻き込めるようになることが大切です。
そんな思いから始まったボードゲーム制作ですが、東急株式会社をはじめ、日建設計、オンデザインパートナーズ、ピープルデザイン研究所の皆さんが関わってくださったことで、子どもたちが自分のアイデアを専門家と議論できる新たな機会をつくることができたように思います。
「VIVITA CITYSCAPE」は、まちの特徴を取り込んでカスタマイズし、その地域に合わせてローカライズできるよう設計してあります。渋谷では、子どもたちの「公共空間」のアイデアを反映させて完成しましたが、その可能性は無限大です。
次はどんなまちで新しい「VIVITA CITYSCAPE」をつくることができるのか、今からとても楽しみです。
引き続き、「VIVITA CITYSCAPE」が生まれるまでの過程を綴った制作日記を準備中です!お楽しみに。