マンガ100年のあゆみ|1980〜90年代編 ラブコメ、ニューウェーブの台頭~マンガ雑誌の黄金時代【後編】
執筆者:伊藤 和弘(記事協力:マンバ)
この記事は後編です。前編はこちら。
1960年代編・1970年代編も併せてお楽しみください!
新・青年マンガ誌が続々と創刊
マンガの枠組みが変わっていく中、新しいタイプの雑誌も生まれてくる。50年代末に創刊された「週刊少年マガジン」(講談社)や「週刊少年サンデー」(小学館)のような週刊少年誌、60年代末に創刊された「ビッグコミック」(小学館)や「週刊漫画アクション」(双葉社)などの青年誌は、いずれも団塊の世代をターゲットにしていた。それに対して70年代末から80年代初めに次々と創刊された“新・青年誌”のターゲットは、団塊よりも一回り下の60年代生まれ、後に「新人類」や「バブル世代」と呼ばれた世代だった。10代の少年が読む少年誌と若手ビジネスマンが読む青年誌。その中間に当たる高校生や大学生を狙った雑誌であり、誌名に「ヤング」とつくことが多かったため「ヤング誌」とも呼ばれた。
第1号は79年創刊の「ヤングジャンプ」(集英社)である。翌80年に「ヤングマガジン」(講談社)と「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)、82年に「モーニング」(講談社)が次々と登場。少し遅れて87年に「ヤングサンデー」(小学館)と「ヤングキング」(少年画報社)、88年に「ヤングチャンピオン」(秋田書店)も創刊された。
これらの中から『めぞん一刻』(高橋留美子)、『BE-BOP-HIGHSCHOOL』(きうちかずひろ)、『AKIRA』(大友克洋)、『みんなあげちゃう』(弓月光)など多くのヒットが生まれた。83年には「スピリッツ」で『美味しんぼ』(雁屋哲・花咲アキラ)がスタート。料理人ではない「一介のグルメ」を主人公にした料理マンガということで注目され、一大グルメブームを巻き起こした。同年、「モーニング」では『課長 島耕作』(弘兼憲史)が始まり、今までにないシリアスなサラリーマンマンガとして人気を呼んだ。40年後の2023年現在も「モーニング」では75歳になった島が活躍する『社外取締役 島耕作』が連載されている。「スピリッツ」では『コージ苑』(相原コージ)や『伝染るんです。』(吉田戦車)など最先端のギャグマンガも注目を集めた。
1960年前後に生まれた世代が大学を卒業する80年代半ばを過ぎると、「ビジネスジャンプ」(集英社)、「ビッグコミックスペリオール」(小学館)、「ミスターマガジン」(講談社)など、若手ビジネスマンを対象にした新雑誌も登場。青年誌は対象年代を細分化し、クラス化が進んでいった。
マンガ雑誌の黄金時代へ
1994年の年末、「週刊少年ジャンプ」は日本の雑誌史上最大部数となる653万部を記録した。全国紙に匹敵する驚異の部数である。
この時期、好調だったのは「ジャンプ」だけではない。「中興の祖」と呼ばれた五十嵐隆夫編集長率いる「週刊少年マガジン」もヒット作を連発して「ジャンプ」を猛追しており、約400万部を発行していた。「ジャンプ」と「マガジン」の2誌を合わせれば1000万部近かったことになる。この当時、JR山手線に乗れば、ひとつの車両の中だけで「ジャンプ」や「マガジン」を読んでいる者を何人も見かけたものだ。
少女誌の「りぼん」(集英社)と「なかよし」(講談社)もそれぞれ200万部出していたし、「週刊少年サンデー」、「月刊少年ジャンプ」(集英社)、「月刊少年マガジン」(講談社)、「ヤングジャンプ」、「ビッグコミックオリジナル」(小学館)、「ビッグコミックスピリッツ」など、100万部を超えているマンガ誌がゴロゴロあった。
プレイステーションが発売されるのは94年の12月。まだ誰もがパソコンを持っている時代ではなく、インターネットも普及していなかった。携帯電話を持っている者も少なく、まして小学生や中学生が持つなど考えられなかった。マンガこそがエンターテインメントの中心となるメディアだったのだ。すでにバブルが弾けて数年経っていたが、マンガ誌業界に限っては全盛期と呼んでもいい時代だろう。
以下、90年代にヒットした主な作品を挙げておこう。
まず「少年ジャンプ」では『SLAM DUNK』(井上雄彦)、『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)、『るろうに剣心』(和月伸宏)、『遊☆戯☆王』(高橋和希)など。単行本累計5億部を突破し、世界一売れているタイトル『ONE PIECE』(尾田栄一郎)も97年に始まっている。
「少年マガジン」では初の“本格ミステリーマンガ”である『金田一少年の事件簿』(天樹征丸・金成陽三郎・さとうふみや)、『シュート!』(大島司)、『疾風伝説 特攻の拓』(佐木飛朗斗・所十三)、『将太の寿司』(寺沢大介)など。「少年サンデー」では『うしおととら』(藤田和日郎)、『名探偵コナン』(青山剛昌)、『犬夜叉』(高橋留美子)など。「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)では『グラップラー刃牙』(板垣恵介)などがあった。
青年マンガでは「モーニング」の『ナニワ金融道』(青木雄二)や『バガボンド』(井上雄彦)、「ヤングマガジン」の『行け!稲中卓球部』(古谷実)や『賭博黙示録カイジ』(福本伸行)、「ヤングジャンプ」の『サラリーマン金太郎』(本宮ひろ志)、「ビッグコミックスピリッツ」の『月下の棋士』(能條純一)や『ピンポン』(松本大洋)、「ビッグコミックオリジナル」の『MONSTER』(浦沢直樹)など。
少女マンガでは「なかよし」の『美少女戦士セーラームーン』(武内直子)、「マーガレット」(集英社)の『花より男子』(神尾葉子)、「りぼん」の『こどものおもちゃ』(小花美穂)、「フィール・ヤング」(祥伝社)の『ハッピー・マニア』(安野モヨコ)、「花とゆめ」(白泉社)の『フルーツバスケット』(高屋奈月)といった作品が人気を集めた。
伊藤 和弘
ライター。1967年生まれ。マンガ、文芸、医療・健康分野を中心に執筆を続ける。著書に『「週刊少年マガジン」はどのようにマンガの歴史を築き上げてきたのか?』(星海社新書)など。現在、好書好日で「マンガ今昔物語」、現代ビジネスで「マンガ名作館」を連載中。Twitter:@itokazraita