「さくらんぼは人生そのもの。」 高温障害で不作となってしまった山形のさくらんぼ農家さんのリアルな想いとは
全国的な猛暑により、令和6年6月に山形県を中心にさくらんぼの実が熟しすぎて柔らかくなるなど、高温障害の被害が発生し、不作となりました。
大変な状況の中、山形県でさくらんぼを栽培されている「松栗」さんにインタビューさせていただきました(お話をうかがった時期:2024年6月末)。
高温障害から来るさくらんぼへの被害と、それにより引き起こされる悲しい出来事を、松栗さんのご許可をいただいてリアルにお伝えします。
「美味しい果物で笑顔を世界中に…」
山形のさくらんぼ農家、松栗さん
今回、インタビューさせていただいたのは、山形県東根市で、さくらんぼ、桃、ラ・フランスなどを極力農薬に頼らない方法で栽培している松栗さん。
「美味しい果物で笑顔を世界中に…」をスローガンに生産をする、レゲエを愛してやまない40代の若い農家さんです。
今年の高温障害の被害を受け、「現状をみなさんに知っていただきたい」とのことで全ての取材を受けているとのこと。本来であれば、今年は豊作になる予定だったと語ってくださいました。
そんな今年のさくらんぼ栽培に起きた、想定外の事態について、うかがいました。
2024年、さくらんぼの高温障害による不作
ーーー今年は、さくらんぼに一体何が起こったのでしょうか?
今年は、とにかく猛スピードで生育が進んでいった。
さくらんぼの開花時期は昨年よりも遅くなったにもかかわらず、高温が続いた影響でさくらんぼの生育期間が極端に短かくなり収穫時期も早まった。
色付きはとてもいいのに、食べてみるとまだ味が青い。
そのような状況では収穫が困難なため収穫時期を待っていると、、、目の前にはしわしわになったさくらんぼたちが。
昨年は、異常気象によって開花時期が例年よりも早かった。本来は、6月10日ごろから収穫の最盛期に入るが、今年は5日ほど早く始まった。
原因は、開花の時期が早まったことによるもので、要するに予測ができたため収穫時期を見込んで対策もしやすかった。
一方で、今年の高温障害については予測も難しいものに。
今年の春先は、桜の開花が遅れるなど、全国的に寒さが残るような状況だった。
受粉を担うミツバチたちが思うように活動してくれず、受粉が思うようにいかない生産者も増え、今年の不作予想は見込まれた。(受粉の方法はミツバチによるものだけに限定されていないので、方法は様々)
開花時期に関しては、例年から比べると大きく変化はなかったものの生育スピードが想像を超える速さに。
結果的に、収穫時期を迎えたさくらんぼたちは、とてもではないが出荷できるようなものではなくなっていた。
松栗さんたちに襲いかかった現状
ーーー松栗さんのさくらんぼも同様に大きな被害を受けましたか?
特に、佐藤錦や紅秀峰は、高温に弱い品種のため、収穫量は激減。
結果的に、収穫した半分以上のさくらんぼを破棄せざる得ない状況となった。
食べチョクでも、多くの注文をキャンセルせざる得ない状況に追い込まれてしまった。
一方で、収穫時期が大幅に早まったこと、また収穫しても出荷できない物も多いため選定に時間がかかるようになり例年よりも多くの人員を確保が必要となった。
年々上がる資材や燃料費も重なり、結果的に今年の損失は大きく、売上は大幅に減少という結果になった。
損失額は2,000万円を超える結果に。
最後に待ち受けているのは
最後、その萎れてしまったさくらんぼを自分たちで落とす。
これが一番しんどい。
萎れたさくらんぼをそのままにしていると、木が病気になってしまう。
目を向けるのも辛いのに、最後自分たちの手でその実をもいで捨てる。
これがどんなに辛いことか。
それでも、来年さくらんぼをお客様に楽しんでもらうためにやらなければならないことである。
人の心まで傷つけてしまう高温障害
ーーー きっと、被害はこれだけではないですよね?
人の心、気持ちまでをボロボロに。
出勤すると、鳴り止まない電話。
各サイト等でキャンセルになってしまったお客様からのお電話は、勤務中ずっと鳴りっぱなし。
ギリギリまで届けられるかもしれないと踏ん張ってみたものの、結果的にキャンセルとなってしまい楽しみにしていたお客様に残念な思いをさせてしまったことは本当に申し訳ない。
農地への突然の訪問があり、「そこのさくらんぼを売って欲しい」と言われる日々。
「なんでさくらんぼを売れないんだ」とお叱りを受けることもあった。
しまいには、盗難被害にも遭ってしまうが、もうどうすることもできない。
手塩にかけて育てたさくらんぼが、日に日にダメになっていく姿を毎日目の当たりにし、心が折れかけていたところにさらに追い討ちがかかってしまった。
私たちは従業員を抱えて栽培しているが、もっと小規模の方や高齢の方の気持ちを考えると計り知れない。
地元への恩返しをしたい
ーーー今後はどうやってさくらんぼを守っていくのでしょうか?
今年の高温被害、近年の霜被害や異常気象による被害を経て、心が折れてしまったさくらんぼ農家さんはたくさんいる。
特に、ご高齢の方は高所の作業ができないため大事な遮光作業もままならない。
大変な作業を手伝うことで、ご高齢の方達が少しでも長く続けられるようにと思っている。
現在、所有する農地は約50箇所。
これも、続けたくても続けられなくなったさくらんぼ農家さんから受け継いだ農地が多数ある。
もちろん管理や収穫が大変になるが、それでもこのさくらんぼ農地が一つでも存続できればいい。
”さくらんぼが人生”な人が此処にはたくさんいる
この人たちが「引退する」ということは、かけてきたものを全て失うのと同じこと。
さくらんぼの木を捨ててしまうことなど到底できることではないから、せめても受け継ぐなり手伝うことで1年でも長くそのさくらんぼを育てて欲しいと思っている。
これが、自分たちにできる地元への恩返し。
今年の高温被害は、今年だけでは終わらない。
来年の栽培にも影響は及ぶ可能性はあるし、立てられなかった売上分は来年に響いてくる。
それでも、対策をしながらお客さまの笑顔、生産者たちの笑顔が見られるように山形でさくらんぼを育てていきたい。
私たちにできること
消費者である私たちにできることは限られていますが、一番は、生産者さんの大事に育てたその食材を美味しくいただくこと。
無事に届いたこと、食べたことを、お礼のメッセージやコメントなどで伝えることが、生産者さんの希望の光になります。
実際に、松栗さんにはたくさんのメッセージが寄せられており、応援になっていると感じております。
また、食べチョクでは令和6年 さくらんぼの高温障害被害 支援プログラムを発足しております。
今年被害を受けられた生産者さんを「応援チケット」でサポートすることができます。
今回インタビューをさせていただいた松栗さんは、これからが旬の桃を購入することで、1注文につき300円を食べチョクから寄付することで応援することが可能です。
来年、さくらんぼをめいっぱいに頬張って「美味しい!」と私たちも生産者さんも笑顔になれることを願っています。