#ある朝殺人犯になっていた#読書の秋2021
#ある朝殺人犯になっていた 藤井清美
【大雑把なストーリー】ライブでネタを披露するだけの28歳の漫才師が、数奇な偶然の中、ある朝、ネット上で幼児轢き逃げ殺人犯として吊られ、生活が一変。人間不信に陥る。そこで相方の助言を得ながら「本当の轢き逃げ犯を見つけること」で、自身のアイデンティティを取り戻そうとする話。
ようは、売れてない漫才師がネット上で殺人犯扱いされて全ての環境がダメになっていくのをなんとか食い止めようとする話、です。
轢き逃げ事件は10年前のことで、その当時たまたま近所に住んでいた主人公がやり玉に上がるのだが、この辺のスピード感や展開は面白く、一気に感情移入が加速して面白かった。
ネット上で「吊る(釣る)される」ということがいかに人のアイデンティティを潰すか、いじめと同じだから想像もできるし、私自身、ネットでやらかした(というかやらかされた)経験が2度ほどあるため、吐きそうな気持ちやネガティブ思考のスパイラルを思い出して吐きそうでした。
つまり、主人公と共鳴していた、ということです。
ネット炎上の経験がなくてもいじめと同じ構図なので、この辺りのディテールは不快感MAXで楽しめることができると思います。
「ぱっと見ただけで人を判断すること」の恐ろしさや、知った気でいる日常への恐怖、ネット民のスピード感など、手に取るように伝わるのでとても面白かったです。
ストーリー展開が巧みで調べたら作家はドラマ脚本(相棒とか!)家でした。どうりでね……。
あっという間(私は3時間くらい)に読めます!読みやすいです!
【以下、極力ネタバレ回避しつつも少し触れてしまうのでご注意ください】
物足りなさも感じました。
実は主人公は物語の半分以上、ただひたすらネット上で不当な扱いを受けているだけで何ら反論とか戦闘とかそういうのがないんです。相方の協力があったり、家族や先輩の手助けがあってやっと立ち上がるんですが、それが物語の終わりで、起承転結でいうとこの話、ほぼ「起」なんですよね。
この「起」の部分がどんどん展開していくので面白いことは面白いんだけれど、ネット上で吊るされたり晒し者になったり不当な扱いを受けたりという表現はほぼステレオタイプで、すでに何度も見ている表現に留まっています。これはもったいないと思いました。
さっさとネット警察に行けよ、って単純に思うし、むしろネット警察が何をしてくれるのかというのが取材されて面白く描かれていたら新しかったのにな~と思いました。そこが作家都合に感じました。
それと、ラストで後輩の漫才師の一人が突如主人公に荷担するのもよくわからなかった。普段あまり気持ち良くつきあえない後輩に対して、どういう決着を付けるのかというのは見どころになるのかと思いきや、そこも作家都合でさっさと終わらせられた感じがして不満が残りました。
以上です。
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