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共に生きるとは-共感の世界で生きること

あなたは、何気ない日々の中で、共感を生み生きる力や励ましを得た経験はありますか?

例えば、私はこんな光景を見たことがありました。
小さな病院の待合室でのことです。
お母さんと、2歳くらいの女の子、そして4歳くらいの男の子が診察を待っていました。
病院はとても混んでいて、3人家族は二つしか空いていない椅子の前で立ち止まり、考えているようでした。
おそらく、具合の悪い女の子が受診するために来たのだと思います。
兄である男の子は、お母さんと妹を気遣い、「椅子に座って」と声をかけました。
お母さんと妹は椅子に座り、男の子は自分で床に座り、本を読みながら二人のそばに寄り添っていました。

また、ある時、ひとり親の家庭の男の子がこんなことを言いました。
男の子はお母さんに、「僕が重い荷物を持つよ」と声をかけました。
お母さんは「じゃあ、これ」と言って野菜を渡しましたが、男の子は「もっと重い物」と答えました。
そのやり取りが数回続き、最終的に2人は互いに荷物を持ち合いながら、笑顔で帰っていきました。

あるひとり親のお母さんが言いました。
この子がいなければ、こんなに頑張れない。凄いことだと思う。

人は常に、誰かとのつながりによって頑張れたり、励まされたり、思っている以上の力を発揮することがあります。

このことは、たとえ障害があっても同じです。

糸賀一雄の著書『この子らを世の光に』には、このように記されています。

知能がおくれており、心身の発達にひどい障害をもっていても、人間としての豊かな成長が期待できるということを知れば、私たちは今日、立ちどまって改めて教育を考えさせられることである。・・・しかし教育技術が生かされる基盤となるもの、むしろ教育技術をうみ出すもの、それは、子どもたちとの共感の世界である。それは子どもの本心がつたわってくる世界である。その世界に住んで私たち自身が育てられていくのである。子どもが育ちおとなも育つ世界である。1)

教育技術の基盤や生み出すものには、子どもとの共感子どもの本心が伝わってくる世界があり、そこでは自分自身が、また子どもも大人も育つ世界だと記されています。

そして、次のようにも記されています。

たとえばびわこ学園に運びこまれた一人の青年は、ひどい脳性麻痺で、足も動かず、ベッドに寝たきりで、知能は白痴程度であった。しかも栄養失調で骨と皮になり、死相があらわれているのではないかと思わせるほどであった。半年あまりしたある日のこと、いつものように保母がおむつをかえようとすると、彼は、息づかいをあらくしてねたまま腰を心もちあげているのであった。保母は手につたわってくる青年の必死の努力を感じて、ハッとした。これは単なる本能であろうか。人間が生きていく上になくてはならない共感の世界がここに形成されているのであった。2)


私は、孤立のない共生社会の実現に少しでも寄与できることを、日々のボランティア活動等の中で問いながら続けています。

糸賀一雄の書籍に記された、重度の障害があり、瀕死の状態であった子どもが、約半年の間に支援する側の人に、腰を持ち上げおむつ交換をしやすいように必死に伝えたかった「共感」は、当事者が痛みを知るが故の、相手を思いやる行動でした。
それにハッとして気がつく支援者にも、約半年の間に交わしてきた「痛みの共感」があってこその出来事だと思いました。

私たちの住む世界には、痛みの共感があれば、きっと共生社会の実現に一歩近づくことができるのではないかと思います。

これは、どの世界に住んでいても、誰でもできることです。

人を支援する側、される側、教える側、教わる側、育てる側、育てられる側。
これらの関係性には、この世界が存在しています。
互いに共感し合える世界が存在しています。

もし、この痛みの共感が与えられているのであれば、私たちはきっと幸せだと思います。
そして、この共感を持ち得ていないのであれば、人として生きていく上で大切なものを持ち得ていないのだろうと感じます。

今、感じているあなたの優しい思いやりや痛みを共感できる、その幸いを交換できる世界は、あなたも幸せをもらえる世界なのではないかと思います。

人が生きていくために必要なもの、それを共感の世界だと、糸賀一雄が教えてくれています。

私は、その幸いな世界を、生きている限り感じていきたいと強く願っています。感じられることを、与えられたことを感謝しつつ、その世界で学び、成長して行きたいと思います。その世界は、どこにいても、誰でも「共感」を通じて存在する世界です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
私が目指しているのは孤立のない共生社会の実現です。

参考文献
1)糸賀一雄著『この子らを世の光に近江学園二十年の願い』柏樹社 291、292頁、1965年
2)同上、288、289頁

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