技術士という資格
はじめに
今回は、環境コンサルタントに勤務して27年の私が、「技術士」という資格について紹介します。
私は技術士(建設部門/建設環境)を37歳の時に取得しました。
この資格、私の人生で最も苦労して得た資格といっても過言ではありません。
そんな技術士とはどんな資格なのか。
Wikipediaに書いてあった説明がわかりやすかったので、抜粋して以下に示します。
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技術士(ぎじゅつし、英: Professional Engineer)は、技術士法(昭和58年法律第25号)に基づく日本の国家資格である。
「科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格」であり、この資格を取得した者は、科学技術に関する高度な知識、応用能力および高い技術者倫理を備えていることを国家によって認定されたことになる。
有資格者は技術士の称号を使用し登録した技術部門の技術業務を行える。
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「科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格」と書いてあるのを見て、驚いた方もいらっしゃるかもしれません。
この言葉だけをみると、なんだかすごい資格感が漂ってきます。
しかし、そもそも技術士という資格をご存知でしょうか。
恐らく、ほとんどの方が技術士という資格があることすら知らないと思います。
ではまず、そんな凄そうなのに、なぜか認知度が今一つ、というこの技術士について、負の側面から説明しましょう。
技術士の負の側面
まず一つ目はその知名度・存在感の低さです。
医師や弁護士、税理士、公認会計士と言えば、多くの人がご存知でしょう。
これは、その資格の名前を使用して、開業されている人も多く、資格名が人目につきやすいこともあるでしょうし、皆さんの生活に近い、ということもあります。
しかし、私が思うに技術士は、日本の世間一般では、今のところ、ほとんど知名度や存在感がない資格です。
知名度や存在感が低い最も大きな理由は、技術士は、医師や弁護士、税理士のように、「資格を持っていなければ仕事ができない」といった縛りがなく、スキルさえあれば、技術士の資格がなくても仕事ができてしまうことにあります。
「資格を持っていなければ仕事ができない」ことを「業務独占資格」といい、医師や弁護士、税理士がそれにあたります。
一方、技術士は「名称独占資格」であり、仕事をする上で「技術士を名乗る」ことができるだけです。
要は、仕事をしていく上で、技術士として名乗ることは許すけど、その資格を持っていても、いなくても、仕事をする上ではどちらでもいいですよ、っていう資格です。
技術士のデメリットとしては、他にも、
・資格取得後に課される義務や責任が重い(信用失墜行為や機密事項の漏洩の禁止、継続的自己研鑽)こと
・資格を取るまでに実務経験を含めて10年近い年月が必要となること
が挙げられます。
技術士のメリット
あれ?「科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格」のはずなのに、なんか負の側面ばかりで、メリットは無いの?って思いますよね。
メリットが無ければ、だれもその資格を取りたいとは思いません。
この資格をもつことのメリットは以下の通りです。
・高いレベルの技術者として、社内や顧客から評価されることがあるかもしれない
・国や県などの官公庁が発注する仕事の内、科学技術の応用が必要とされる仕事の多くで、その業務の責任者(管理技術者)に対して技術士資格が求められることから、建設コンサルタント、環境コンサルタント分野の会社にとっては重宝がられる
・所属する会社から、もしかしたら報奨金や毎月の手当として、お金が得られるかもしれない
(私の会社では、技術士を持っていると月に1万円程度の資格手当がつく)
・技術士をもっていると、いくつかの資格試験の一部又は全部が免除される
・建設コンサルタント、環境コンサルタント業界内の転職時に有利
・独立し、事務所や研究所を立ち上げる際には、技術力をアピールするツールとなりえる
・技術士会に入ることで、様々な技術士と交流することができる
この通り、ある程度のメリットはあると言えます。
しかし、これだけでは技術士の存在感や認知度が低いのも頷けます。
仕事を行う上で、必須の資格でない限り、今後も技術士の存在感や認知度が上がることはないでしょう。
とはいえ、少なくとも、建設コンサルタントや環境コンサルタント分野の会社に勤める人は、持っておくと有利になる場面が多い資格であることは間違いありません。
私が技術士の資格を目指した理由としては、環境コンサルタント業界に身を置くのであれば、取得しないと一人前と見なされないだろう、というプライドに加え、月の給与が1万円程度増える、という具体的なメリットがあったためです。
技術士倫理
技術士になると、順守すべき倫理が課せられます。
「倫理」とは、人として守り行うべき道であり、善悪や正邪の判断において普遍的な規準となるものです。
以下は、技術士倫理綱領の前文からの抜粋です。
「技術士は、科学技術の利用が社会や環境に重大な影響を与えることを十分に認識し、業務の履行を通して安全で持続可能な社会の実現など、公益の確保に貢献する。技術士は、広く信頼を得てその使命を全うするため、本倫理綱領を遵守し、品位の向上と技術の研鑚に努め、多角的・国際的な視点に立ちつつ、公正・誠実を旨として自律的に行動する。」
要は、技術士は、技術的に有能であるだけではダメで、正しい倫理観を持ったうえで仕事をしなさい、ということです。
確かに、人として、コンサルタントとして、それはあるべき姿ですし、科学技術は、使い方によって、人類にとって福音にも悪魔にもなりますから、この倫理観は重要だと思います。
他にも、技術士は、常に自己の資質を向上させる努力を行う必要があり、その道のプロであり続けるための努力を継続しなければなりません。
ということで、技術士は取得するのも大変ですが、取得した後もまあまあ大変な資格です。
技術士を取得するには
技術士は、受験資格を得るのも、なかなか大変です。
技術士の試験は、正式には「技術士第二次試験」と言います。
技術士第二次試験を受験するには、受験申込みを行う時点で、以下の〔1〕及び〔2〕の要件を満たす必要があります(日本技術士会のホームページより引用)。
〔1〕 技術士補となる資格を有していること
〔2〕 下記の1〕~3〕のうち、いずれかの業務経歴(科学技術に関する実務経験)を有していること。
1〕 技術士補として、技術士の指導の下で、4年(総合技術監理部門は7年)を超える実務経験。※ 技術士補登録後の期間に限る。
2〕 職務上の監督者の指導の下で、4年(総合技術監理部門は7年)を超える実務経験。
※ 技術士第一次試験合格後の期間、指定された教育課程修了後の期間に限る。
3〕 指導者や監督者の有無・要件を問わず、7年(総合技術監理部門は10年)を超える期間の実務経験。※ 技術士第一次試験合格以前の実務経験、指定された教育課程修了以前の実務経験も含む。
これを見る限り、技術士を受けるためには多めに見積もって10年近くの実務経験が必要ということがわかります。
ちなみに、技術士補となるための「技術士第一次試験」の合格率は、およそ40%とそこまで難しくはありません。
技術士第一次試験のための参考書も豊富に用意されていますので、ご利用されると受かりやすいです。
技術士第一次試験に合格した人や、指定された教育課程の修了者が、技術士補の登録手続きを行えば技術士補になれます。
指定された教育課程修了者というのは、文部科学大臣が指定した日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定コースの修了者のことを言います。
様々な大学や高等専門学校で、JABEEの認定コースが指定されています。
終わりに
技術士の合格率は、年ごと、部門ごとに大きく異なっており、全体では10%前後から20%です。
私が受験した技術士・建設部門の合格率は、ここ最近の5年では、9%から12%程度と低めです。
技術士を受験される方の多くは、事前に技術士合格のための勉強を、しっかりとしてきた人が多いと思います。
それなのに、受験者の10人に1人しか合格しない、というのはかなり難しい資格試験といえるでしょう。
さすが、「科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格」です。
そんな、取得するのに苦労する、取得してもそんなに使えないかもしれない、求められる倫理は重い、というなんとも色々な意味で大変な資格の技術士ですが、技術士合格者は、その道のプロフェッショナルであることを、国から保証されたということです。
今後、仕事をしていく上で、きっと大きな自信になるでしょう。
世の中の人に、もっと技術士という資格の存在を知ってもらえれば、嬉しいです。
もし受験してみたい、と思いましたら、まずはどのような試験内容なのか、参考書で勉強してみるのもありです。
私は、科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格の取得者として、その資格に恥じない仕事ができているだろうか。
これからもそんな気持ちで仕事をしていきたいと思います。
皆さんは技術士について、どのように感じましたでしょうか。
この文章が、少しでも「技術士」という資格の理解に貢献できましたら幸いです。
それではまた。