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25.02.14. ♡ 神様と聖書と制服とらヴそんぐ ( 創作文10 )
act.10,.... 天使の歌声とらヴそんぐ
( ver, … Révolution française // ... )
『 っしゃぁー!!魔女狩りじゃぁ ー!!!!! 』
聞きなれた、耳に心地よい 声 が聴こえる。
『 お、イツキくん、元気だね! 』
『 あッ 川澄さん!!!聞いてくれ!!!俺
たちは今、西の悪しき魔女 と、対決しに行く
んだ……!!! 』
『 ……まじょ? 』
『 そ、悪の権化!!! じ つ はぁ〜 ぐぇッ 』
『 ………イ、ツ、キ。 』
『 ぐえ!す、ずみまぜん、ごめんな、ざい、
ゆるじでぐらさい、ざづぎさま……ぐる、
じ…… 』
『 あはは、相変わらず、仲良しねっ! 』
……知っているわ、イツキくん。
相変わらず 童顔可愛い 系で、黒髪に映える
白い肌が、受け受けしいったらありゃしない。
なんやかんやで裏ではファンが多いー。
少年のくせに、ショタの 自覚 が 全く ない、
そんな所が素敵に可愛い、B型の天然広告塔
男子、第1位。
『 悪いな 川澄さん、コイツ、今ちょっと
繁忙期というか、やらかし期というかで……。 』
……相変わらず、眉目秀麗で聰いわね、サツキ
くん。
そして、
イツキくん、らぶ。
片恋が実らず、手前には朗らかに、悲恋ぶらない
ところが乙女心を擽る系世話焼きイケメン第1位。
本人には隠しているようだけど、私にはバレバレ。
…死ぬ気で 応援 しているわ。
『 はー、次、体育かー、やだなぁ……。 』
『 ……あなたは相変わらず、……情けないわね、
山田くん。 』
『 ……ゲ、川澄さん……。 』
本名、山田隆行ー。( ヤマダ タカユキ )
平凡を極めたような男。地味。目立つのが嫌い。
簡素な私の使用人……じゃ無かった、クラスメ
イト。
某芸能人と同じ名前のくせに、存在が薄い男子
、第1位。 影の薄さを買われて私の傘下になる
も、やる気なし、金なし、意欲なし( )の 所謂
へたれ 。 微妙に垢抜けた色のマッシュなヘア
スタイル で、相変わらず、全てを 誤魔化して
生きている。
ーああ、今日も 平和 だわ。
『 あ、そうだ、ここ 二、三日、今日から忙し
くなるから。 パソコン一台、pc部員に借りとい
て。なるたけ簡単に、……ぶっ壊れない程度の
最新機種で。 』
『 ……な、な、何、するのさ……。 』
『 ふ、…後々教えてあげるわ。 』
『 ……って言うか自分でやれば……… 』
グシャァァア ッッ
……と、いらないわら半紙 で出来たプリントを、
ぐしゃぐしゃに右手で見せつけるように丸めれ
ば、『 ひぃぃいッ 』 と言いながら へたれ山
田 はビビって去っていく。……。
それは、 了承 とみなして良いのよね……?
まったく漢気のない、……あの二人を見習い
なさいよ。
…… 魔女?
……イツキくんの 純朴な受け受けしさ を
奪うヤツは、許さない。
サツキくんの 片恋 を邪魔するヤツは、
排除するー。
そう。
私、クラス委員 川澄桜 に、死角 など、ない
のだからー。
⋆***
『 あ、サツキ、今日実は……先輩と初めて遊ぶ
予定が入ってるんだよ。……作戦会議は
夜でも、……いいか…な……? 』
『 ……なんだ、もう、そういう事は、先に
言えよ。 』
『 ……悪い。あのアバズレ女のコト…をぐる
ぐるっと考えてたら、すっかり忘れちまって
たんだよ。 』
『 ……仕方ない。別に対した計画なんざ
立てる予定はねーし、…行ってこいよ。 』
『 !……ありがと。……ホントはお前も連れて
いきたいけど、じ、じつは、……ホントに、
今日、初めて遊ぶんだ、……それに、約束は
守りたい。 』
『 、……わかってるよ。…気にすんな。 』
そして、サツキには素直に言えないけれど。
ずっとずっと、楽しみに、していた。
だらだらと、何日も過ぎてしまったけれど。
やっと…………先輩と。
ふいに、過ぎる。
でも、 本当に、 そんな日 はー、
俺に、本当にー。
気付けば、もう下校の時刻だった。
誰もいない渡り廊下を渡ろうと歩み出たその時。
『 ……あ、あの!サツキ先輩!!!こ、これ…
…っ。 』
『 ……え…。 』
見慣れない女子生徒 がサツキの元に駆けて
きて、何かを渡す。
『 ! ひえー、サツキさま、モテすぎ案件っ。
どれどれ、俺も少しばかり拝見なう、……と。 』
『 ……………。 』
『 あの、あの、私、……。 』
『 …………えー、と、なになに、ぷれぜんと、
ふぉーゆう。 』
『 …………………………。 』
俺は ナチュラルに 覗き込む。
サツキは、やけに 怪訝な顔を している。
『 みーせーて っ! 』
『 ーっあ!!!おい!!! 』
珍しく、大親友をからかおうと、銀のシール
だらけの便箋が気になり、サツキから奪いと
り、物珍しげに眺めた。
『……き、る……ゆ………っ……なんだ、これ……。』
殴り書きで きる ゆー と書いてある文字を見た
途端、背筋が固まり動かなくなる。浮遊した感覚
から鳥肌を立てた瞬時、 しまった と目を見開
いた。
『 ………ふふっ……そう、ぷれぜんと ダよ! 』
『 !!! ーイツキッ 速くそれを、捨てろッッッ……!!!!? 』
『 …あ……ッッッ !? 』
瞬間 手紙から怒号が鳴り響く。
土煙が舞っている、
ズリ剥けた右手が ー痛い。
『…………、は、………、……大丈夫、……か……っ!』
『…………っ……。……さ、サツキ、……!!!!』
お互いを見合うと、まだ、息はしているー。
が。
俺を庇って押し退けた大親友の頭上からは、
血が少し、出てしまっていたー。
先程の 女の子 は居ない。
ああ、ー 遂に おいでなすったのか。
『 うひゃびャひャひャギャひャヒャ
ヒャャひゃヒャガゲハキャヒャ!!!!!! 』
『 ー…ひ…。 』
ゾッとする。
どっかのネット記事で見かけたような、
どっかの廃墟の、
どっかで見かけた様な、
錆だらけの、顔の壊れた気色悪いピエロの
玩具が、
知らぬ間に佇んで、一人、笑っていた。
ひとりでに俺達を 一頻り、笑って "いく" 。
この世の悲しみを目いっぱいに詰め込んだ
ような、人を選ぶ造形美は、笑いながらボロ
ボロにひしゃげ、崩れていっていた。
寂しい世界。 淡く 哀しい調べ。
ーうらんでやる。ー 消えて、やる。
ずっと 響くー。 ……調べ。
『 … 上等じゃねーか …… やってやるよ。 』
……俺は、もう ー逃げたりは " しない。"
『 ……派っ手な演出がお好きのようで。 』
『 ……そう……みたい、だな、……ふう。 』
大丈夫かと、サツキをだき抱え起こしながら、
世界一奇妙な笑い声を響かせて、けたたましく
狂って笑う 人形 を見つめる。
…気配がない。
……どうやら ご本人様 は登場しないらしい。
『 ……軽い、なんかの爆竹?……に、油詰めた
類、……かな。 』
俺も爆薬の事なんて、分からないが。
そう言いつつ、サツキは物怖じせず、 ラブ
レターに偽装させた物 を分析していた。
『 ……。 』
『 どうしたよ " 大親友 " 、怖く、なったかー? 』
『 ……ふ、正直に言うとな、…… 。 』
気持ち、悪いよ。
逃げて、帰りたいよ。
ー 俺だって。
『 ……怖いし、帰りてーし……さっさと先輩と、
笑って、寝て、宿題、…してさ。 』
そんで、 お前 に 電話、かけて。
ベッドに入るんだ。
よもや毎日拝んでる 夕焼け という名の、
陽の光 を、思い浮かべて。
囁かな幸せに、ー神様の 福音 に、酔いしれて。
平穏 が 幸せな子守唄 なんて、誰が、気
づいているんだろう。
空は何時も、青くて、広大で、優しく、そして
切なく、て。
もし、誰もが 気付いてたとしても
俺はただ。
『 何事も無かったように、平和な朝を、
ー迎えたい。 』
ー、それだけ!!!
苦笑いで微笑んだ。
こちらをまじまじと見た大親友は、肩を押さえ
ながら、
『 なぁ、言っていいか、 』
と、曇り空から霞む夕焼けに、俺に、声をか
ける。
『 実は 俺も………。 』
ー ホントは、ちょっと、……怖、い。
俺は悪戯に、自分の頬が 笑った のを感じた。
『 はは! ……知ってる。あーんなの、怖くねー
やつ、いねーよなぁ! 』
『 ………ああ、……お、俺たちだけの、
…秘密…、…な。 』
『 ああー!!? サツキさま、照れてるー
っ ♬.*゚ かわい!♡ 』
『 ……う、煩い……っ!ば、ばかっ! 』
お互いに、苦く、だけれど笑い飛ばしながら
微笑みあった。
そうでもしないと、 立って なんて 居られな
かった から。
そうでもしないと、
泣いて、崩れ落ちて、二人とも。
膝を抱えて しまいそう、だった からー。
『 ……泣いたって騒いだって、仕方がない。
あのヤンデレ系女子…を止めるのは、……もう
俺達しか、いないかもしれないからな。 』
『 右に同じく!……先公の1部もグルっぽい
以上、……悪戯っ子で!違反常習犯!の俺たち
が動くしか、道はねーよな !!! 』
『 ……違反常習犯はお前だろ……全く!…。 』
『 え、へへ……い、言ってみたかったんだよ、
俺たち って……。……お前、いつも完璧で、
俺とはたまに、遠い気がして…………
だから……。 』
『 …………!………………イツキ…………。 』
日差しにはっとするサツキの顔が、綺麗に
、眩しく、煌めいて見えた。
『 …………今日はとりあえず、お前、先輩
の処に行け。 ……連絡……待ってるから。 』
『 ……ん、わかった。 』
サツキ。
いつも、ーありがとう。
ー、 大好き だ。……ずっと、一緒 な。
⋆***
『 はぁ、…… 遅せーな、アイツ。 』
単車に寄りかかり、何度 ビクついて 怖気
付いた猫のように チャリ を取り出して行く
生徒ら を観ただろう。
送った適当なメッセージに既読は付くも、
返事が来ない。
オマケに後ろの方で、女生徒がこちらを見て
何か言って騒いでいる気もする。……はぁ。
『……お、桜坂センパイ、さ、さようなら!!!』
『 ……は?……あ、ああ、……またな。 』
……誰だ コイツ は。
可愛らしいと比喩されそうな、童顔の黒髪の
、恐らく 後輩( ? )っぽい男なんかに、何度か
挨拶された。
ふいに、イツキの奴が浮かぶ。
『 ………、…。 』
真横を観ると、夕暮れが、晴れてきた青に
反射して映り、紫に変わっていく辺りに
差し掛かっている。
……もう、日没も近い。
『 ー先輩、絶対 ですよ…! 』
そう言ったのは お前 じゃ無かったのかよ。
どんどん、苛立ちが増してきた。
既読だろうがなんだろうが構わないが、会わ
なきゃならない時刻を過ぎても、出現すらする
気配がないのは、極めて、ー少しだけ、遺憾 で、かつ。 けれど。
ー 心配、だった。
『 ……ね、知ってるー? そこの君ー。 』
『 ………………。 』
『 イツキ って、アナタの事、憧れてたんだ
よーっ。 』
『 ………………っ……!!! 』
自分でも、らしくないくらいの勢い で振り
返ると、そこには白く色を抜いた、 今朝 の、
薄ピンク色の髪が、 甘ったるい、だが毒々しい、
俺の 苦手なコロン みたいな匂い を漂わせて。
誰かの自転車に 体育座り していた。
気づけば周りには誰もいない。
……気持ちが悪い。 何なんだ、コイツは。
『……お前、気味、悪いって、言われねえ……?』
イツキの、泣きそうな瞳 が浮かぶ。
ー先輩。 先輩、ごめんなさい。
女 相手に、俺、何も、…出来ないんだ。
こんなの、ホント、すげえ……、 情けない、
です……よね。
ごめんなさい。
普段の、朗らかなアイツの 笑顔 が浮かぶ。
暖かい表情で、 いつも人を気にかける 、
優しさしか纏わない。天使からの、
" 恋歌 " みたいな。
ただ、そこに 灯るような アイツが。
……時折消えそうで、
泣いた空みたいな、儚げな、そんな 音。
ピアノの気高さに乗せて、表現をしたくなる
様な。守りたくなるような、繊細な響きで。
表現するならば、ー愛の詩。
……メヌエットっぽい、なんにも考えてねえ、
愛らしい、 音。 無垢な詩篇。
そんなような、 この世には勿体ない ぐらい
な奴の
" 悲しさを押し込めて、めいっぱい、
でも、頑張って笑ったような作った顔 " が、
無作為に、チラついて、…離れなかった。
『 ひどーいっ 私は美少女だもんっ……ね、
……それよか、さっきの話、ちゃんと聞い
てた??? 』
『 …………。 』
『 イツキ、言ってた。貴方にいつか、曲を
書いてもらうんだって!!!才能の塊!!!
おーでんじゃらす、おお、びゅーてぃほー!!! 』
『 ……。 』
『 幸せな五線譜!!! ……俺の隣で、この人
に歌を作って、書いて、俺の書いた詩 に付け
てもらえたら、どんなに俺は、幸せなのだろう
かー。って、むかし、言ってたヨ。私見たんだ
っ むかし、見たんだっ☆ 』
『 …………、……。 』
『 ね、知ってる? 』
『 ……。 』
『 貴方が わたしのイツキ に会うのは 偶では
なく、貴方が仕組んでいた!!! 』
『 ………………。 』
『 さー、どーでしょーっ 答えはっっっ! 』
『 ……あのさ。 』
ー煩いんだけど。
ライターを取り出して徐にひとつ、くわえた。
邪魔くさいストレートヘアが、固まって、微動
だにしない。
『 ーだから、何。 』
聴き届いただろうか、 軽めの一蹴 は。
俺は今や 懐かしい煙草 を口から取り出すと、
大分 身体には久々の甘ったるい感じ に適当
に身を委ね、
大分変な女 を とても適当 に、 見やる。
『 ……可愛くもねーくせに、……喋るなよ。 』
んな、所で。
恐らく、俺が誰にでもよく言われただろう、
冷たい だろう、視線。冷たい と言われる 言葉。
笑みのまま固まった表情に、適当に、燻らせる
よう。
煙と一緒に吐き捨て、 俺は ブサイクな硬直面
に近寄る。
『 ……壇上が、汚れる だろう。 』
甘ったるい煙を 更に適当 に ゴミ箱 に吹き
かける。
『 ………………。 』
『 あ、傷ついた?……けっこー 繊細 なんだな。 』
『 ……気持ちわりぃから出てくんなよ。総てが
安っぽいし、穢らしい。 』
『 イツキがあげたの?その香水。…5流には
お似合いだな。 』
『 ……だまれ。 』
『 お前、 同性苦手 だろう。自分だけしか
可愛くない、……嫌いな奴はすぐ潰したがっ
て。 』
『 ………………だまれ……ッ……。 』
『 ……良いか。 』
『 ……っ……。 』
" 愉しいから " なんとうなく胸ぐらを掴んで
もう一度 " だけ " 囁いた。
『 …… 二度と出てくるんじゃねえよ。 』
ー、汚れきっている 売女 の、くせにー。
『 …… イツキが あえて 言わない コト を
言ってやろうか。 』
『 ……ッ……。 』
売女は愕然とし、自ら震え出す。
『 ………死んじまえ。 』
『 ……!!!!! 』
『 死んで、詫びろ。 』
『 ……ぐ……っ。 』
やっぱりな。
『 ……震えてんじゃねえか、…ほら、……
早くあそこの屋上から飛び降りて……、 』
死ね よ。
『 居なくなれ。 』
『 …この世から、…失せろ。 』
『 ……っぐ、ぅう…………。 』
やっぱりそうか。
コイツの 弱点 は " イツキ " だ。
イツキも " コイツ " が 弱点 だ。
ー 俺は " それ " が、許せない。
さぁ、死んじまえー。 居なくなれ。
……俺の為に。 アイツ の為にー。
襟首を掴み勢いよく離せば。
発狂した金切り声が恐らく 酷い勢い で拡がる。
立ったまま、訳の分からない叫び声を。
こいつ、ソプラノかぁ。
俺は 馬鹿にしながら、……軽蔑しながら、
暇つぶし に そいつ を
ずっと 観 てー。
『 ー 先輩 !!!!!! 』
『 …!!!… 』
は、と我に返る。
ー!
イツキ。
…ああ、そうだった。
『 ーが、おまえ、が、ッ…… 』
『 ……センパ 、先輩 !!!!! 』
『 …………イツ、キ………… 。 』
『 あっ イツキっ!? ♡♡♡ 』
『 ーっ……遅れた!!!! 』
『 ……イツ……キ……! 』
今朝会った、ばかりなのに。
『 …ッ………ち、……おせーよ!!!…全く。
どれくらい待たせやがるんだ、この、……
!!! 』
何百年も、何千年も、離れていたような気
さえ、して。
ー、やっと。
『 んじゃな!!! 逃げろーッ サツキィー!!! 』
『 お前もな!!!! ー 速くッ!!!!! 』
向こうにいるサツキに 放課後の挨拶 をして、
イツキがこちらに走って向かってくる。
夕焼けに染まるストレートヘアが、イツキの
前に、顔を出すのが視える。
『 ……っ イツキ!イツキイツキイツキっ!
私のイツ…… 』
『 ー 先輩 っ!!! 』
『 …………え……。 』
イツキはストレートロングの淡い色の ゴミ箱 を
通り抜けて、俺の元へ駆け寄ってくる。
…目の奥が、何故か、熱いー。
『 ……イツ、キ。 』
『 ……先輩ッ!!!! 』
イツキだ、
ー イツキが……。いる。
『 ハルキ先輩 ッッ!!! 』
『 ……イツキ……ッ !!!! 』
目が霞む、俺は勢いよく抱きついてきた
イツキを抱きとめて、
気付けばめいっぱいに、
抱き締めていたー。
『 ……先輩……っ 』
幸せそうに。
そんなイツキが、堪らなくー。
抱きついてきたイツキの顔を見て、
俺は 知らない懐かしさ でいっぱいで、堪ら
なくなる。
いつの日にか。 いつも、……何時の日も。
こうして 二人 で、寄り添って、
愛し合って
生きていた ようなー。
そんな錯覚、さえー。
『 い……、……つ……。 』
桃色のロングヘアが、柳みたいに揺らいだ。
『 …はぁ………乗れ、イツキ!!!! 』
『 ……!!!……は、……はい!!!』
ヘルメットを放り投げれば、受け取りイツキは
バイクに飛び乗り、俺の後ろに抱きついた。
『 ま、待って…… 』
『 …イツキ、……イツキ……っ……。 』
『 ーいつ、……ぁ………っ……。 』
『 ………………っ。 』
イツキの鼓動が速くなるのが、背中から全身
へと伝わる。 無心になり、俺はバイクのキー
を捻った。
『 ーイツキ、行くぞ。……振り返るな!!! 』
俺はイツキの両の手をキツく交差させて、
自分の身体に、キツく 纏わせて、震える
手の平を、上から力強く、握った。
『 ……! 』
こくん と、頷くのを確認した後、目の前の
日の沈みかけている大空を見据え、単車を
勢いよく走らせる。
ーイツキ。イツキイツキイツキ。
何処までも聴こえてくる甲高い
、 狂った ソプラノ。
その度に俺の服を掴む掌。
降ってくるような紫と紺色のグラデーション
に、俺は目を細めて、後ろの体温に身を委ね
ながら、兎に角何も無い平野を、ただ、かっ
飛ばしていく。
空は何時だって高らかで、清らかだ。
朽ちた平原は寂しく、妙な魂が彷徨うようで。
老朽化した広大な大地は綴やかに。
俺達を見て、貴さを連ね、見守り初め
てから、きっと大分……久しい、
ーそんな、穹。
『 す、げーや 先輩!!!こんな綺麗な夕焼け、
俺、……っ……初めて、見た、よ……!!!! 』
普段ならわからない、 後ろに座った奴の声 が
聴こえる。
こんな、 くだらない 景色。
ー沢山、沢山。 観せて、…魅せて、
笑わせてやる。
帰りたくなったら何度だって、
叱ってやる から。
だから。
伝わるだろうか。
響き渡るだろうか。
ああ、もう 言って しまえー。
『 ……ッ……何処にも、行くな……! 』
*.*.*.
遠い日を思い出し、後ろで泣いている
少年を、ただ、柄にも無く。
ー今は、ただ、抱き締めるように。
狡猾で、浅ましい人間が、
ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調。
お前は ー恋歌。小夜曲、きっと似合うのは、
セレナーデ。
ねえ、愛しているわー。
お兄様ー。
だから、どうか、泣かないでー。
天使の唄声のように、啜り泣く声。
夢で見た幻と共に、地平線に沈む夕陽が寂し
く、時にコイツの様に、沈みながら落ち込ん
では、また、 きっと、光る から。
「 俺、この人の新譜、大好きなんだー。
セレモニーとか、戴冠式とか!そんな感じ! 」
「 ……またそんな、マイナーなんだかオーケ
ストラなんだか、…よく分かんない雑誌 見て。 」
「 い、いいんだよ!もう!!! ……いいな、
こんなスゲー曲を作ってくれる人に、俺の詩を
付けて、……歌を。……歌を、……歌ってもら
いたい……。 」
立ち止まった本屋の一角。
此処にも、俺の居場所は無かった。
……帰ろうとした矢先。
「 …お前が歌えばいいじゃん。 」
「 ……え、あ、……そ、そ、それも……そ、
そ、そ、そう、だな。 」
「 ……何、雑誌見て、照れてんだよ。 」
「 ……だって、こんな、綺麗な旋律を奏で
る人、……絶対に、…、…… 」
……コイツ、なんて、言うんだろう。
生唾を飲み込んだら、束の間。
ー 格好いい、よ……。
ねえ、ずっと 謳っていて。
お兄様。
いつか何処かで聴いた声。
広い空も、憐憫に澄み渡る夕焼けも。
ーたった 1人の為 に、咲けばいい。
歩き出すと、闇雲に、涙が零れていた。
路地裏で、破り捨てられなかった、認められ
なかった 半身 を、世界一大事だと、抱え、
誓い、 想うと同時。
その 熱された瞳 に、
計らずも杞憂かと 簡単に
ラブソング と言う 名を、ひたむきに。
揺るがされた 想いに 人知れず。
ただ お前 と言う 賛美歌 にあてられて
ただ、ずっと 果てしなく
ずっと、
" 恋 " を、 ー していた。
*.*.*