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25.02.21 ♡ 神様と聖書と制服とらヴそんぐ( 創作文14 )




act,14,……   Crying rabbit  と らヴそんぐ





もう少し、先輩と、いたい。



そう、俺が   ガンゲームの中  で思ったのも束の間。

先輩が  おひらき  と言ったのは、ゲームセンターの閉店時間間際だったから、だった。

もう深夜二時前らしい。

楽しい時間は、あっという間だー。

なにせ、あの、ホタルノヒカリ  が流れてきたのだ……。

はッとした俺は、先輩に、サツキに話した、
"ホタルノヒカリはシスターにこそ、流すべき"
と言う定説(?)を投げかける。 すると。



『   あははっ!違げーねえ、な!   』



と、ツボったのか、早速    笑って   くれた。

…嬉しい。

やっぱ  今度、放送室をジャックして授業中に
あの曲を  仕掛ける  しか、道は無いようだ。

俺なら出来ます、任せてください!!!

とかなんとか言う俺。先輩はそんな俺の白いパ
ーカーのフードを引っ張って  来い。と言う。

何事かと思うと、気付けば  プリクラ機   の中  
にいた。



『   えっ  せ、先輩、もう閉店間際じゃ……!   』



まぁ、まだ間に合うだろ。そう言って小銭を機械
に放り投げ、俺の傍に寄った。

俺は相変わらず うさちゃん を抱えていた。……。



はい! 笑って笑って、ピース!



……と、訳の分からんナレーションと謎の
構えて!音に、つい身を任せてしまい、俺は
堕天使が降臨しそうな、掌を顔に当てて不敵
に笑う、 所謂厨2病ポーズ  を  絶賛決め……
てしまう。

先輩はと言うと、俺の肩に腕を乗せて寄りか
かり、すまし顔とたまにピースするのみだ……

く、COOL !!!(     )




そして。



画面に出て来たプリクラに、書く   セリフ   は、
こう。




『  ……やっぱこれだろ……"チャリで来た。"  と、………。 』




いや、バイクだがー。

他にも、時間に急かされて書いた  堕天使降
臨  と、亡者共のアンセムがひびきわたるこの
地で。 と。

あと、女子の誰かが書いたようなスタンプを…
見つけた。それを使い、小さく、『   センパイ、
大好き     』 と、俺はこっそりと押したのだった。

…… 、俺ってば   乙女 ( ん )……。




『   あとは任せる。こういうの、わかんねえ。  』




そう言って、  ゴッホ  にならねばならなかった俺
ー。……を置いて、幕あいから出ていった先輩。





あ……先輩、もしかして。

……煙草、吸ってるんじゃ。




嫌な予感がする。 少し焦った俺は、急いで うさちゃん と一緒に、 先輩   を探し出す。

ー!  見つけた。後ろ姿さえ、すらっとした先輩
の目の前には、……お菓子の自販機がある。




な、……なんだ……。 菓子かよぉおぉお……。




凄い引力で、肩が地上にひっぱられた、……
堕天使舐めんな!って思いながら、その安堵に
力尽きそうな羽を羽ばたかせてまた世の中を
見下ろし嘲笑う為、俺は力を  ほうしゅつ  するー。

傍から見たら訳分からん脳内での  超★小説  が
勢いを止めない中、それは差し出される。




『   ん。   』

『   ……え、あ、……ぽ、ぽっきぃ。   』

『   ……めっちゃお前に似合う。めっちゃ……。  』




かわ、可愛い。

先輩は、なんだか   果てしなく愛しいもの  を
みるように、こちらを見つめていて。

今朝のように、瞼が親指で、口許が、指で、可
愛がられる。



『  ……んん……っ。  』

『   ……食べ、てえ。  』




ー イツキ。




『   …!!?   』




ー 舌舐り。

先輩が舌……を……。

食べ……その一言に、俺が   今、なんて。と、耳
を研ぎ澄ました瞬間、




『    お客様、閉店のお時間ですので……。  』



と、言う、スタッフの兄ちゃんの声が全てを
遮った。

途端に先輩の表情は、綺麗で冷静な澄まし顔に
なり、




『    ー行くぞ。  』




と言われてしまう。



今、なにがー。 た、たべ、たべ……!!?

俺はプリクラをブレザーの胸ポケットにしまい
込み、ホタルノヒカリ をバックに、そんな、何
か狼を連想する先輩と、二人で店を後にするので
あった。






⋆***






ゲームセンターから出ると、国道の真横にある、
その駐車場から、ある一定の匂いが漂ってくる。




『   あ、……夜の、匂いがする。   』

『  ……あ、解る。…つーか、なんでお前がそれ
知ってんだよ。…………どーせ、やんちゃ
、してたんだろう、……。 』




ちょっと叱る様にこちらを睨む先輩に、ちょっと
ならず、かなりどきりとしてしまう。




『   え!!? や、え、は、!!!! えええ、
えーと。   』


そうだ。

俺はあんまり硝子割る〜とか、そう言う人……で
は無きにしも、 夜は家に居ない  人間だった。

勿論、高校に入ってからは、ない。

たまに、無性に夜、出かけたくなる、けど。





『  ……図星。  』




嘲笑しながら、先輩はバイクにキーを入れて暫く
暖めるも。




ー  夜の匂い、俺も、好き。 ……綺麗 、だよな。




って、微笑んで、くれた ……。




先輩って、

冷えた様な雰囲気で、呆れてくるのに、

……優しいんだよ、な。



そこが、……好き。



きゅうっと言う音がしそうな位には、胸が、

痺れるように、ー痛い。

俺は堪らず  うさちゃん  で、顔を隠し、誤魔化した。




『   ……どうした?  』

『  せーんぱい、ハルキせーんぱい、   』




高くもそこ迄低くもない声を出し、先輩に
 うさちゃん  で、喋りかけてみる。

同時に先輩は、バイクのエンジン音を止める。





『    せんぱい、せんぱーい は ふりょー……だっ
たの???    』

『  ……聞きたい?   』

『   ……。   』

『   …………、お前より   何百倍   も  識ってる  よ。  』




こちらを見据えるような、色っぽい、何でも
知っている。ような声。




『    …………。   』

『    イツキ。   』




ー おいで。




ドク、トク、と、音がした。

言われてしまったら、足が勝手にそちらの方まで
駆けていた。 先輩は、抱き止めて、抱き締めてくれる。

抱き着くのが、癖になりそうで、

……愛しすぎて、……ちょっと、怖かった。

けれど。  死ぬ程、気持ちがいい。

ずっと、くっついて、しまっていたい。




『   ……。   』

『   ……でも、俺は家には  帰った  よ。   』

『  ……、……。  』

『  どんなに    下らない家   だろうとも……帰った。  』

『    家、……嫌、だった……?    』

『   ……まぁな。    』




……うち、家が、音楽家のヤツら、ばかりでさ。




『   ……そう、なの?    』




驚いて上を見上げる。先輩は、申し訳なさそう
に、微笑を携えながら、こちらを見た。

その間も、優しく、強く、頭が撫でられて。




『  ……だから、頭硬い、偏屈な奴ら、多くてさ。  』

『 …………。 』

『  ……んで、燻ってる時に、お前に会ったんだ。  』

『   ……え……?   』

『   帰り道に本屋拠ろうとしたら、駄作だ  って、
 上   に貶された作品、お前が必死こいて、サツ
キに  良い  って、説明してた……。   』

『   え、……え!!?   』

『    ー、俺、この人と結婚したい……って、さ、
叫んでたよな。    』




先輩は、照れたように、横を向きながら喋る。




『    ま、まさか……ッ    』

『    そ、 Bad  Rabbit  and  Love Song   xxx  
あれは……    』




俺。




『    ……ちょっと、名前まんまだったな。捻りゃ
ぁ良かったんだが……。俺、ネーミングセンス、
ないからさ……。あれ、お、おい、イツキ……?   』


『    こ、腰、抜けた……。   』




驚愕の末に腰の抜けた俺を先輩が  抱っこ  する。




『    んっ……んんん。   』

『    俺、うさぎ、好きなんだよな。まっちろくて 、
愛くるしいのと。色気、……ん、凄くて、  』



ー まるで  お前、みたい。で。



首元が、恥ずかしくて、充血していくのが分かる。

知らなかった新事実と、首が、甘ったるく、先輩
の口許で、夜風には火照った先輩の首で、愛撫さ
れていっている。

混乱しかける。




……知らなかったー。




せ、先輩が、  うさぎ好き   だと言う事もー。

あれ。でもー。



『   んじゃ、先輩、俺の事、何時から……!?  』

『    ……お前が、高一になった辺り、だっけ。
そんくらいから。学校でもうるッせえ位……に
騒いでたから、すぐに分かっちまったよ、あ、
アイツだ、的な……。  』

『   ……さ、刺されてた時、気付いてたの!?   』

『   ……いや、病院に運ばれて、目ー覚まして、
事情聞かれてた時に、思い出した。  』

『   ……な、なんで、…さ、刺されたの……?  』

『    多分、俺目付きわりーから、素で絡ま
れたんだと思う。……向こうから絡んできて、
一人殴り返したら、リンチされた…って訳。   』

『  …………。 』




でも、刺すかな、普通……。

俺はそこだけ、少し気になった。が。


でもー。

憧れの   俺のお兄様 が、目の前に、居たー。





『   ……せ、先輩……よ、良かったら……ッ   』

『   ……ん?   』

『   ー サイン、下さいッ!!!    』

『    ……ダメ。   』

『    エッ  なんで!!?    』

『   …俺、今  書いていない  から、そんな中で
サインなんて、…渡したくねえんだよ。   』




半端な、気持ちで。

そう言う伏し目がちに、遠くを見やる先輩に、
少し、落ち込みを隠せなかった。

でも、そんな男らしいとこに、憧れていたのも
、事実だー。




『  ……あ、確か、活動休止……とかって……。  』

『   ……そ。……疲れちまってさ。あーだこーだに。

……それよか。   』




先輩はこちらをみて、一瞬、可愛いうさぎを見
つけた女子……みたいな顔をした。




『   ……せ、んぱ……?……。   』

『    ー イツキ……ッ  イツキ、イツキっイツキっ
…可愛い、……おいでっ  ……可愛い……っ。    』

『    え!!?   ちょ、せ、あ、や、ぁ……っ     』

『    ……あああ、くだらねーコトで、悩んでるト
コが、バカっぽい。た、堪んねー。嗚呼、……
いじめ抜き……たい、かわ、可愛い……ッ。   』




えええええええええ

めちゃくちゃに、身体を抱きしめ、揉み?しだ
かれ(?)   軽く、吐息が荒い。

なんかスゴいセリフ、言って……!!?

だ、……だあれこれ……せ、せんぱ……。

その時脇腹をこちょ……揉(?)まれた。




『    ひ!!!  や、やだ、や、、うう、せん
ぱぃ、やめ……。   』

『 ……お前、存在が誘ってるよな……ムカつく。  』

『  せ、せ、せ、せんぱ……   』

『   ほらぁ、ゴメンなさいって言えよ……。   』



ー、あ、やっぱり  先輩   だ   。

……真顔になるも。

……なんだか、俺はきっと今、隣の席の彼、
 山田くん  みたいになっている筈だ。

いつも、川澄さんの横で、 なんか怯えている
彼が浮かぶー。

俺は、今。  耳をグワッと掴まれた、

囚われた  うさぎ  みたいになってる筈だ……。

仏ラビッツが浮かぶ……。

……あのヴォーカルのねーちゃん、カッコイイ
よな。……。




『    ま、帰ったら散々虐めるとして……。  』

『   ……え  !!??   』

『  ふぅ……、……おいで。   』



先輩は、冷静な面立ちに戻れば、手を伸ばし、
俺をまた、甘ったるい気持ちに包んで、優しく
抱擁してくれた。




『 ……ん、せん、ぱい。   』

『   イツキ。俺、ー、ずっと。  』




イツキのコトが、ー、好きだった。


あの日から、ずっとー。




夢のような、台詞。

必死こいて受験勉強した、あの日。

問題が解けなくて、泣きかけた、あの日。

でも、会いに行かねばと、追いかけた、日々。




どちらかとも無く、見つめ合う。

ー先輩は、綺麗だ。

最初に会った時から、なんにも変わっていな
くて、

ー 格好、良くてー。




『   先輩……俺も、俺も好き……大好き。ずっと、
貴方に……っ……会いた、かった。  』

『  …………イツキ……。   』

『   ひゃ……ん、ぅ、……。    』




気が付けば、お互いの舌を絡ませて、
夜の薄闇の灯火の中、ー、深く、愛し、合って
いた。




ー。




灯り代わりだったゲームセンター内も、薄明かり
になる。

代わりに隣接した道路の灯火が、優しく俺と、先
輩を照らすように。

そうして、見えた星空に、中学生の頃の、俺が、写る。




ー何処にも、居場所  なんて、無かった。




帰っても、誰も居ない  静けさが   鳴り響く  家。

朝、学校に行けば、煙草の吸殻が錯乱していて。

美人の先生を  虐め抜いて悦んでる、化粧を決め
すぎた、けばったらしい、女生徒達が、したり
顔で、本物の、 悪魔、 みたいに。

夜、外に出ても、家々の明かりに、もっと寂し
くなるだけでー。

単車、走らせて。

手間がかかる、金髪の先輩の手前、

無理やり煙草の味、ー覚えて。

そう言った   "友達"   と、出歩いて。

知らない土地  の、知らない灯り  を観てる  
時だけ  が   この世で   一番、倖せ  だったー。



どっかのバーガー屋に入った時の事だ。



偶に、硝子越しに、 王子様  みたいな、年上の
お綺麗な制服を着ている高校生  が通り過ぎる
様を見ては、馬鹿みたいに笑い合っている "友達"
を横目に、遠目から、人知れず、……憧れて。

いいな、何処の高校かな、あの制服ー。

俺も、……着たい、な。



「  イツキ、何見てんのー?  」

「  相変わらず変わってんなー。 」

「    帰ったら、sキメようぜ  sー。   」

「   俺、ラリってイカれんの、好きじゃねーのよ。」



ー、早くサツにでもパクられやがれ。  

下衆   中学生  共。 ー。



「    だから、今度、な。   」



薬だのなんだのは、上手く、上手く、かわした。

でも、俺は、帰れないー。

こんな、地獄の様な  底辺に 染まってしまった、


  俺、 なんてー。


鏡に映る自分を見つめた。

だらしない着こなしの学ラン。

煙草の匂いや地に落ちた香水やらの香りしか、
しなく、て。

ブレザーを着こなした、煌びやかな男子高校生が
真横を通過する度に、まるで、生きているな
と、  言われている様  だった。




そんな時だった。




夜中のラジオでやってた、インディーズ紛いの音
楽番組で、紹介されていた1曲。

今でも忘れない。

ハードロックにシンセサイザ、クラシック
を纏わせて。



ーどうせよくある  格好つけた曲  だろう。



それは俺の杞憂に終わる。

一本目の煙草を押し付けた時。



ー嫌いじゃない……好きだ。



懐かしい響き。涙腺に響くような音律。

平和。尊厳。安らぎ。調和。曇り空からの、

……兆し。

神様にもらったような、 才能   を感じ入る、
言葉。羅列。 表現するならば。



優しさ、尊ぶ 、愛ー。



渇ききった体内に、染み入るように、俺が浮か
べた言葉は  其れ  だった。




『     ……夜、通し、泣いていた時に……聴いてた。  』

『   …………。  』




何時も。何時だって。

世界の。どのポップスなんかよりも、刺激的
で、ロックで。

それなのに。

ー、世界に愛を報せ、奏でているような、

交響曲。   優しい、愛の、神様の、調べー。




『   世界で一番……   』



ーかっこいい……よ。



先輩の掌が、また、俺を力強く、優しく、抱き
締めてくれて、俺の頭を撫でる。





「  ー、なあ、なあ!サツキ!!!この学校、
どうやって入るんだ!!?   」

「  ー、どうした、急に。  」

「    俺、……俺……っ     」




ー 生まれ、変わりたい……っ。




雑誌のインタビュー記事を観た俺は、外観や
特徴から、この作者は、あの学校にいるのでは
無いかと、確信めいた予感に胸を高鳴らせた。  唯、無心に、それに対し、意味付けできない  
直感だけ に頼り、猛勉強し、受験に合格出来た。

顔は分からない。でも、廃墟、廃校、煙突、



「   ーその、全てが、今の俺を作ってくれています。  」




蓄積する憐憫も、藍を落としていく哀しみも。




『   ー、 俺は、貴方に 、救われた んだー。   』




先輩。




哀しかなかった。何時の時も。




ーねえ、お姉ちゃん。お父さん。



何時に帰る?

時計の音。

待っても待っても、一人きりの音色。



イツキくんの家は誰も来ないの?

しょーがないよ、だってイツキんちは。



ーねえ、父さん、この模型って。


後にしなさい。


ーねえ、お姉ちゃん、今日ね……。


少しは 家の事、やっておいてよ。





……お母さん。





お母さん。なんで、居ないの?


何処、行っちゃったの……?


お母さんがくれた、うさちゃん、もう、


ボロボロ、だ……よ……。


寂しい、よ……哀しいよ、切ない、よ……。




ー お母、さん……。




 俺を   置いて、逝かない でー。






『 『   ーイツキ。   』 』




ボロボロに零れた涙を、先輩の掌が、優しく
拭ってくれていく。

同時に、その  声  が  何時か聞いた、母親の声と、

反響して、響いた。




『  ……だ……って…、だって、俺……っ………。   』




だって  って言うと、怒られた。

でも   って言うと、叱られる。

 家族   だって、  先生   だって。




『   ……バカだな、 ー 俺が、もう俺が。   』




居るだろう。  




『     ーお前は   もう、   』




   独り  じゃ、ない 。



そう言って、先輩は、俺の額にキスをした。




『    ………う………、うぅ……っ…… 。   』




夕空なんて、  


何時だって     独り   だと、死にたく なって。

母さんが消えた、寂れた  火葬場  に1人で行って。

佇んでたら。

もっと、  ー寂しく、 消えたく  なってー。





『     ーずっと、傍に居る。    』

『   …………っ………う………。   』

『    ……俺が、ずっと、傍に、  居る  から。   』




力強くて、暖かな体温。



人は人の心臓の鼓動を聴くと、安堵するらしくて。

そんな事を思い出して、優しい脈拍をそっと聴い
てみる。

トクトクとー。

暖かい、何故だろう。優しすぎて、また、
沢山   悲しみを追い出す様な、涙が零れてくる。




ー もう、独りじゃないよ。




『  …………っ………。  』




気付けば。


先輩の胸で、憧れていた人の胸で、ただ、ただ、
泣きじゃくった。

世の中は、  辛い事   で、いっぱいだー。

なんで、こんなに、泣かなきゃ、ならないんだ。

大好きな人の、腕の中でー。

……格好、悪い、だろうー。




夜風が真冬なのに、暖かい。

何故か、瞬時に 母親 の  言葉  が蘇る。




ーイツキ。



大丈夫よ。


何時か    最愛の人   に、逢えるから。

ー 母さんが、絶対に、出逢わせて、あげる 。

だからー。

ー、何時も、傍に、居るからね。

見守っていて、

あげる、からー。




『  ……っ  死に際の、台詞、が、それかよ……っ。

だったら、死なないで……っ……傍に居てくれよ…

………おかあさん……ッ……。   』




俺は人生で初めて、大好きな母さん  に  出来なか
った、もう付けなかった悪態   を、ついた。

最愛の人の腕の中で、悲しく、優しく、  哀を、


  愛   を、  叫んで  。







⋆***






『    ……………、…。   』

『   …………落ち着いたか。   』

『   ………………は、……ぃ……。   』



先輩は、ずっとずっと、俺を抱き締めながら、
頭を撫でて、くれていた。

疲れただろうに。 力ない心で、先輩に  ありが
とう  と、想った。


ー、あったかい。


泣きじゃくりすぎて、頭がぼうっとする。




『   ……俺みたい。    』

『   ……え。   』

『    ずっと、よくそうやって、   』




俺も、泣いていた、から。




どきりとすると同時に、胸が、傷んだ。

だって、先輩も、誰かに、こうやってー。




『    ……せ、先輩も、誰かに、こうされた事、  』




あ、ある、の。


俺の聞き方は、ふてぶてしかったかも知れない。





『  ……あるよ。  』

『   ………………。  』

『   ま、もう死んじまったけどな。   』

『  ……えっ……!!?   』

『 ……ふふ、妬いてんのか? …かわいー奴。   』

『   えっ……い、いやべつにおれはそんなっ。    』




うおおおお……また俺の気持ちを先輩はさらりと
読心貴族……っとかなんとか、必死にかなぐり
考えて、誤魔化すも。




『    ……ピアノのせんせえ。    』

『   ー。  』

『   見かけねえし、ずっと留守だったから、勝手
に入って探したら、血だらけの風呂に手首入れ
て、……死んでた。 』




ー自殺。




俺は、固まってしまう。




『  ………先輩は、その人の事……。  』

『   ……好きとかじゃ、なかった。ただ、
優しいなって。   』

『  ……。  』

『   何処にでも、転がってる話、だ。   』

『  …………ズルいよ、その人。    』

『  ……?    』





俺は嫌われるのを覚悟で先輩に、言い放った。




『   ……死んだら、永遠だ。その人の魂に、
きっと、まとわりついて、……離れない。   』




ー、母さん、みたいに。

父さんも、あの頃から、あまり口を聞いてくれ
なくなった。




『    だって、……嫌だ。   』




……俺。最低だ。


みっともない。

死にたくて死んだんじゃない死者を、愚弄した
くなんかない。

でも、先輩に、ずっと、思い出させてるのって、

なんか、違うだろ。

それに、先輩にはー。




『   ……ッ……お、俺、帰ります……。   』

『   ……。イツキ。   』

『   …………、…。   』

『  ……………ぶ、あははは!!!  』

『    な、なに……笑ってんですか!!!    』



振り向けば、先輩は、俺の少し後ろで、初めて
お腹を抱え( すぎ ) て、笑っているー。




『   ……め、めっちゃ、妬いてるし!!!!!  』

『 ……ッッ!??……だぁって…!!??    』



な、なんで皆、俺をからかったり、笑ったり
するんだよ……!

ま、真面目に話してるのに……っ!!!

先輩は、十歩ぐらい遠い俺に近づいてきて、

不敵な笑みを、浮かべる。

端正な顔が、この世のものとは似つかわしくない
ぐらいに  綺麗すぎ  て、悪魔の様、だった。

俺の手首を引っ張って、自分に引き寄せた。




『   ……なぁ。  』

『    ……!……     』

『    俺が、そんな  変  な、人生に負けたヤツ  に、
惑わされるとでも、本気で、思ってんの……?   』

『  ……そんな、言い方……ッ……。   』

『  ……  負けたヤツ  だよ。    』

『     ん!…ぐ…っ、     』

『  …………ん、……イツキ………。   』




深い。息が出来ない。

荒っぽく舌が捩じ込まれて。1分位立って、
ようやっと、離される。




『    …………は、……は、ぅ、……ぐ…っ……。   』

『  ……ん、負けてない、……一生懸命生きてる、  』




ー お前が、好き。




『     不器用でも、…は、……一生懸命生きてる、
お前が、   』




ー 俺は、世界で一番、好き、だから。




キスと涙の嵐で、もう溶けそうだった。

身体が愕然として、震えて、熱くて、蕩けて。

気持ち良すぎて、それが、もはや  恐怖  だ。

意識が、朦朧と、する。





『   ……や、や、……っ……め……。   』

『    解った ?……ほら、解りましたゴメンなさい、ハルキお兄様、申し訳ありませんでしたぁ って、
言え  よ。   』

『     二度とやりません、ゴメンなさいって、……
泣けよ。ほら、…やれ。  』





ー怖い。




『   ……っ……う、うえぇえん…………。   』

『   …………ふふ。   』

『 ……せん、ぜんぱい、ごわぃいいぃ……!   』

『    ……よしよし、……いじめ過ぎたなー。もう
お家に帰ろう、なー。   』

『  びええええ……!!!!   』

『   はーい、はい、赤ちゃん、可愛いですねー。  』



ドS悪魔とは……先輩の事かもしれない。

気付けば俺は再び泣いていた。



でも、  抱っこ  されて、また、気づく。



ーあったかい。




『    うぅ……せ、せんぱい、ま、待って……。   』




大好きで、大嫌いだった、夜の帳に初めて誓い。

俺からの、愛を謳うだろう キス を、 初めて  
大好きな人に、落とす。




『   ……ん…、…。  』

『    ……っ!?   』

『  …………は、……。  』

『   ん……、こ、こら……おいっ……。  』




額に。頬に。口許に。

あんなに、恐ろしく  " 見えた "   のに。

恥ずかしそうに、困ったように、悔しそうに、

こちらを向く先輩が、可愛くて、

愛し、かった。




『  ……せ、んぱぃ、俺のこと好き?   』




唇を、気持ちの儘、不器用に。

沢山、沢山、啄んだ。




『  ……当たり、前……だろ……っ……。   』




照れたような、溶けた眼差し。

瞳と瞳が見つめ合って。

どんどん、甘ったるく、けれど、たまに悪戯に
笑いあって、啄み合う。




『   ……何億年、離れたって、は、愛してやるよ。   』

『   ……ん、ん……っ……。    』





神様は、居るのだー。




愛と哀はきっと对だ。悲しみの先には、必ず、
優しさに。

挫けなければ、きっと、

愛在る人に、出会える筈だからー。




ー、生きてさえいれば、必ず、きっと。




『  ……先輩、せんぱ、い、……は、、……っ。  』

『  ……愛して、る。イツキ。だから、もっと、舌、は、……奥に。   』



ー入れろ。



『  ………あ、ぅ、っ……俺も……は、ふぇ、んぱ
い、せ、ぱい……ずっと、大好き、です。……
ハルキ、せん、ぱ……。    』




もう、明け方、近い。

甘すぎを賭したような、色めき合う口付けが、
相変わらず、息も絶え絶えに、止まない。

優しい水色と光を灯した空が、神様からの  福音  みたいで、綺麗 だった。


けど。


……朝の茜空に映える先輩の美麗な顔立ちには、
きっと、敵わない。

愛情の与えあいの、余韻が、募る。

たまに、甘噛み  し合いながら、吐息を荒らげ
て、見つめ合う。

お互いを独占し合うように、貪り、啄みあって。

霞みゆく星々が羨むぐらいには、先輩にもたれ
かかって、抱き締められ、頭を撫でて貰った気
がした。




一人じゃないよ、イツキ。


俺が居るから、


ー、だから、もう、


もう、ー 泣くな。




吐息混じりに言ってくれる  愛の囁き  が、擽ったくて。

恥ずかしくて、優しくて、またその  ラヴソング  に、瞳を潤ませて、微笑んだ。

ずっと抱いていた  うさちゃん  は、ぽっきぃを
持って、先輩のバイクから、相変わらずこちらを
見ていた。

慈悲深い、" 優しい瞳 " で



そう。


見守るように。



泣いた日には似つかわしくない、優しい瞳で  

微笑んで いて、くれた ー。





風が吹く。水色の空に、鐘の音みたいな、透き通る、声。




ー イツキ。




『  ……あ……。  』

『   どうした?  』

『  ……ううん、……先輩、大好き、だよ……。 』


俺は先輩を見て、青い空を見上げる。


大好きだった   優しい母さん  の声  が、聴こえた
ような、気が、した。




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