マンガの紹介・感想を自由に書いていく(その8:「ぼくらのへんたい」)
この記事では、好きなようにマンガを紹介したりその感想を書いていきます。
作品の新旧に関わらず、その時紹介したいものを紹介します。
今回は1作品だけ紹介します。
ぼくらのへんたい / ふみふみこ(全10冊)
◆どのような作品か
それぞれの理由から女装をしている3人の男子を主役とした恋愛群像劇。
まりか(青木裕太)は心と身体の性別の不一致から、ユイ(木島亮介)は姉の死をきっかけとした家族の異変から、パロウ(田村修)は恋した相手との歪んだ関係から……事情は各々違えど女装という行為でつながる3人の思春期の少年は出会い、様々な想いが交錯していく。
◆ポイント
3人の女装男子とその周囲の人間による愛憎や思春期ゆえの葛藤を描いた少々変わった設定の恋愛マンガです。
(なお、あくまで"恋愛マンガ"であってラブコメではありません)
設定の特殊さにも目を惹かれますが、それ以上に本作品を決定づけている要素として、各人物が抱える非常な境遇を背景にした少年期特有のアイデンティティの不安定さや変化をエグい程に緻密に描写している点が挙げられます。
始めこそ主役の3人は自分の状況を受け入れることもできず、周囲とも衝突やすれ違いを繰り返すかなり未成熟な印象の人物です。しかし、作中で異なる価値観を持つ人物と触れ合ったり、あるいは同じく女装をする他の主人公の存在を通じて自己を再確認していくことで、まるで幼虫がさなぎを経て蝶へと成るように一人の人間として"へんたい"をしていく様が描かれています。
なお、特に作品前半は鬱屈した雰囲気の漂うどろどろとした雰囲気の作風で、かつ割と生々しい性描写もあるという点は留意しておくとよいと思います。
また、人物の内面描写としてスピリチュアルな表現(故人の幻覚や"前世の記憶")が出てくる点も初見だと戸惑うかもしれません。
特に1巻の後半にあるパロウのエピソードは非常に難解な内容となっていますが、このパロウが話す一連の内容については物語が進むにつれて後出しで重要情報が補完されていくようになっています。要するに、ここは初見で理解できなくてもあまり気にしなくて大丈夫です。
ちなみにタイトルの"へんたい"は昆虫の成長過程を説明するときの変態(metamorphosis)と性的な意味合いでの変態(pervert)のダブルミーニングとなっています。
◆もっと詳しく
ここからは、主役の3人を中心に登場人物の説明をしていきます。
まりか(青木裕太)は主人公の1人で、この作品のメインの主人公と言える立ち位置の人物です。第1話時点で中学に進学する直前と若く、身体は男子ですが精神性や思考は純真な乙女そのものです。そして純真ゆえに同じ女装をする男性でありなから大人びた魅力を持っているパロウに一目ぼれします。
本記事では説明の都合で"女装"という表現を多く用いていますが、まりかにとっては女性の姿をしているのが本来の姿で普段は「男装している」と自認しています。
そんなまりかですが、中学進学後はパロウにいろいろと振り回される中で男子としての心身の発達の時期も重なり、かなり辛い思いをすることが多くなります。作品中盤では中二病かなりトゲトゲしくなったりとまりか自身の人間性も大きく揺さぶられます。
しかし多くの困難を経た先で、まりかは作品全体で見ても非常に印象深い大きな"へんたい"を成します。詳しくは是非実際に読んでいただければ幸いです。
主人公の1人である亮介(ユイ/木島亮介)は、姉の死をきっかけに崩壊した家庭の中で気を病んだ母親を慰めるために姉の変装をしている男子学生です。言ってしまえ亮介は初めから限界に等しい境遇に陥っているのですが、しかし学校生活など家庭から隔たれた環境では家庭の異常を悟られぬよう取り繕って(取り繕えてしまう、ともいう)過ごしています。
なお亮介にとって女装は"家庭環境における役割の遂行"でしかなく本人としては普通の少年らしく振る舞うことを望んでいます。ゆえに自ら女装に勤しむまりかやパロウに対しては怪訝な態度を見せることもあります。
そんな亮介ですが、家庭と学校で異なる人格を演じる生活で消耗する中でクラスメイトの女子・蜂谷と交際をしたり一方でまりかに情緒を揺さぶられたりと、思春期の渦へ飲み込まれていくことになります。
主人公として最後に紹介するのがパロウ(田村修)です。パロウは3人の中で一番の年長者で女性服の購入やメイクなど"女装"に関する知識にも富んでいるのですが、一方でまりかの好意に気づきながら弄ぶような言動をとったり、中学時代の先輩とただれた関係性を持っていたりと不健全な気質を多分に有する人物となっています。パロウはユイに対して好意を抱いていますが、その経緯もかなり歪んでいるといえます。
本記事ではあまり深入りしませんが、パロウはこの作品において最も根深い闇を抱えています。客観的いえばただの危険人物とも捉えられるパロウのキャラクターですが、セフルネグレフトのような様態に陥っている彼の"へんたい"もこの作品の大きなテーマのひとつです。
ここまで主役の3人を詳しく紹介しましたが、本作品には裕太(まりか)の幼馴染で唯一の親友であるあかねや主役ではないものの4人目の女装男子として登場するトモちをはじめ多くの登場人物が物語に深く関わっていきます。
本作品は2015年前後に連載された作品ですが、性的少数者についての社会的な関心が高まりを見せている昨今において改めて注目に値しうる作品ではないかと思っております。
(当然ながらフィクションである、という前提においてですが)
締め
今回は1作品、「ぼくらのへんたい」を紹介させていただきました。みなさんのマンガ選びの参考になれば幸いです。
マンガ紹介の記事は以下のマガジンにまとめられています。
よかったら是非他の記事もご覧いただければと思います。