斜陽(著者:太宰治)
敗戦後、元華族の母と離婚した“私”は財産を失い、伊豆の別荘へ行った。最後の貴婦人である母と、復員してきた麻薬中毒の弟・直治、無頼の作家上原、そして新しい恋に生きようとする29歳の私は、没落の途を、滅びるものなら、華麗に滅びたいと進んでいく。(Amazon内容紹介)
「斜陽」は、没落していく貴族の生活を描いた作品だが、その様相は暗さの中に耽美的な美しさを感じさせるストーリーである。その象徴的な場面が、主人公・かず子を通して描かれるお母様の姿だろう。まず、作品の冒頭では、お母様がスウプを飲む姿を描いているが、その姿が何とも上品で美しく、それ以降も、放蕩息子・直治を思いやる姿、娘・かず子を慈しむ描写は印象的である。また、物語が終盤に差し掛かっていくと、今度は、「人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ」とかず子が心中で喚起したフレーズをテーマに物語が進んでいく。そこには恋に焦がれた一人の人間としての生き方と、自身の意思を貫き通すかず子の強さが感じられる。本作は、母と娘の慈しみある物語でありながらも、そこには太陽が傾き始める「斜陽」の如く時代の移ろいと悲しみを滲ませたストーリであった。
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