見出し画像

Do you know Mamo Kawakami?-イラストレーター マモ川上-

vision trackでは昨年、見る人の「心を動かすイラストレーター」との新たな出会いを求めて、「vision track所属イラストレーター / 公募プログラム」を実施しました。選考基準は「自分にしかない『らしさ』を起点にしながら、多くの人の『好き』に応えられること」。300名以上の応募者の中から7名のイラストレーターが所属に至りました。
より多くの方に7名の魅力をお伝えするため、1名ずつインタビューをお届けしています。
第5回目にご紹介するのは日本出身、ロンドン在住のイラストレーター、マモ川上さん。デザイナーを経て海外の大学でイラストレーションを含む様々なクリエイティブを学んだ経験から生み出されるのは、シルクスクリーンやリソグラフなどの印刷技術をベースとした、アナログ感とポップさが絶妙なイラスト。特徴的なデフォルメとカラーリングの作品で、アートディレクターや同業イラストレーターからも一目置かれる存在です。
今夏渋谷ヒカリエのショーウィンドウにも作品を提供したマモ川上って一体何者?ベールに包まれた素顔を探るインタビューになりました。
ぜひ最後までお楽しみください🐢


パンデミックをきっかけにイギリス・ロンドンへ

ー現在はロンドンに在住されていますが、今に至るまでの経歴を教えていただけますか?

小中学校の時は所謂「クラスの絵が上手い子」という感じで、友達と漫画を描いたり、遊戯王カードを描いたりしていて、その頃から絵を描くのは好きでした。
その後大学を出てグラフィックデザイナーとして就職。デザイナーをやっていた時は文字情報がメインの仕事でしたが、正直そちらより絵作りの方が自信がありました。
また最初に入った会社で社長に「君には突出したものがない」と言われてしまい…色々できるけれどこれという強みがない、と。それは結構大きな衝撃で、ずっと自分の中で課題として考えていますね。
そんな中でこれなら自分にできると思って取り組めたのがイラストでした。

ーそんな挫折も感じながらロンドンに向かったのは、どんなきっかけがあったのですか?

きっかけはコロナ禍になったことですね。
なんとなく20代のうちに海外に挑戦したいとはずっと思っていたところにパンデミックが起こり、何が起こるか分からない中で「今やらないとダメかも」と思ってすぐに行動に移しました。

ーその時期に海外に行くことに不安はなかったですか?

逆に当時は世の中もすごく混沌としていたので、「周りと違うことをしている」みたいな不安がむしろ中和されて思い切れたところがあります。
当時やっていたバンドがコロナ禍で解散したりもあったので、コロナがなければそれが続いていたのかもと思いますし、自分の性格上、パンデミックがなかったら踏ん切りが付かず、海外には行っていなかったと思います。

ーロンドンでは大学でイラストレーションを専攻して学ばれましたよね。思い切って実際に行ってみていかがでしたか?

この春ロンドンの大学を卒業して、まだすべてを客観視はできていないのですが、もちろん行ってよかったです。
なかなか言葉も通じない中で人と出会ったり制作をしたり、そういった生活を過ごしたことそのものに意味があったんじゃないか、と。細かいことをあまり気にせず目の前のクリエイティブに没頭できましたし、日本にいるより制作にも自分にも深く向き合うことができたと思っています。

イラストレーターとしての最初のステップを、vision trackと共に

ー今回、vision track所属イラストレーターの公募にご応募いただき、トライアルプログラムを経て所属いただくことになりましたが、今どんなことを感じていますか?

エージェンシーという存在やvision trackはデザイナー時代から知っていました。ちょうど今後の活動を考えて色々なところにポートフォリオを送っているタイミングで所属イラストレーターの公募を見て、チャレンジしてみることに決めました。
所属が決まるまでのトライアルプログラムがとても思い出深いですね。プログラム中は学生時代ぶりに全員で1つの課題に取り組んだり、それをお互いに講評し合い、そして実際の仕事に向かっていく同志と出会えたというのが本当に嬉しかったですし良い経験になりました。
所属してからはロンドンにいながら少しずつ日本のお仕事もさせていただいて、vision trackにはイラストレーターとしての最初のステップを一緒に歩んでもらっている感じがしていて、すごく感謝しています。

緊張とやりがいの渋谷ヒカリエウィンドウ

渋谷ヒカリエ ショーウィンドウ

ーまさにそのトライアルプログラムで、実際の案件を想定した共通課題として取り組んだことがきっかけとなり、渋谷ヒカリエのショーウィンドウのアートワークのお仕事が実現しましたが、いかがでしたか?

ウィンドウのように大きく展開される仕事は初めてだったので、緊張しました。今回はウィンドウ掲出のタイミングで向かいにオープンする「渋谷アクシュ:SHIBUYA AXSH」と絡め、「握手」を重要なモチーフにするというテーマもあり、渋谷にできる新施設ということで世界中の人が集まる場所になるという部分はすごく意識しました。明るく楽しい空気感やユニバーサルな雰囲気を出せるように自分なりにたくさん考えて、難しくもとてもやりがいを感じましたね。

ーそれこそ海外の方もたくさんいらっしゃると思いますし、見た方の反応も楽しみですね。

そうですね。ギャラリーに飾られる作品とは違うので、基本的には前を通り過ぎて行くものだとは思うのですが、通りがかった人や休んでいる人がふと目にした時にちょっと気になる、そして明るい気持ちになれるような作品にできたらと思いながら制作したので、ぜひ多くの方に見てもらえたら嬉しいです。

限られた色数で表現するリソグラフの模索

ー普段の作業機材や制作スタイルについて教えてもらえますか?

基本的にはPhotoshopをメインに使っているのですが、手描きしたり紙を切ったものを取り込んだりしながら、アナログとデジタルを行き来して制作しています。

ーマモさんの作品はリソグラフの質感が特徴としてあると思いますが、好きな部分やこだわりはありますか?

リソグラフでは簡単に版を作れて基本的になんでも擦ることができます。シルクスクリーンは版を作るのが大変な代わりに大きいものができるなどメリットがありますが、リソはとにかく参入障壁が低く色々試せるのが良いなと思っています。
高画質なものではなく色数も限られる中で、ハイテクじゃないものを使いながら「工夫で良いものができる」というのがリソの面白み。DJがターンテーブルの違う使い方でヒップホップを生み出したみたいな感じですよね。その面白みを感じながら応用や発展を模索しています。
また、リソは日本では昔からある機械でレトロなイメージを表現するのに使われたりもすると思いますが、海外の人には新鮮な印刷技術の1つとして見られていると思います。イギリスで制作しているとそのあたりの感覚が違うのも感じますね。

クライアントワークは「一緒に作っていきたい」

COSTA COFFEE

ークライアントワークでラフを出すときはどのような感じですか?

ラフも基本的にはPhotoshopですが、手描きの時もあったり案件によって様々です。仕上がりが想像しやすいようにできるだけカラーで出すようにしていますが、自分の中ではラフの時点であまり固めすぎないように気を付けています。クライアントさんのご希望も伺いながら、ラフに要素を足したり削ったりして完成に近付けていくスタイルです。

ー確かにマモさんのカラーラフは印象的にはかなり完成データに近い感じで、クライアントさんからすると完成が想像しやすいと思います。
他にもクライアントワークで意識していることはありますか?

ちょっとした引っかかりを残せるようにしたいとはいつも思っています。
制作の中で面白い形を見つけたり偶然を楽しんでいるところもあって、要望に応える部分と形としての面白さやズレをどう両立してどう伝わる形にできるか?と考えていますね。例えば、りんごの描き方1つとっても色々な表現の仕方があって、みんなが知っているものを新しい視点から見れるところがイラストレーションの良さだと思っていて。
自分としてはクライアントさんと一緒に1つの作品を作っていくという感覚があるので、自分の表現をしつつクライアントさんにもディレクションいただくことで作品がブラッシュアップしていけると嬉しいなと思っています。

映画と音楽と哲学と

So Young Magazine

ーマモさんは自身が主宰する雑誌「Chew」のテーマにしているくらい映画や音楽などのカルチャーもお好きですよね。イラスト以外に好きなものについて教えてもらえますか?

映画、音楽、ファッションなどはずっと好きですが、最近は哲学にもハマっています。映画や音楽のようなポップカルチャーを追っていくと哲学の話が出てくることが多くて、例えばトム・ヨークのインタビューにチョムスキーみたいな哲学者が出てきたり。そういうところで前からかいつまんだ知識はあったのですが、一度おおまかに歴史をさらってみようと思い、『フランス現代思想史』と『英米哲学史講義』を読んでみました。
フランス現代思想史はおそらく内面やイマジネーションについて語っていて、英米哲学史講義はずっと合理的な部分について語っている感じがあって。詳しい人にとっては深いところで繋がっているんだろうけれど、同じ哲学でも思弁と合理で全然違う視点で相反する話をしているように感じて面白かったですね。

ー好きなカルチャーへの理解を深める過程で哲学にも興味が出てきたということですね。

そうですね。それにイラストレーションはコミュニケーションでもあるので、どう伝えるか、何を伝えるかという部分で哲学と通じる部分もあり興味が出てきたというのもあるかもしれません。
服は自分の好きなものを着るのも好きですが、好きなものを着ている人を見るのも好きで、音楽も同様にライブに行ってその音楽を楽しんでいる人がいる空間というのが好きですね。音楽はリスナーやファンのような憧れの対象というよりも最近は作る側、仕事として近付いてる感じがあります。
音楽や映画で好きなものを具体的に言うと、音楽ではフェイ・ウェブスターの歌詞も曲も服も雰囲気も含めて全部大好き。彼女はレイドバックしたインディーロックですが性急でエネルギッシュな音楽も好きで、そのどちらの音楽にも救われています。
映画では最近観たルカ・グァダニーノ監督の最新作『チャレンジャーズ』が面白かったです。設定も全く違いかなりコメディに近くて笑えるけど、『君の名前で僕を呼んで』に近いバイブスを感じるところが好きでした。

仕事を通じて出会う新たな自分を楽しみに

ー今後チャレンジしたいお仕事はありますか?

来年7月にロンドンで個展を開くことが決まったので、それをしっかりやり切るのが直近の目標です。
クライアントワークでは音楽アートワーク、キャンプやアウトドアの仕事、それらが合わさったフェスの仕事や本の装丁など、自分が好きなことに関わるお仕事ができたらすごく嬉しいなとは思いますね。
ただ、クライアントワークは自分の知らないところに連れていってくれる側面があるので、ジャンルを問わずどんどん新たなことをやっていきたいです。

ー最後に、3年後の自分へ一言お願いします!

とにかく一生懸命、がんばってください!

展示風景

インタビュー後記

インタビューのタイトル「Do you know Mamo Kawakami?」は、私達が初めてマモ川上さんと出会った時に感じた「この人は何者なんだ?」という印象をそのまま表しました。応募していただいた段階ではロンドン在住で活動しているという以外の情報がほとんど無かったこともあり、その特徴的な名前と、自由なフォルムで描かれたモチーフたちがコラージュされた作品が際立っていました。
グラフィックデザイナーの経験から、より玄人好みなスタイルであり、おそらく他者との共創で進化をされていくようなイラストレーターであることは間違いないです。今回のインタビューではその一端を知っていただけたのではないかと思います。


【マモ川上 プロフィール】
群馬県生まれ、ロンドン在住のイラストレーター。
日本国内でグラフィックデザイナーとしての勤務を経て、ロンドン芸術大学キャンバーウェル校を卒業。 シルクスクリーンやリソグラフなどの印刷技術をベースとしたポップな作風が特徴。これまでにイギリスの音楽雑誌〈So Young Magazine〉やコーヒーチェーン〈Costa Coffee〉などの企業にイラストレーションを提供している。 自身が主宰する雑誌〈Chew〉では、音楽や映画などのカルチャーを、言葉とイラストレーションで記述する活動を行っている。

<マモ川上に関するお問い合わせはこちらまで💁‍♀️

写真:RYO
インタビュー:光冨章高(vision track)
編集:増山郁(vision track)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?